214 不思議な少女


 書物を探している時に奥の方に人がいるのに気がついた。

 フリルのついた緑のワンピースの女の子だ。こんなところで何してるんだろう?

 ここは神殿の図書館なので、神官以外はいないはずだ。


 特に本を読んでいる様子はない。ただぼーっと前を向いている。


 俺は気になって声をかけてみた。


「何をされてるんですか?」


「、、、見えるの?」


「何をいってるんですか。こんなにはっきりしているのに。ワンピースも可愛いですよ」


 女の子は驚いた顔をして聞き返してきた。

 こんなにくっきりと見えているのに、見えないとはどういうことだろうか。


 女の子はパッと笑顔になって俺の腰に抱きついてきた。衝撃に備えたが、軽い。ぶつかった感触はあったが、ほとんど体重を感じなかった。


「君はここで何をしてたの?」


「、、、何にも?、、、ただ、、、いただけ」


 話し方が独特だ。


「じゃあなんでここに居たの?」


「、、、わからない、、、でも、、、ずっと、、、ここにいる」


「食事とかどうしてるの?」


「、、、いらない」


「そんな訳にいかないでしょう。ほら、これでも食べなさい」


 俺は保存食を出してあげる。

 でも女の子は首を振って受け取らない。


「、、、名前は?」


「俺の名前はジンだよ。君の名前は?」


「、、、わからない」


 記憶喪失とかだろうか。しかし、食事がいらないってどういうことだ?


「、、、名前、、、つけて」


 俺が名前をつける意味がわからない。でも呼び名が無いと不便だ。


「じゃあ、とりあえず、君のことはファウと呼ぶね」


「ん、、、名前、、、ファウ」


 その瞬間ファウは光を発し、俺との間に光の線ができた。攻撃かと一瞬警戒したが、違う様だ。


 光が治ると彼女の姿が消えていた。


「ファウ?ファウ?どこだ?」


 返事がない。今の光でどこかに転移でもしたのだろうか。俺に光が伸びたのもよくわらからない。

 図書館の中を一通り見て回ったが、どこにもいない。

 司書の人に少女の事を聞いてみたが、今日は俺以外にこの図書館を使っている人はいないらしい。


 俺は不思議に思いながらも見つからないなら仕方ないと、背表紙のタイトルを頼りに面白そうな本を探した。




 本を探して読むだけで1週間かかったが、特に新しい情報はなかった。

 セルジュ様はその間に教義について問答していたそうで、教義の解釈が違ったりして面白かったそうだ。

 何でも、神の言われた言葉は同じものが伝わっているのに、それを宗教の儀式とする時点で、違う方法をとるものがあるそうだ。どっちが正しいというものではないらしい。


 <神託>が違う神様からの言葉なので、表現は違うようだが、どちらも人の危機に対して助言されるところは一緒だそうだ。

 あのジジイ、もとい創造神様がそんなに人のことを見てるようには思えなかったんだが。

 誰か他の神が創造神のふりして<神託>してると言われた方がしっくりくる。


 直接会った俺だけの感想だろうか?

 教皇様は真面目に信じているので、俺からは何も言うことはないが、俺ならジジイ、もとい創造神様を信仰はしない。



 俺は図書館に満足したので、外に出てみたかったのだが、人間が街に出ると騒ぎになるのでやめてほしいとお願いされた。

 馬車で移動する分には外から見えないので構わないが、降りるとすぐにわかってしまうので、困るとのこと。


「獣人の方もいろんな方もいらっしゃいますし、簡単にはわからないのでは?」


「いえ、ほとんどの獣人は匂いに敏感です。嗅ぎなれない匂いを発しているあなた方は注目され、獣の匂いのしないあなた方は獣人ではないとバレるでしょう。

 正式に国から発表があれば問題ないのですが、現状は控えていただけると助かります」


 なるほど。獣人は匂いに敏感なのか。動物の特性を受け継いでいるのだろうか。それに獣人特有の匂いってあるんだね。でも人間の匂いを知らなければバレないと思うんだけど。獣人以外には排他的なんだろうか。


「いえ、人間の匂いがわかる訳ではありません。ただ、獣の匂いがしないものは外国人だと認識されます。

 獣人国はそのまま獣の人の国であり、例えばドラゴニュートなどは知恵もあり、会話も通じますが国民と認めておりません。

 ただ、国民として認められていないだけで、多少の交流はあります。わずかな商人が行き来しているだけですが。

 別に獣人じゃないから攻撃されるとかはありませんが、目立つのは避けられません。

 混乱を避けるためにもご協力お願いします」


 そこまで言われたら街に出る訳にもいかない。俺はあてがわれた部屋で魔力の訓練をしていた。


 旅の途中で思いついたのだが、毛細血管まで循環を回す訓練をしていたため、後回しにしていたものだ。


 魔力を綺麗に循環させるのではなく、一部、例えば指先だけ圧縮してそのあとは普通に循環させるという、一部だけの圧縮を試していた。

 魔法を放つ瞬間だけ魔力を圧縮すれば、それだけ強い魔法が放てるだろうと考えたからだ。


 結論から言うと、この訓練は成功だった。威力の確認は流石に出来なかったが、魔法のレベルが2つも上がっていた。


 それと不思議なことに<精霊魔法>が5つ上がっていた。何かあったっけ?



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