216 国王陛下
俺とセルジュ様が王宮に招かれた。
俺が神に選ばれしものという報告がいき、改めて挨拶がしたいということだ。
兎人族のメイドさんに案内されて、豪華な扉の前にきた。
セルジュ様を先頭に入ると、虎人族の獣人がいた。晩餐会でも見たが、国王だ。近くで見ると体が大きい。2メートルは超えてるんじゃないだろうか。
俺は騎士風に跪いて頭を下げる。
「よくぞ来られた、人族の巫女よ。余はラグランジェ王国の国王、アキレス・フォン・ラグランジェだ」
アキレス様は右手を左肩に添えて軽く頭を下げた。王様が頭下げてもいいのかな?
セルジュ様もスカートの裾をつまむようにして頭を下げる。
「イングリッド教国で聖女を務めております、セルジュと申します」
「それで、そなたがジン殿か?」
「はい、ザパンニ王国で冒険者をしております、ジンと申します」
顔を上げて答える。
「ジン殿、そなたは教会の認めた聖人だ。跪かなくても良い」
聖人って、いつからそうなった?
「立っていては話もできん。座って話すとしよう」
そういって、ソファーを勧めてきた。
俺とセルジュ様は並んで座ったが、アキレス陛下の体がゴツくて緊張しっぱなしだ。あれで襲われたら魔法使う前に殴り倒されそうだ。
「それで、ジン殿。神の試練について聞いても良いか?」
「申し訳ありません。それは言えません」
レベルの概念がないのにレベル上げの話しても信じてくれないだろうしね。大っぴらに言うことでもないし。教皇様も気を使って聞かなかったのに、アキレス陛下は聞くんだ。
「そうか。神の試練だし、仕方がないか。
では聞き方を変えよう。神の試練は我が国に関係はあるのか?」
「特に国に縛られた試練ではありません。王国にも迷惑をかけるつもりはありません」
アキレス陛下はホッとしたようにため息をついた。
「それは良かった。王として確認しておかなくてはならんでな。不躾な質問をしてすまなかった」
「国として当然の対応かと思います。それで、陛下にお願いがあるのですが」
「なんだ、言ってみよ」
「王都の外に出たいのですが」
「ふむ。構わんと言いたいところだが、今すぐに許可を出すわけにはいかんな。まだ使節団との交渉の最中だからな。一通り交渉が終わったら許可を出そう」
「わかりました。ありがとうございます」
面会が終わったあと、王宮に滞在するか尋ねられたが、教会で部屋を借りているので大丈夫だと答えた。
馬車で教会まで戻り、リリア達と合流した。やっとくつろげる。
「メアリー、忘れてたけど、お前も王女だよな?使節団と一緒に顔を出さなくても良かったのか?」
「今更言いますか?私はジン様についていくと決まった時点で、公的な仕事からは外されています。なので、向こうから接触してくるならともかく、私が代表団に入ることはありません」
「そうか。別に行ってもいいんだぞ?」
その間にどこかに行くかもしれないけど。
「大丈夫です。国元に戻ればともかく、この国ですることはありません」
俺は与えられた部屋で魔力循環の練習をしていた。毛細血管まで魔力を行き渡らせ、瞬間的に一部に魔力を集中させる。出来るだけ滑らかに行えるように、何度も繰り返す。
最初のうちは制御に失敗して、毛細血管から血が出たりしていたが、最近ようやくそう言う失敗はしなくなった。しかし、動きながらだと難しいので、普段は今まで通り動脈だけで循環させている。
教会にも騎士団があるらしく、訓練場があるとのことなので、借りることにした。
訓練場にいる騎士団は主に狼人族だった。種族によって得意不得意があるので、同じ種族で一つの部隊を形成しているらしい。
隅っこの方で体を動かす。
クレアとマリアも横で体を動かしていた。ずっと馬車だったから鈍っているはずだ。
メアリーとリリアは日陰で訓練を見ているだけだ。一緒に身体動かしておいて方がいいと思うよ?
魔力を毛細血管まで循環させながら格闘技の型を一通りなぞる。今の魔力の循環の仕方だとそれだけで難しい。慣れるようにゆっくりと型を繰り返す。時々毛細血管から血が出ているが気にしない。
俺は突きの時に、拳に魔力を集中させてみた。拳が血だらけになった。まだ無理のようだ。
循環に慣れるために訓練場を走ることにした。基礎体力をつけるためと循環に慣れるためだ。騎士団の人たちがたまに不審げな視線を向けてくるが無視だ。無視。
一通り訓練を行なったあと、毛細血管を<神聖魔法>で治癒する。早く体を拭きたい。傷は直せても流れた血は残っている。服も着替えないといけないだろう。
訓練場を出ようとしたら、入り口付近にセルジュ様がいた。
「ジン様、<神聖魔法>を使えたのですね。さすがは神に選ばれしものです」
俺が<神聖魔法>を使うところを見ていたらしい。<神聖魔法>も大きな魔法を使うと光ったりするので目立つが、毛細血管を塞ぐくらいならそんな心配もない。なのでバレないと思っていたのだが。
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