211 晩餐会
謁見は挨拶のみで、国王から滞在を許可するという言葉をいただき、終了したそうだ。
とりあえずは安心かな。
問題の舞踏会の時間になった。
俺たちは国王の前に会場入りすることになっている。
俺の礼装はちゃんと着れているだろうか。
メアリーは青を基調としたイブニングドレスだ。胸元には大ぶりなネックレスをつけている。
リリアは黄色を基調にしたドレスで、胸元の広いものだ。開けすぎじゃないだろうか?あ、俺があげたネックレスつけてる。ちょっと嬉しいね。
獣人の方の正装は色々だった。女性はドレスなのだが、裾から尻尾が見え隠れしている。
男性は、正装は正装なのだが、尻尾はお尻から出ているし、そのせいか、燕尾服のようにお尻まで隠す服を着ている人はいない。尻尾の短い種族はどうしてるんだろう?
国王が入場するまだ時間があるという事で、俺は積極的に獣人の人に声をかけていた。何か情報が集まればと思ったからだ。
会う獣人が全て俺の黒目黒髪を褒める。確定ではないが、黒目黒髪は珍しいのだろう。女性などはウルウルとした目で見てくる。獣人には黒目黒髪がいないので珍しいのだろうか。
聞いてみると、古代王国時代の賢王が黒目黒髪だったらしく、それ以来、黒目黒髪はステータスとされているそうだ。獣人の中でも黒髪に染めたりするのもオシャレとして存在するそうだ。黒狼族という魔物もペットとして人気らしい。
国王が入場し、壇上に上がると、簡単な挨拶の後、開会の宣言があった。
すると、お嬢様方が俺のところにダンスを申し込みに来た。結構な人数がいる。どうやら黒目黒髪の男性と踊るのは憧れらしい。俺は最初はリリア様と踊る約束をしているので、軽く断り、リリア様と踊る。
周りを見回すと、どうやらダンスの作法は同じらしい。
リリア様とのダンスが終わったら、またお嬢様方に囲まれた。
全部断るのもどうかと思い、何人かと踊ったが、尻尾を踏みそうで困った。実際には踏みそうなタイミングになるとヒョイっと尻尾を動かして避けるのだが、女性のダンスのテクニックなのだろう。
そろそろ疲れてきた頃に、ライオン族の女性が近づいてきた。茶髪に紫色のドレスを着ている。お嬢様方は遠慮するように、離れていく。
「私は第1王女のフェリス・フォン・ラグランジェだ。そなたの名前を聞いても良いか?」
「私はジンと申します。人間の国で冒険者をやっております。この国では傭兵に当たるのでしょうか?護衛や魔物の討伐を請け負う職業です」
「そうか、ジン殿。一曲如何かな」
「ぜひ」
俺はフェリス殿下と踊ったが、流石の一言で、俺をリードしてくれる。ダンスを踊っている間に話しかけてきた。
「黒目黒髪とは珍しい。人間の国では当たり前なのか?」
「いえ、人間の国でも私くらいでしょう。髪だけとか、目だけというのはいるようですが」
「そうか。知っているとは思うが、この国では黒目黒髪は一種のステータスだ。それだけでいろんな女性にモテるだろう。羨ましい限りだ」
「そんなもんですか。人間の国では珍しいだけで、特に得したことはないのでよくわかりませんね」
「なに、ちょっとモテるだけだ。そのうち当たり前になれば落ち着くだろう。私も一度踊っておこうと思っただけだしな」
「中途半端な扱いですね。判断に困ります」
「ふふふ、モテてラッキーだとでも思っておれば良い」
ダンスが終わって、右手を差し出してきたので、膝をついて手の甲に口づけすると、途端にフェリス殿下が慌てだした。失敗したという顔だ。急いで会場から出て行ったのはなぜだろうか?
周りもざわめいていて、俺の方を注目している。
俺は理由がわからないので、飲み物を飲んでいたのだが、獣人の貴族に話しかけられた。
「ジン殿と申されたか。先ほどのフェリス殿下とのダンスは見事でしたな。最後の口づけには驚きましたが」
「最後の口づけですか?ダンスの最後には行うものでは?」
「そうでもありません。他の女性も手の甲を差し出していないでしょう。ダンスの後に女性が手を差し出すのは好意を持っている証、その際に口づけをすればこちらも好意を持っている証になります」
「なんとそんな風習が。それでフェリス殿下は慌てていたのですね。しかし、ごく自然に手を差し出してきましたが」
「私も驚いています。普段はダンスをしても手を差し出したりはしませんので。ダンスの途中に話をしていたようですが、口説きでもしましたか?」
「いやいや、黒目黒髪を褒められただけですよ」
「ふむ、その辺が理由ですかな」
どうやら女性にとって、手の甲に口づけを許すというのは好意の表れらしい。こんなところで文化ハザードがあるとは。幸い好意の表れというだけで、求婚ではないらしい。よかった。結婚運びといい、どこに地雷があるかわからないな。
多分、フェリス殿下も手を差し出すつもりはなかったのだろう。練習の時の癖で出してしまった感じだろうか。大して意味はないと思うのだが、フェリス殿下が慌てていたところを見ると、失敗したのだろう。
異種族で、文化のわかっていない人間に対して大げさなきいもするが。
よく見てみると、手を差し出している人もいるし、差し出されても口づけをしない人もいた。
俺は他のお嬢様方と適当に踊り、終了した。もちろん口づけはしてません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます