210 獣人の奴隷


 王都についた。


 王都というので、高い城壁に大きな門を想像していたのだが、城壁の高さはせいぜい5メートル。門も横に広いが高さは3メートルくらいしかない。門の前には列ができているが、俺たちもそこに並ぶようだ。人間の王都のように貴族専用の門とかはないようだ。


 列を待っている間暇だったので、城壁が低いことを聞くと、魔物が出る場所はだいたい決まっており、この王都の周りにはそう言った場所がないので必要がないらしい。

 しかも一国しかないため、いわゆる戦争というものがない。内紛はたまにあるが、王都では起きないとのこと。

 なので、騎士団の仕事は戦争ではなく、魔物の退治が主らしい。


 獣人族の中でも戦闘力が高いのが虎人族、狼人族などで、温厚なのが羊人族、兎人族などらしい。戦闘力が高いのは騎士団や警備隊に入り、温厚な種族は農業を主にしているという。




 城門をくぐると、城下町が見えた。人間の国と変わらず、石造りの家が立ち並び、屋台なども出ていて活気がある。

 ただ違うのは全員の頭に何らかの耳がついている事だ。角がついているものもいる。尻尾がついているものはズボンのお尻の部分に穴が空いているらしく、外からもよくわかる。

 <鑑定>してみたが、能力値が高い傾向にあった。それも種族ごとに違い、戦闘種族と呼ばれる人たちとは倍ほどステータスに差があった。


 俺たちは馬車に乗ったまま大通りを通り、街の中央にある城に連れていかれる。

 城は平城とでもいうのだろうか。せいぜい2階建くらいしかない。城の囲いも3メートルくらいで、見張り塔が四隅に立っている。門は普段から空いているのか、門番が立っているだけで騎士が一緒なら問題なく入れるようだ。


 俺たちは中央の建物ではなく、向かって左側の2階建の建物に連れていかれた。迎賓館らしい。

 ここでもセルジュ様が豪華な部屋で、俺たちは従者用の部屋だった。建物が同じだけ良かったかもしれない。

 各国の代表者も豪華な部屋だそうな。まあ俺たちには関係ないけど。


 明後日の昼に謁見があるらしい。

 俺たちは参加できないので、各国の代表者だけだ。護衛としてついてきているので仕方ないだろう。別に王様に会いたいわけじゃないしね。

 それよりも城下町を探索する許可の方が嬉しいね。あ、図書館の閲覧とかでも良い。


 セルジュ様とも話をしたが、今の所待遇は国賓並みらしい。この様子だと謁見も悪いことにはならないだろうとの事だ。

 これは交渉がうまくいくという話ではなく、交渉がうまくいかなくても危害は加えられないだろうという意味だ。

 人間大陸では端でも<転移>魔法で撤退できたが、この大陸からでは流石に魔力が足りない。多分一人でも<転移>出来ないだろう。なので、交渉に失敗しても逃げる必要がないのはありがたい。


 食事は薄味だが、出汁を使っているようだ。王都は内陸なので、魚ではないだろう。動物の骨だろうか。味付けは薄いが旨味は十分にある。俺的にはこれもありだと思う。


 明後日の謁見後、夜には晩餐会が開かれるらしく、俺たちも参加して良いらしい。もちろん武器の持ち込みはダメだが。

 俺は礼装を持っているが、クレアとマリアは持っていない。

 セルジュ様に相談したら、どのみち奴隷は参加できないとの事。


 獣人国でも奴隷制度はある。戦争はないので、戦争奴隷はいないが、犯罪奴隷と借金奴隷はいる。愛玩奴隷という種別はなく、借金奴隷の中でも見目麗しいものをそう呼ぶ程度だ。

 犯罪奴隷は主に鉱山などの過酷な労働に従事し、借金奴隷は下働きなどの軽作業を主に行うようだ。農業地帯で不作の時によく出回るそうで、比較的メジャーだ。借金奴隷にも給与という制度が存在し、貯めて自分を買い戻すことも可能だ。

 まあ、借金奴隷になる程なので、借金の額は安くなく、何十年とかかるのだが。奴隷の子供は奴隷なので、その事も考えて自分を買い戻す者が多いらしい。ただ、奴隷と平民の結婚は認められていない。奴隷から解放してから結婚しろという事らしい。

 そりゃそうだよね。結婚したら借金はチャラっておかしいもんね。


 人間の国だと給与などはないに等しいので、買い戻すのは事実上不可能だが、この国では可能なので、それほど悲惨ではない。

 王宮でも洗濯や掃除などの下働きは奴隷がやっているそうだ。

 首輪は使われず、奴隷紋のみなので、見た目にはわからない。


 俺の部屋に洗濯物を取りに来るメイドも奴隷らしい。普通に働いているので分からなかった。



 晩餐会の準備という事で、俺はリリア様とダンスの練習をしていた。国の代表ではないとはいえ、賓客が踊らないのは失礼に当たるらしい。護衛の仕事はいいのかね?

 指導役はメアリーだ。俺の<舞踏>はlv1だ。基本ができているレベルで、綺麗に踊るまではいかない。一夜漬けになるが、やらないよりはマシだろうと練習している。久しぶりなので、ステップがあやふやだ。練習しといて良かったかもしれない。

 なんとか失礼にならない程度に思い出して、ようやく解放された。


 練習が終わってから思ったんだけど、獣人のダンスと人間のダンスは同じなんだろうか?





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