212 神殿


 翌日、メアリーからからかわれた。


「ジン様、獣人族にまで側室を増やす気ですか?それくらいなら私を側室にいかがですか?人間族の方が良いのでは?」


「いやいや、メアリーとの結婚は断っただろう。それにフェリス殿下も失敗したという顔をしていたので、好意がどうのとは違うと思うぞ」


「周りはそうは思いませんよ。ただでさえ黒目黒髪はステータスのようですから。殿下が気に入ったとしても不思議はないといった雰囲気でしたよ」


「困ったもんだな」



 この日からは各国の代表とこの国の外交官との話し合いが始まる日だ。

 俺はセルジュ様の護衛なので、関係ないが。


 セルジュ様の神殿訪問は明日だ。ここが本番だろう。

 セルジュ様と雑談していると、神官の人が来て、明日の予定を伝えてくれた。神官服は人間の国と大して変わらない。もちろん細かいところは違うのだが、ローブについている刺繍の図案が違う。創造神様の紋章だろうか。


 セルジュ様曰く、創造神様の紋章は伝わっていないとの事。獣人の国では伝わってるのかね。



 翌日の朝、神官が迎えに来た。セルジュ様は当然として、なぜか俺も同行を求められた。黒目黒髪のせいだろうか?


 神殿に着くと、すぐに本殿に案内され、教皇様と会うことになった。


「ようこそおいで下さいました。神に選ばれしものと女神の巫女様。私は教皇を仰せつかっております、ソルスと申します」


 どうやらここでも俺は『神に選ばれしもの』らしい。また神託でもあったのだろうか。


「お初にお目にかかります。女神イシュタル様にお仕えする聖女、セルジュと申します」


「ええ、神託により、来られるのは分かっておりました。巫女セルジュ様。神に選ばれしものよ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「は、はい。私が神に選ばれしものかは知りませんが、ジンと申します」


「そうですか、ジン様、お会いできて光栄です」


「それで神託とは?」


「はい、当神殿の巫女が神託を受けました。女神の巫女と神に選ばれしものが来ると。当神殿ではお迎えする準備を整えております。よろしければ神殿に逗留されてはいかがでしょうか」


「それに関しては王宮との話が必要でしょう。我々は王宮に呼ばれているので」


「それは大丈夫です。巫女に関しては神殿の管轄、王宮にも話は通してあります。セルジュ様は使節団と違い、交渉するわけではないのでしょう?ならばこの神殿でお互いの教義を語り合いましょう」


「そういう事ならお受けしましょう。ジン様もそれでよろしいですか?」


「俺はそれで構いません。しかし、なぜ俺が神に選ばれしものなのでしょうか?」


「それに関しては私から説明しましょう。創造神ゼルス様によると、何か神からの試練を受けられているとか。その助けになれれば私としても嬉しい限りです」


 神の試練ね。確かにレベル上げは神様からの依頼だけど。


「創造神様とは話ができるのですか?」


「いえ、神託とは神からの言葉を聞くためのもの。神と話ができる物ではありません」


 残念。どこまでレベルを上げればいいのか知りたかったんだけどな。それにしてもこんな感じでフォローしてくるとは余程入れ込んでいるのだろうか。最初の感じでは自分で頑張れって感じだったけど。


「私どもに何かお手伝いできることはありませんか?」


「それでしたら、歴史書や魔法書などを見せていただけませんでしょうか?人間の国では戦争で焼けてしまったものも多く、口伝の伝承があるだけなのです」


「そうですか。それなら図書館を解放しましょう。しかし、古代帝国時代の古文書はこの国にもあまり残っておりません。当時は戦争から逃げるようにこの大陸に移住したため、そういったものを持ってきていなかったのです。ですが、その後に書かれたものであれば残っております。当時、大賢者と呼ばれたものの弟子が書いたものとされています」


「それは素晴らしい。ぜひ拝見したいですね」


「それでは巫女セルジュ様は私と話を、ジン様は図書館ということで。今日のところはお疲れでしょうから、ゆっくりお休み下さい。ジン様には神官をつけますので、何なりと申しつけ下さい。図書館にもそのものがご案内します」



 セルジュ様は教義談義、俺は図書館で調べ物らしい。

 どうせそれなりの時間いなくちゃいけないんだろうから、今のうちに読み込もう。


 俺は豪華な部屋に案内された。入ってすぐには応接間があり、他に2部屋あった。寝室と風呂だ。部屋には神官とメイドが待機しており、いつでも声がかけられるようになっている。


「神官殿、お名前を伺っても?」


「はい、ジミーと申します、神に選ばれしものよ」


「私のことはジンとお呼びください。皆そう呼びますので」


「ではジン様、何かご用はおありでしょうか?」


「そうですね、とりあえず立ったままでは落ち着かないので、座ってもらえますか?」


 俺はソファーを指す。


「しかし、ジン様と同席するのは恐れ多い、、、」


「私がお願いしているのです。どうかお座りください」


 メイドはともかく、神官まで立っていられたのでは俺が落ち着かない。

 そもそも神官は何のためにいるんだろう?


「ジミーさんはなぜこの部屋に配属になったのですか?メイドで十分だと思うのですが」


「はい。人間の大陸とこの大陸では文化が違うと言われています。なので不都合がない様にという配慮です。

 お目障りなら消えますので、そうおっしゃってください」


 そう言われて去れとは言えない。

 食事の時間まで時間つぶしに雑談をした。




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