192 正義の味方


二週間ほどした頃、「奴隷狩りだ!」と叫びながら、村に飛び込んできた若者がいた。


辺りの家から人が出てきて、鍬なんかを持ち出している。


長も出てきて、「まずはお前たちがいけ!」と俺たちをけしかけた。


走り込んできた若者の後方には、冒険者のような格好をした人間が武器を振り上げながら追いかけていた。


「オラオラ、とっとと村に案内しろ!死に手ェのか!」


どうやらワザと見逃されたらしい。村ごと連れて行くつもりだろうか?


「親分、獣人の村が見えました!皆武装しています!」


「関係ねー。武装したって、戦いの素人だ。おい、女は殺すなよ!いけ!」


女だけを連れて行くのか。そうだな。男の獣人の需要はないだろうしな。


さて、俺も頑張らないとな。取り敢えず奴隷狩りとは別口だと認めてもらわないと。




「そこまでにしてもらおう。奴隷狩りの諸君」


「だ、誰だ?!」


「あ、あそこだ!」


俺は枯れた木の上に立っていた。


「トゥ」


俺は前回転しながら下に降り立つ。


そして、ビシッと指を突きつけて、決め台詞を言う。


「貴様ら邪悪な奴隷狩りたちよ、正義の味方が退治してくれる!」


何が正義なのかは知らないけど、こう言うシチュエーションって憧れるよね。



男たちはあっけにとられていたが、親分と呼ばれたやつが、叫んだ。


「やっちまえ!」


それを聞いた男たちが俺に群がってくる。剣で斬りかかってくるが、せいぜいDランク程度。大したことない。

今回は殺すよりも生かして捉えた方が良いと考え、腹に拳を叩き込む。鎧も着ていないので痛いだろう。

次々と腹に見舞っていると、親分が出てきた。


「ちょこまかと、死ねい!」


親分らしく、バトルアックスを持っている。振るわれる軌跡もしっかりとしている。ふむ、Cランクをあげよう。冒険者でもそれなりに暮らしていけると思うんだけど、奴隷狩りって儲かるのかね。


俺は斧を逸らすと、顎をかちあげた。

親分はそのまま後ろに倒れ、頭を打って気を失った。


「さあ、獣人の皆さん、無力化しましたので、あとはご自由に」


獣人たちは次々と縛り上げていく。

長が俺のところに来て、

「確かに奴隷狩りではなかったの。じゃが人間には違いない。しばらくはあの家にいてもらうぞ」

と言ってきた。


まあ、あいつら倒したくらいじゃ信用してもらえないよね。




数日後、長が家にやってきた。


「あの人間たちの尋問が終わった。お主たちは奴隷狩りの仲間ではない事が分かった。すまぬ事をしたの」


「いえ、状況から仕方ないでしょう。ただ一つだけ。マリアの足を刺したものには、マリアに謝罪してください」


「うむ。そうじゃな。シビル!」


先日俺たちを尋問しようとした男がやってきた。


「この人間たちは奴隷狩りじゃなかった。お主のやりすぎでお嬢ちゃんに怪我をさせてしまった。謝れ。」


「奴隷狩りじゃなかったんですか?そうですか、それは済まなかった。謝罪しよう」


男がマリアに頭を下げた。


「あ、あの。もう分かりましたから、頭を上げてください。もう気にしてませんから」


マリアは頭を下げられるのに慣れてないのか、戸惑っている。


「そう言ってもらえるとありがたい」



「それで、そなたたちは難破したんじゃったか。帰るあてはあるのかな?」


「いえ。方角さえわかれば、筏で帰ろうかと思ってました」


「そうか。取り敢えずその家に留まるといい。今晩はわしの家で歓迎しよう」



「奴隷狩りを捕まえたぞ!かんぱーい!」


長の家で晩飯を食うのかと思ったら、村中を巻き込んでお祭り騒ぎだ。よほど奴隷狩りに苦しんでいたんだろう。

近くの村にも伝令が走ったらしい。


翌日、皆が起き出して片付けをしていると、走ってくる人影があった。

なんだあれ?すごく早いぞ。


人間だと思えないスピードで走ってきたのは、ライオンの獣人だろうか?ゴツい顔に鬣のような髪が首まで続いている。


「おお、アレックス様よくおいでくださいました」


「うむ、奴隷狩りを捕まえたそうだな。ご苦労だった。それでこいつか?奴隷狩りは?」


俺を指しながら言ってくる。


「いえ、奴隷狩りどもは空き家に閉じ込めてあります。どうぞ御見聞を」


「うむ。それでこの人間は?」


「はい、付近で難破して、流れ着いたそうです。筏も確認してありますし、嘘はないかと」


「そうか、ではこの者については後で聞こう。案内しろ」


アレックスと呼ばれた獣人は高い地位にいるのだろう。長が敬語で話している。

二人は奴隷狩りたちを閉じ込めてある小屋に入っていった。

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