191 獣人の村


「すいません、この村はなんという村でしょうか?」


俺が話しかけると、狼の耳を生やした女性がこちらを向く。

俺の頭を見て、お尻を見る。



「きゃー、人間よー」


周りの家から沢山の人が出てきた。


「おい、人間だってよ。どこだ?!」


「あいつだ!」


何やら大ごとになっているような気がする。


俺たちは獣人に囲まれていた。


「人間、何しにきた?!」


「実は船が難破してしまって、困ってるんです」


「そんな嘘はつかんでいい!誰の差し金だ!?」


話を聞いてくれる雰囲気じゃないな。


「お前たちこっち来い!」



俺たちは武器を取り上げられて、縄で縛られると、民家の一つと思われる場所に監禁された。入り口に見張りまで立っている。


「これはあれかな?獣人族の大陸にきちゃたってことかな?」


「それ以外考えられないかと」


なんと、伝説の獣人族の大陸だ。



「おい!でろ!長老がお会いになる」


おお、やっと話ができる。



「お前らか、人間というのは。

わしらに何の用だ?」


「船が難破してしまったので、とりあえず陸に着いたら、この村につきました」


「船が難破?お前ら奴隷狩りの仲間か!誰か!こいつらを尋問しろ!仲間の場所を聞き出せ!」


「いや、俺たちは、、、」


「こっち来い!」


俺たちは先ほどの民家に連れ込まれた。


「お前たちの仲間はどこだ?難破なんて嘘つきやがって。さあ、仲間のことを話したら楽に殺してやる!」


殺されるの前提なのね。


「いや、俺たちに仲間なんて、、、」


「そうだな、告げ口はいけないよな。言いたくなるようにしてやろう」


そういうと男はマリアの短剣を取り出し、マリアの足に突き刺した。


「ぐっ」


マリアはなんとか我慢しているが、俺は我慢するつもりはない。

風の刃で縄を切り裂き、男の短剣を取り上げる。頭を短剣のつかで殴って気絶させる。倒れたまま動かないから気絶したんだろう。まさか死んでないよね?


「マリア、大丈夫か?今治すからな」


俺はマリアの足を<神聖魔法>で直した。


「すまんな、ギリギリまで話し合いでどうにかならないかと思って、止められなかった」


「いえ、私なら大丈夫です。直していただきましたし」


俺はマリアの縄を切り、短剣を渡した。建物から出ると、それを見た獣人が「人間が逃げたぞー」と叫び出した。


俺たちは先ほど連れて行かれた、長のいる家に向かった。



俺たちが家に入ると、長がお茶を飲んでいた。


「お前たち逃げ出したのか!誰かいないのか!?」


「まあ、そう言わずに話を聞いてくれないか?」


「人間と話すことなんてないわ!」




「それ以上近づいたら長が怪我しますよ?!」


マリアが外で威嚇しているが、それは悪役のセリフだよ?



「俺たちは奴隷狩りなんかじゃない。奴隷狩りならこんなに堂々とこないだろう」


「わしらの村を探してたんじゃないのか!?連絡員はどこだ?」


「いや、だから俺たちは奴隷狩りじゃないって」


「信じられん、毎年今の時期になると奴隷狩りにきおって。これ以上さらわれてたまるか!」


毎年この時期に来るらしい。ヤパンニの連中かな?


「毎年来てるのか。あいつらも手段選ばないな」


「やっぱり知ってるんじゃないか!お前らも同類だろう!」


「いや、俺たちは違う。なんなら、その奴隷狩りとかいうやつらを殺してやってもいい。それが証明になるのなら」


「ムゥ、しかし、この大陸は人間たちの大陸とは結構離れているはずだ。なのにわざわざこの大陸に来るのは奴隷狩りくらいだ」


「だから、船が難破して漂流してきたんだって。

北に1日、海に向かって3日の場所に俺たちの使った筏が止まっている。確認してもらってもいい」


「いいだろう、筏を確認した上で、奴隷狩りを殺せるというなら考えよう。それまでは大人しく捕まっていてもらう」


「分かった、それでいいだろう」



「マリア、話がついた。しばらくは大人しくしていよう」


俺は獣人の大陸に興味があったので、少しくらい不自由な思いをしても、この大陸を見たくなっていた。

それをマリアに伝えると、「ご主人様が望まれるのでしたら」と納得してくれた。


とりあえず、監禁されていた小屋に戻る。中には竃などもあり、食事は作れそうだ。材料や鍋釜は野営用に色々と持っている。マリアのマジックバッグにも入っているだろう。


3日後、長から呼ばれた。


「お前たちのいう通り、筏が発見された。とりあえずは信じてやろう。今度奴隷狩りがきた時に戦ってもらう。全滅させなくても、船を抑えれば、お前たちの難破を信じてやろう」


「はいはい、なら奴隷狩りとかがやってきたら教えてくださいね」


俺はとっとと自分たちの家(と勝手に思っている)に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る