190 北進
「そっち持ってくれ。そうそれで良い」
こっちをくくってと。
「よしこんなもんだろう。マリア、どう思う?」
「はい、大丈夫だと思います」
「よし、じゃあ出発しよう」
「はい!」
マリアのテンションが高い。俺のテンションはだだ下がりだ。
この島、暑いのだ。蔦が多いから熱帯かと思っていたけど、本当に熱帯だった。
服は<インベントリ>に入っていたので問題ないが、涼を取る方法が氷魔法しかなかったのだ。
一箇所にとどまっているときはいいのだが、部屋の中という訳でもないので、ちょっと離れると冷気は漂ってこない。
ドライヤーと同じように氷と風を混ぜようとしたら、氷の粒が飛んできた。
そんな訳で暑い中作業していたのだが、ようやく筏が完成した。
木を横に敷き詰め、真ん中に帆となる木を十字に立てただけのものだ。十字に布袋を被せて、風を受けれるようにしてある。
「マリア、日が昇ったのこっちだから、北はこっちでいいんだよな?」
「えっと、東が右だと、正面は、、、はい!こっちであってます!」
相変わらずテンション高いな。何か理由があるのだろうか?
「はい。ようやくご主人様のお役に立てます。今までリリアの護衛くらいしかしてませんので。ご主人様のメイドとして働けて嬉しく思います」
「そ、そうか。頼りにしてるぞ」
「はい!」
そうか、活躍してないのとそんなに気にしていたとは。俺としては十分に助けられてると思ってたんだけどね。旅の間も食事とか任せっぱなしだったし。
何にもない海原を北に向かうことしばし。筏に氷を乗せて涼を取っている。
しかし、海って何もないな。もう漂着した島も見えなくなってる。360度海だ。夜は方角がわからなくなるので、特に進まず、漂流している。
交代で睡眠をとる。何日かかるかわからないし、海にも魔物がいると聞いているからだ。
<魔力感知>では海の中は10メートル位しか感知できないことが分かった。島を出るときに、マリアに潜ってもらって確認したのだ。
洞窟と同じで海中に魔力でも漂っていて邪魔してるのだろうか?
なんにせよ、10メートルというのは魚にとっては大した距離じゃない。魚の泳ぐ速度は半端じゃないのだ。なので、全然安心できない。
「マリア、暇だな」
「暇ですね」
俺は風魔法で布を張っただけの帆に風を送りながらひとりごちる。
「しりとりするか」
「さっきやりましたよ。ご主人様負けましたよね?」
「じゃあ、ババ抜き」
「二人でやるもんじゃないですよ?」
「じゃあ、、、何もないな」
「うーん、漂流がこんなに退屈だとは思いませんでした。物語では魚や魔物に襲われて退治したり逃げたりするんですけどね」
「魔物に会わないのはいいことだとは思うが。退屈なのは確かだな」
俺たちはすでに2日経っている。最初のうちは色々と話もあったんだが、2日目ともなると話すことなどない。
そのまま3日目4日とすぎていった。
7日目になった時、マリアと相談して西に転進しようとした。しかし、その時、北東に陸が見えた。湾に入り込んだのかもしれない。とにかくそちらに向かうと、明らかにおかしい。
海岸線が森になっているのだが、木の種類が違う。人族の大陸では常緑樹がほとんどだ。しかしここは針葉樹が生えている。
もちろん人族の大陸でも針葉樹を探せばあるのだろうが、この森は全てが針葉樹だ。
それに、海岸線沿いに北上しても湾の奥にたどり着かない。森も続いたままだ。
一日北上しても代わり映えのない景色に飽き、上陸して街を探すことにした。だれか住民の一人でもいれば場所がわかる。
上陸して東に向かう。時々太陽の位置を確認しているので、方向を間違えることはないだろう。3日ほどで森を抜けた。
そこには森に沿うように道が伸びていた。
うん、この道をどっちかに行けば街に出るだろう。村でもいい。人がいてくれれば十分だ。
俺たちはは右に向かった。どっちか迷ったら右だ。と格好いいように言ってみたが、単に<魔力感知>でこっちに魔力反応が多かっただけだ。魔物だったとしてもなんとかなるだろう。
1日ほどして村が見えてきた。人の姿も。
あれ?俺の見間違いかな?頭に耳があるように見える。
「マリア、俺の見間違いかもしれん。頭に耳があるように見える」
「私にもそう見えます」
「ということは獣人か?」
「そうだと思います」
「見える限り獣人なんだが」
「私にもそう見えます」
つまりなんだ、獣人の村だ。
「アズール帝国の東に獣人の村があると聞いたことがあるが、ここが隠れ里なんだろうか?」
「陸があったのは東北です。アズール帝国の東なら西にあるはずです」
「そうだよな。とりあえず話しかけてみるか」
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