189 漂流


昨夜、突然の大嵐で船から振り落とされた。


水に揉まれて魔法が使えないうちに、船が見えなくなった。

その後も揉まれて方向がわからなくなった。上空には暗雲が広がっていて、太陽の位置もわからない。


何日かたち、島に流れ着いた。

疲れてはいたが、砂浜で寝ると、満潮時に大変なことになるので、少し奥に行って横になった。海水を飲んでしまったらしく、口の中がしょっぱい。


取りえず、周囲の安全を確認しないと。


<魔力感知>を行う。魔物と思しき反応がそれなりにある。中央に集中しているようだ。


疲れた体に鞭打って、砂浜が少し続いた後、森のように鬱蒼と茂った木が生えている。蔦の類も多いので、熱帯かもしれない。

とりあえず、無魔法の空中歩法を使って、木の上まで上がってみた。島は直径5キロほどで、中央付近に岩山がある。火山島だろうか?煙が上がっている。


空を飛んでいる魔物がいない事を確認し、一息つく。<インベントリ>に入っている保存食をかじると、さらに口の中がしょっぱくなった。水筒の果実水を飲む。大分前に入れたものだが、<インベントリ>内は時間が経過しないので、問題ない。


俺は砂浜に戻って、風を周囲に張った。簡易の結界だ。俺はその中央で大の字になって寝た。


起きると身体中がかゆい。腕を見ると、黒い斑点が浮いている。毒か?


俺は自分に<神聖魔法>をかける。体内の異物を意識して、体外に追い出す感じだ。すると、大量に汗をかき、かいた汗は黒っぽかったので、タオルで拭き取った。このタオルは処分だな。


一晩寝たので、体は元気だ。起きた時は風の膜がなくなっていたが、あの毒だけで済んだのは僥倖だろう。もう少し寝ていたら危なかったかもしれないが。


俺は流木を立て、現在位置の指標としておく。そのまま島をぐるっと回る。直径5キロなら円周は15キロだ。半日で回れる。地理を確認する意味も込めて、地面を歩く。

すると足跡を発見した。人間のものだ。靴を履いている。サイズからして女性の足だろうか?


足跡は中央に向けて進んでいる。もしかして同じ遭難者か?それなら一緒に帰る方法を探した方が良い。


俺は足跡についていくように歩き出した。


足跡は、時々途切れていたが、周囲を探すとすぐに見つかった。木に登ったのだろうか。


ひたすら足跡を追いかける事一時間。ようやく追いついたようだ。前方に人影が見える。俺の<魔力感知>知り合いのものだと教えてくれる。


「マリア、こんなところでどうした?」


そう、マリアの魔力だ。


「ご主人様!ご無事でしたか!」


「ああ、俺はなんともないが、お前はどうしたんだ?」


「はい、ご主人様が波にさらわれた後、助けに飛び込んだのですが、一緒に波に飲まれてしまって。面目ないです」


「助けに飛び込んだって、、、明らかにやっちゃダメな行為だろう」


「すいません、焦ってて頭が働いてませんでした」


「まあ、いい。一人じゃ落ち着かなかったところだ。一緒に帰る方法を考えよう」


「ご主人様なら<転移>で帰れるのでは?」


「方向も距離もわからないと流石に無理だな。正確でなくてもいいけど、ある程度は絞り込まないと。覚えてるのと似た部屋なんていくらでもあるだろうしな」


「それでは、天気が良くなったら、方角を確認して、筏でも作って移動しましょうか。ご主人様の風魔法で帆を張れば移動できるでしょうし」


「それは構わないが、どっちに向かうんだ?」


「はい。北です。ベスク王国の南で難破したんですから、北に向かえば大陸があるはずです」


まあ、大まかに言えばそうなるわな。


「でも結構な日数流されたぞ?」


「それでも大陸の北に行ったという事はないでしょう。3日ほど流されましたので、船の倍流されたとしても一週間もすれば陸地に着くはずです」


「陸地につかなかったら?」


「東に流されたものとして、西に向かいます。結果として北西に向かうことになるので、大陸につけるかと」


なるほど。プリムからロアナに向かっていたのだから、大陸の南東にいるわけだ。なら北西に向かえばいいということか。

最初から北西でいいんじゃね?


「多少流されることも考えると、北西に進むと、西に流された場合ずっと大陸につけない可能性があります。ですが、北に向かえば多少流されても大陸につきます」


ああ、海流のこと忘れてたわ。マリア頭いいな。


「それは何かで学んだのか?」


「はい、学校で従者とはぐれた場合の対処法というのがありまして、その中の一例として出てきました。正確には海流に流されるかもしれないから、流された場所から動かず、船が通りかかるのを待て、でしたが。

流された距離が短ければ、船の航路に近い可能性もありますが、今回は3日も流されたので、その可能性は低いと考えます。なので、こちらから動く方が良いと考えました」


はあ、ここまで考えた上での結論なら、ケチつけることはないな。


「分かった。なら筏作りからか?」


「そうですね。まずは木を切り倒しましょう」




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