187 プリムの腐敗


「ジン様、どうしても聖女として最後にしておきたいことがあるのですが。。。」


「すればいいんじゃないですか?多少なら待ちますよ?」


「それが、ヤパンニ王国なんです。

最近の衰退が激しく、一度激励に向かおうと思っていたのですが、なかなか時間が取れずにいて。

旅に出たら聖女としての仕事ができませんので、今のうちに慰問に行っておきたいんです」


なるほど。あの衰退具合は酷かったからね。盗賊もたくさん出たし。いや、戦争前から酷かったのかもね。あんな無茶な交渉してくるくらいだし。今誰が国王やってるんだろうか?あれ?俺国王に会ったっけ?


まあ、ダメならザパンニ王国がなんとかするだろう。



「それならザパンニ王国の首都で会いましょうか。正直ヤパンニ王国にいい思い出ないんですよね。


ああ、でも行き道にプリムがありましたね。そうですね。プリムの領主に物申せるならヤパンニに同行しましょう」


「プリムですか?確かケンウッド伯爵でしたか。伯爵がどうかされたんですか?」


俺はプリムで船を下されたことを話す。


「まあ、そんな事が。ですが、ケンウッド伯爵は敬虔な信徒だと聞いています。そんな横暴な振る舞いをするとは思えないんですが」


「それはどうでしょうか。実際にやられましたし。おかげでここまでひと月以上かかりました。聖女として会う前に民衆から噂を集めるといいです。どちらが正しいかわかるでしょう」


「そこまで自信を持って言われるのでしたら、本当なんでしょうけど。いけませんね、あまり他国に行かないので、噂を鵜呑みにしているようです。信徒として優秀なのと領主として優秀なのは別でしたね。私も切り替えないと」


そうしてください。あの態度は許せません。


「では、ケンウッド伯爵に謝らせるという事でよろしいでしょうか?」


「そうですね。一つの落ち着けどころでしょうか。ただ、強制ではなく、本人から謝らせてください。聖女に言われたからイヤイヤでは謝罪になりませんので」


「わかりましたわ。何とかやってみましょう」


「それでは付いて来ていただけるという事でよろしいですか?」


「わかりました。では、プリム経由、ロアナ行きで。そのあと、ザパンニ王国に向かうという事で。イングリッド教国の港町はなんという名前ですか?」


「クレイアといいます。漁業が盛んで、塩も作っています」


「なら、クレイアから出発ですね。馬車は俺たちも持っていますが、どうしますか?」


「それなんですが、神殿騎士を連れて行くことになると思います。ヤパンニは治安に不安がありますので。なので、荷物用の馬車を一台つけます。あの、私はジン様の馬車に同乗させていただいてもよろしいでしょうか?」


「構いませんよ。ですが狭いですよ?」


「乗れれば構いません。あ、神殿騎士はヤパンニを出国するまでです。ザパンニ王国までは行きませんので」


「わかりました。最終的な行き先は王都ですか?」


「はい、その予定をしています」


「そうですか。俺たちはヤパンニの王城には行きませんので、神殿騎士に頑張ってもらいましょう」


「え、付いて来てくださらないんですか?」


「ええ、あそこの上層部には痛い目に遭わされましたから、あまり会いたくありません」


「そうですか。仕方ないですね。神殿騎士に頑張ってもらいましょう」





ベスク王国港町プリムに着いた。

伯爵家に直接は向かわず、酒場で情報収集だ。セルジュ様には冒険者のような格好をしてもらっている。


「ケンウッド伯爵について聞きたいんだが?」


「おう、人に聞くときはする事があるだろう?」


「おっちゃん、この人にエールを!」


「おう、分かってんじゃねぇか。

それで伯爵のことだったな。あれはクズだ。自分のことしか考えてねぇ。俺たち冒険者なんて、湧いてくるくらいにしか思ってないんじゃねぇか。税率こそ普通だけど、この港町で商売しようと思ったら、伯爵に付け届けが必要なんだよ。

どんなに商売でも受けたって、付け届けでなくなっちまう。

なので、大手の商会は他の港で儲けて、こっちではあまり儲けないんだ。儲かってるとバレると付け届けが倍必要になるからな」


「そこまで腐敗していましたか。それではこの街は廃れて行くのでは?」


「それがな。大手はそれが出来るからいいんだが、小さい商会は付け届けを払ってでも商売するのさ。大手の隙間を埋めるようにな。それでこの街は持ってるようなもんだ。

まあ、俺たちはそういう小さい商会の護衛で儲けてるんだけどな」




「セルジュ様、聞きましたか?」


「ええ、これほど酷いとは。聖女として一言言わねばなりませんね」


「いや、それは逆効果かと。それくらいなら王家に陳情して、監査を入れてもらったほうがマシでしょう。

付け届けが常態化しているのなら、当然横領もしてるでしょうし」


「それもそうですね。旅の途中に王都ベスラートに寄る予定はありますか?」


「今は予定してませんが、寄ることもあるかもしれませんね」


「ではその時を待ちますか。謝らせる約束ですが、遅くなるかもしれません」


「まあ、いいですよ。その位待ちます」


「では、これから聖女として訪問してきます」

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