186 神学
図書室が不発だったので、口伝でもないかと、教皇さまに謁見を願い出た。すぐに許可が降りて、応接室で話を聞かせてくれることになった。
まずは専門だろう、<神聖魔法>だ。その為に事前情報として、神様について聞いてみる。
「神に関してですか。実は分かってないというのが現状です。<神託>がありますので、神の存在は誰も疑っていません。
しかし、女神イシュタル以外の神に関しては、古くからの文献に散見されるものを参考にしているにすぎません」
最初からぶっちゃけてきたよ。
「創造神さまがいらっしゃるのか、もしくは女神イシュタルがこの世界を創造したのか、さえ分かっていません。
もしかすると、この世界には女神イシュタルしかいない可能性もあります」
創造神は存在してるけど、まあいいか。
「くちさがない者たちには、戦神などの存在はおとぎ話だというものもいます。流石に女神イシュタルの存在を否定するものはいませんが」
それは俺も分からんが、創造神がいるんだし、他の神もいるんじゃないかな?
「さらに、<神聖魔法>が神の祝福ではなく、ただの魔法だというものまでいる始末で」
うん、スキルに載ってる時点で神の祝福じゃないと思うけどね。それとも神の祝福って、スキルになるんだろうか?
いや、神さまの力を信じてない俺が使えるんだから、ただの魔法だろう。それに神の祝福だったら、狂信者はみんな魔法が使えるよ。
「悲しい話ですが、神が顕現してくれない以上、神の存在も証明できません。<神託>も当たり続けたから信じられているだけで、聖女が嘘を言っていても分からないのです。証明する方法がないのですから。
我々に出来るのは、<神託>スキル持ちを探し出し、嘘を言わない、誠実な大人に育てるくらいです」
「聖女というからにいは、女性しか<神託>スキル持ちはいないのですか?」
「はい、今まで確認されたのは女性だけです。女神イシュタルの性別に合わせたとか言われますが、分かっていません」
「聖女は同時代に複数は存在しないのですか?」
「はい。聖女が死んだ後に生まれた者に現れることが分かっています。なので、聖女が死んだ後には子供が生まれると、聖女の生まれ変わりを期待して、鑑定を依頼してくるものが多いです。もちろん、そのお陰で我々も聖女が見つけ出せるのですが」
なるほど。うまく出来てるね。
「それでは話は変わって、反対の属性と思われる、<暗黒魔法>について教えてもらえますか?」
「邪神の加護と呼ばれています。<神聖魔法>が神の祝福なら、<暗黒魔法>は邪神の祝福です。心の卑しいもの、悪事に手を染めたもの、邪神を信仰する者に使い手が現れるといいます。
ですが、<暗黒魔法>の使い手は確認されていませんので、全て想像になります。
邪教の信者に<暗黒魔法>の使い手がいたと言うものもいますが、邪教徒は火炙りが原則ですので、確認されていません」
俺スキル持ってるけど、心が卑しかったのか。初めて知った。
「なら、<神聖魔法>と<暗黒魔法>を同時に使えるものはいないと?」
「そのはずです」
俺両方持ってますが。何か?
「邪悪な心を持つから<暗黒魔法>が使えるんでしょうか?それとも<暗黒魔法>が使えるから邪悪になるんでしょうか?」
「哲学ですね。どちらとも言えないと言うのが現状です」
スキル持ってるけど、使わなければいいのかな?
「では、加護とはなんでしょう?祝福とは違うのですか?」
「はい。過去の聖女には<女神イシュタルの加護>を持つものもいたそうです。これはイングリッド教の聖典にも載っており、実際に確認された事です。祝福は神の力を借りることを言います。神が力を貸してくれるので、それを祝福と呼んでいます」
「では、女神を信じていた敬虔な信徒が邪教にかぶれたりしたら、<神聖魔法>は使えなくなるのでしょうか?」
「いいえ、そのまま使えると思います。一説には女神のお心は広いので、一時的に心変わりしても暖かく見守ってくださると言われています。過去にそう言う事例があったので、間違い無いと思います」
神の心は知らないけど、心の持ちようでスキルが消えることはないみたいだね。ちょっと安心。
「それでは、神聖魔法をより使えるようになるには何が必要でしょうか?信仰心?」
「それは人によりますが、ただ神を信じるだけでは祝福は与えられません。それなりに心が強く、根気強い者に発現するのが多いようです。手前上手で申し訳ありませんが、私もそれなりに心が強いと思っています。
また、一度発現しただけではうまくいきません。繰り返し使うことで、より神の存在に近づき、より祝福を得る。これが人間の格を上げることにつながると思っています。
この人間の格を上げることが神の御心にそうとも」
ありゃ、神学論になってきたよ。
そう言えば、似たようなことが文献にも載ってたね。神が成長を見守ってるとかなんとか。
コンコン
「はい」
「説教のお時間です」
「わかりました。
ジン様、申し訳ありません、時間のようです。また折を見てお話しさせていただければと思います」
「いえ、お時間ありがとうございました」
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