183 イシュバルの滝


「と言うことで、どこか楽しい場所ないですか?」


「と、突然ですね。楽しい場所ですか。楽しいかはわかりませんが、景色のいい場所ならありますよ。

南に1日ほど行ったあたりに、大きな滝があります。私も一度行ったことがありますが、綺麗なところでしたよ?」


「おお、それは良いな。そこに行こう。マリア、食料の準備を頼む。首都だし美味いものがあるだろう」


「お任せください」



「この先か。。。」


俺たちは首都アラートの南に1日かけて来ていた。途中は道らしい道ががなかったので、馬車が揺れて大変だった。


しばらく森に入っていくと、セルジュ様が立ち止まった。


「到着です」


セルジュ様がそう言うが、滝のようなものは見当たらない。

奥の方からザーッと言う音が聞こえてくるから、奥の方にあるのかもしれない。


「じゃあ、行きましょう」


俺は奥の方に行こうとしたが、

「ジン様、危ないですよ」

と注意された。


「え?」


俺は振り返って問い返すが、セルジュ様は手で、俺の行こうとした先を示す。


俺は慎重に前に出ると、途中から道がなくなっていた。下を見ると崖になっていた。右のほうを見ると滝が流れ落ちている。どうやら、下から見るのではなく、上から見るようだ。

俺は無理やり顔を上げ、慎重に下がる。


足がブルブル震えているが、気のせいだ。俺は大丈夫。


「ご主人様、どうされましたか?」


「いや、なんでもない。綺麗な景色だぞ?お前たちも見ると良い」


「それでは失礼して。わー、すごいです!」


「うん、これはすごいな」


「なるほど。確かに素敵ですわね」


「綺麗」


全員が気に入ったらしい。


「これがイングリッド教国屈指の景観を持つ、イシュヴァルの滝です。名前でもわかるように、イシュタル様の『イシュ』をいただいて名付けられました。今は時期が過ぎてあまりいませんが、暑い時期には避暑に来る者もいます」


俺だけ数メートル下がったところにいるが、バレないだろう。みんな滝に夢中だし。

ついでにお昼の用意でもするか。何かしてれば落ち着くだろう。






「マリア、ご主人様が後ろに下がってるぞ」

「本当ですね、まさかまたですか」

「やっぱりご主人様は高いところが苦手なんじゃ?」

「その可能性が高いですね」

「ここに誘ったのは間違いだったか?」

「いえ、ここは素晴らしい場所です。

ご主人様も一度は見られているはずです。

なので、間違いということはないと思います」

「そうだな」


という話があったとかなかったとか。






「セルジュ様、そろそろご飯でもいかがですか?」


「まあ、お手数かけてすいません。私も手伝いましたのに。こう見えても炊き出しで鍛えられてますから、料理には自信がありますわ」


「それは是非今度お願いします。とりあえず、今日は私が作りましたので、どうぞ」


「ご主人様、それは私にお任せください。主人に食事を作らせた上に配膳までされては、メイドの名がすたります」


マリアには何か琴線に引っかかることがあったらしい。俺が食事作ったから?

マリアが配膳してくれたのですぐに食事の準備が整った。



「ジン様、滝は楽しんでいただけましたか?」


「ええ、雄大ですね」


「はい。綺麗で雄大、イシュタル様と同じということで『イシュ』の名をいただいたのですわ」


「この滝は下からは見れないのですか?」


「かなり回り込めば可能ですが、何日もかかります。流石にそれだけ神殿を開けるわけには。。。」


「ああ、いや、すぐに行けるんでなければ良いです」


俺も下からなら楽しめると思ったんだが。


まあ、良い。自分で飛んだ時は大丈夫なんだから問題ない。




一泊してから首都アラートに戻ると、教皇が会いたがっているという。

セルジュ様の件だろう。


俺とセルジュ様が神殿に向かい、他の者は宿屋で休ませる。



「お初にお目にかかります、神に選ばれしものよ。イングリッド教の教皇を努めさせていただいております。オーガスタと申します。お見知り置きを」


そう言いながら、頭を下げる。


「これはご丁寧に、ジンと申します。それと頭をお上げください。私に礼など不要です」


「そうは参りません。ジン様は神が認めた方、私のように人に選ばれたものとは違います」


「オーガスタ様もその辺で。ジン様がお困りですよ」


「そうですな、セルジュ様。ジン様、失礼しました」


「それでお話とは?」


「一つご相談がありまして。Sランクのジン様にお願いできればと」


「なんの話でしょうか?」


「実は、、、」

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