184 盗賊


俺たちはイングリッド教国の北にある魔の森に来ていた。

この森はザパンニ西の魔の森と同じ森だ。


この魔の森の中に根城のある盗賊団があるらしい。


この森を迂回するように街道が通っており、イングリッド教国とザパンニ王国の経済を支えている。砂糖などもここを通って運ばれる。

その街道に盗賊がではじめたらしい。


盗賊は獲物を取れるだけ取ると、魔の森に逃げていくという。必ずしも商隊を全滅させるわけでもないので、情報はたくさん入っているらしい。


ただ、魔の森に逃げられると、追うわけにもいかない。


騎士団を投入すると、他の魔物との戦いで出る損害が大きすぎる。

そこで、魔の森の敵と戦えて、盗賊の発見も出来るもの、という事でSランク冒険者が挙げられたらしい。

イングリッド教国にもSランク冒険者はいる。しかし今はヤパンニとの交渉役の護衛でヤパンニ王国に行っているとのこと。

戻ってくるのには最低でも一月はかかると見ており、その間放置するわけにもいかない。そこで城下に来ていた俺に白羽の矢が当たったというわけだ。


「報酬に砂糖を追加してくれると言うしな」


そう、報酬は白金貨1枚と砂糖を大甕で1瓶だ。盗賊のお宝は俺のものでいいらしい。大判振る舞いだね。取られた砂糖でも取り返したいのかと思ったんだけどね。

ああ、一つだけ返品しないといけない物があったな。教国のマークのついた短剣だ。


まあ、教国のマーク付きだし、他人の物というわけでも無いだろう。御用商人でも襲われたかな?



俺は入り口で<魔力感知>を行う。結構広い範囲がカバーできるが、魔物も引っかかるので特定できない。

それに盗賊だから、洞窟とかに住んでいるんだろう。俺の<魔力感知>は地面の中まではわからない。


やはり街道側から入ったほうがいいだろうか?


「クレア、どう思う?俺の<魔力感知>では盗賊と魔物の区別がつかん」


「やはり、商隊の真似をして襲われるのがいいのでは?」


「やっぱりそれかなぁ。


この馬車でも襲ってくれるかな?」


「荷物を運んでるように見えませんので厳しいかと。」


「やっぱりそうか。なら一度戻って、馬車を調達してこよう。荷馬車なんか引いてるともっといいか」




俺たちはアラートに戻って、荷馬車を仕立てた。空の大瓶や箱などもいくつか積んだ。


「クレア、御者をマリアと交代でやれ」


盗賊は多分、魔の森の入り口に見張りを置いてるはずだ。森の近くになったら俺は外に出ないからな。女だけだと思われたほうが襲われやすいだろう。


「ご主人様、それは逆です。女だけだと不審に思われます。メアリー様とリリア様には馬車に入っていただいて、ご主人様が外に出てるべきです」


「そういうもんか?」


「そういうもんです」


「ならそうしよう」


俺たちは、メアリーとリリアを馬車から出さずに進んでいった。どこから見張ってるんだろうね?


領地的にべスク王国に入るかと思われるあたりで魔の森から10人ほどが襲ってきた。固まってたのか<魔力感知>では一人だと思ってて油断した。

5人がこっちに来て、残りは馬車ではなく、荷馬車の方に向かっている。俺は襲いかかってきた男たちを気絶させる。頭の横から剣の腹で打ち付けたのだ。気絶しなくても相当痛いはず。

クレアとマリアも飛び出してくるが、こちらは普通に殺している。アジト聞きだすんだよ?何人かは生かしておいてね?


荷馬車に向かった男たちも荷物が空だと知ると、こっちを襲ってきた。俺はこっちは下っ端だろうと思いながらも剣の腹で打ち付ける。あ、メアリーの<火魔法>だ。あれは生きてても火傷でひどいぞ。


「た、助けてくれ。か、金か、それなら、、、」


「根城はどこだ?」


「た、助けてくれ、か、金か、それなら、、、」


俺は同じことしか言わない盗賊の足に剣を突き刺した。


「根城はどこだ?」


もう片方の足にも剣を突き刺す。


「あ、あっちだ。10分も歩けばつく。な、喋ったんだ、助けてくれるよな!」


「おい、お前!お前も根城は知ってるな?案内しろ」


「は、はい!」


若いのを見つけて声をかける。今まで負けたことがなかったのだろう。ガチガチに緊張していた。人を襲うときは殺される覚悟も持とうね。今更遅いけど。


後をクレアに任せて、若いのの後をついていくと、洞窟があった。


「中はどうなってる?」


「は、はい。まっすぐ100メートルほど入ると大部屋があります。全員そこで寝泊まりしていました」


「一本道なんだな?」


「は、はい」


俺はここにくる途中に残りの人数を聞いていた。ボスを含めて5人が残っているらしい。


俺は若いのを前に歩かせた。剣は突きつけたままだ。

いった通り一本道だ。

奥から明かりが漏れている。火が焚かれているんだろう。


俺は入り口で、若いのが何かいう前に中に蹴飛ばした。


若いのが焚き火に突っ込むが無視だ。


一気に踏み込み盗賊を切り捨てる。酒でも飲んでたのか、反応が鈍い。俺が3人切り倒した時にようやく剣を構えた。

酔っ払いなぞ敵じゃない。剣ごと叩き切った。魔闘術を使えば楽勝だ。普通なら相手も使うから楽勝じゃないんだが。魔闘術が使えるだけの腕があるなら盗賊なんてやってないだろう。


若いのにもとどめを入れて、周りに積み重なっている戦利品を確認する。中を見て、紋章付きの短剣が入ってなければ、全部<インベントリ>に突っ込む。あとで検証すればいいだろう。

ちなみに現金は大金貨5枚ちょっとだった。あんまり儲かってなかったらしい。ちょっと残念。


ある木箱を開けると、布袋に短剣が2本入っていた。片方は教会の紋章が。もう一つには見たことのない紋章が入っていた。他の人の分だろう。残りを全部<インベントリ>に収納した後、明かり用であろう油をまいて火をつけた。俺は煙に巻かれないようにとっとと洞窟を出る。


魔の森を出ると、クレアたちが待っていた。どうやら盗賊の生き残りはいないらしい。俺がいくときは何人か生き残ってたから殺したんだろう。魔の森の中に放り込むと、メアリーに<火魔法>で燃やしてもらった。



「さて帰るか」




「ではご確認ください」


俺は教会のマークの入った短剣を渡す。


「おお、これです。一本だけでしたか?」


「いえ、マークの違うのが一本ありました。これです」


差し出すと、「おお、これもあったか」と喜んでいる。


「では報酬の白金貨1枚です。砂糖はあとで受け取ってください」


俺は報酬を受け取ると、教会を後にした。

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