179 聖女様
それからはスラムで野宿しながら、司祭について調べた。
地方の領地の代官をやっているらしい。
あれだけ大騒ぎするから、首都にいる法衣貴族レベルかと思ったら、地方代官か。またしょぼいのに引っかかったな。
田舎の感覚で大騒ぎしてるんだろうけど、司教様は黒目黒髪だからと行って、異端審問はやりすぎだと言ってましたよ?まあ他の理由つけて逮捕してきそうだけど。
「なあ、メアリー、地方の田舎代官が騎士団を動かせると思うか?」
「賄賂か何かでしょう。普通は動かせませんわ」
「そうだろうな。とすると教国は賄賂がまかり通っているのか。面倒だな。直接利害関係がなくても敵に回る可能性がある」
「では、聖女様に直訴してはどうでしょうか?」
「聖女様?直訴できるのか?」
「聖女様は教皇様と同格で、神の声を聞くスキルを持っているそうです。聖女様に関しては、月に一度、民衆からの声を聞くために、直接会う機会が設けられています。教皇様には会えませんので、聖女様から教皇様に伝言をお願いすることが多いとか」
「ちなみに、教国はなんていう宗教なんだ?」
「え、ご存じないんですか?てっきり知っているものだとばかり。」
「ああ、知らんな。それで?」
「はい、イングリッド教と言います」
まんまだな、おい!
なるほど、知らない方がおかしいわ。国の名前と同じだなんて。
「他の国にあった神殿も全部イングリッド教のものか?」
「はい。基本的に宗教と言えばイングリッド教です。他は異端審問で処刑されます」
「イングリッド教の神様の名前は?」
「女神イシュタルです」
女神か。俺の知ってる神と違うな。じじいだったし。なら神託で何言われるかわからんな。
「一神教か?」
「一神教とはなんですか?」
「神様を一人しか祀ってない宗教のことだ」
「いえ、女神イシュタルを信仰していますが、他にも創造神様をはじめ、戦神、恋愛神、大地神など、複数を神と認めています。女神イシュタルはその中でも信託をくださる身近な神様です。光や正義を司ると言われています」
お、じじいも神として認められてるんだ。
「光や正義ね。メアリー、俺、正義だと思うか?」
「い、いや、どうでしょう?おそらく?」
そこは断言してほしい。
「ご主人様は正義です。ご主人様ですから!」
マリアが割り込んできた。珍しい。それと俺だからってどういう理由なんだ?最近マリアの俺への評価がおかしい。
「まあ、とにかく一度神殿に足を運んでみるか。聖女が本当に聖女なのか分かるだろうしな」
直接会えれば、いや、一目見れれば、<鑑定>で<信託>とかのスキルがあるかが分かる。
その夜はスラムの一角にある、不潔な宿に泊まった。
俺たちは部屋の中でテントを張った。それくらい不潔だったのだ。野宿の方が良かったかもしれない。
翌日の朝、白銀の鎧を着た、騎士団員がやってきた。また司祭の手下かと思ったが、聖女様が会いたがっているという。まさか、あの司祭、聖女様と繋がりあったのか?
とりあえず、一度会いたいと思っていた矢先だったので、承諾した。
連れて行くのは俺だけだそうだ。
「ようこそおいで下さいました。神に選ばれし者よ。私は今代の聖女を仰せつかっています、セルジュと申します」
銀髪に銀の瞳。なるほど、これが神聖な色なら、黒目黒髪は不吉だわ。年齢は20代前半かな。
俺はさっさと話を進めるために、聖女のステータスを見た。
<鑑定>
あったよ、<神託>スキル!
これあれば、じじいと話せるんじゃね?
「それでどう行ったご用件でしょうか?」
俺は一応わからないフリをしておく。
「神に選ばれしものよ、昨夜神託がありました。あなたに仕えるようにと。私は女神様のご意向を尊重したいと考えています」
え?俺に仕える?誰かと間違えてるんじゃないだろうか。
「とりあえず、私の名前はジンです。ジンと呼んでください」
「わかりました、ジン様。私の事もセルジュとお呼びください。それであなたにお仕えするにあたって、旅をしているそうですが、目的地などはお決まりですか?私ならこの大陸のどこでもご案内できます」
「えっと、ちょっと待っていただけます?俺に仕えるとはどういう事でしょうか?」
「そのままの意味です。あなたを主人と敬い、従うという事です」
聖女様がそれじゃダメでしょう。女神様なんてこと言ってるの?
「それはどの神様の意向でしょうか?」
「女神イシュタル様です」
「それで、神に選ばれしもの、の意味は?」
「そのままの意味です。女神様から直接あなたにお仕えするように言われたので、あなたは神に選ばれたのだと判断しました」
そりゃ、ジジイに選ばれたと言えば、選ばれたけどさ。
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