178 ケント司祭


「完了の報告に来ました。オーガ一体です」


「はい、お待ちください。はい、確認しました。では報酬はこちらになります」


明らかに採算の合わない報酬にがっくり来た。

今回素材もないしな。


宿に戻ると、銀色の鎧を着た騎士が宿の前に立っていた。


「ちょっと待て、黒目黒髪、お前がゼロだな?」


「いいえ、違いますよ?私はジンと言います」


俺はギルドカードを提示する。


「む、確かに。おい、ここの黒目黒髪は白だ。他を当たるぞ」


騎士たちが去っていく。


ゼロといえば、司祭に名乗ったくらいだ。なので、司祭が騎士を派遣してきたんだろう。

前を横切っただけで大げさな。


「大丈夫かしら?神殿関係はしつこいですわよ?」


「大丈夫だろう、あいつらはゼロを探してるんだから」


「でも黒目黒髪でばれますわよ?結構珍しい色ですから」


「え、珍しいのか?」


「ええ、あまりいませんわね。目が黒い人はいますが、髪まで黒いとなると、かなり限定されるんじゃないかしら」


「あちゃー。今から髪染めるか?」


「騎士と会ってしまいましたから、染めると逆に変ですよ」


「それもそうか。まあいい、バレると限ったわけじゃないしな」


いざとなれば逃げ出そう。

全員連れて、上空に<転移>し、再度地上を目視して<転移>すれば、首都からは出られる。そこから魔の森に沿って北に上がればザパンニ王国に着くだろう。魔力をだいぶ消耗するだろうが、確実に逃げれる。


その日の夜、宿の扉をガンガン叩く音がした。気になって窓から見ると、白銀の鎧を着た騎士が何人か立っていた。

宿の主人が戸を開けたのだろう、宿に入ってきて、2階に上がってきた。当然のごとく俺の部屋の前で止まり、ガンガンノックした。俺は半身になって扉を開けると、騎士たちがなだれ込んできた。俺はそのまま騎士を残して扉をでて、女性陣の部屋に入った。


「男はどこに行った?逃げたか?街の衛兵に触れを出せ。黒目黒髪の男を外に出すなと」


俺って、どんだけ極悪人なんだ?


騎士たちが帰った後、俺は部屋に戻り、寝直した。


翌朝、宿の主人が、出て行ってくれと言ってきた。まあ、昨夜のことがあるから仕方ないね。他で宿を取り直そう。

他の宿に行くが、どこも黒目黒髪はダメだと言われた。奴隷たちがレストランに入れない時もこんな気持ちなんだろうか?もしそうならもうちょっと気遣ってやらないとな。


俺たちはスラムで野営することにした。しかし1時間で騎士がきた。密告だろう。スラムがそういう場所なのは知っていたはずなのに。。。


俺は騎士たちにドナドナされて行った。メアリーたちには今後に関して指示を出してあるから、一人で連れて行かれても問題ない。


「貴様!よくも昨日は恥をかかせてくれたな!許さんぞ!」


え、この人誰?俺は顔に見覚えがないので、周りを見渡していると、騎士が「ケント司祭です」と教えてくれた。

司祭ってことは、昨日の馬車の!そうかなら覚えてないのも当然だな。

馬車から降りてこなかったしな。俺の顔を知ってるってことは、馬車の窓から覗いていたのか?

俺は最後の抵抗を試みる。


「え?誰かとお間違えでは?私の名前はジンですよ?」


「貴様の名前なんぞ知らん!貴様の顔はよく覚えておる。知らないふりをするな!」


「それで、俺に何の用ですか?」


「昨日の一件だ。黒目黒髪のくせに、わしの馬車を横切るとは不敬な。異端審問にかけてやる!」


異端審問がどういうものかは知らないけど、公平に判断はされないんだろうな。中世でも水の底に10分沈めて生きていれば無罪とかいう無理難題を押し付けてたみたいだし。逆に火あぶりにして死んだら無罪とかいうのも有ったな。


さて、人間にしては魔力の大きい気配が近づいてきてるが、どうなるかね。


ガチャ


「司祭、何を大きな声を上げているんですか。ここは神殿内ですよ」


「こ、これは司教様。このものが私の馬車の前を横切ったのです。黒目黒髪で、です」


ん?横切ったことじゃなく、黒目黒髪がいけなかったのか?


「むう、立派な黒目黒髪だな。そなたなんと申す?」


「はい、ジンと申します」


頭を下げてみる。


「うむ、礼儀は心得ているようだな。それでそなたが司祭の馬車の前を横切ったというのは本当か?」


「はい、子供がはねられそうでしたので、助けた結果、司祭様の馬車を横切った結果になりました」


「ふむ、子供をな。それを証明できるものは?」


「俺のパーティメンバーくらいでしょうか?」


あとはその辺にいた一般市民だろうけど、味方してくれないだろうね。


「それでは証拠にならんな」


「司祭、どうするつもりだ?」


「はい、黒目黒髪です、異端審問に十分の理由でしょう」


「異端審問か。黒目黒髪だけでは弱いな。馬車を横切っただけなら罰金で終わりだ。そなた罰金金貨1枚払えるか?」


「どうぞ」


俺は素直に金貨を払った。


「うむ、確かに。では今回はこれまでだ」


「騎士よ、外に連れて行って差し上げろ」


「は!」


俺は神殿から追い出された。



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