177 おじちゃん
俺たちが街を歩いていると、すごい速度の馬車が走ってきた。
子供が引かれそうだったので、助けると、馬車が急停止した。おい、止まれるなら、子供を引きそうな時に止まれよ。
「そこの者、名を名乗れ!司祭様の馬車の前を横切るとは何事か!」
あー、そういう文化なのね。貴族と一緒か。それも嫌いなタイプ。
「俺の名はゼロだ。子供が跳ねられそうになっていたから、助けた。それよりも止まれるならなぜ止まらない。子供は見えていただろう?」
「ええい、うるさい。ゼロだな覚えたぞ!近いうちに処罰してくれる!」
そのまま馬車は去って行った。
「坊主大丈夫か?」
「うん、おじちゃんありがとう!」
ニッコリと笑ってくれるのはいいんだが、おじちゃんって、まだ23、いや24だぞ。
「おう、いつでもお兄ちゃんが助けてやるからな!」
「うん、おじちゃんありがとう」
「さ、さあ、もう行きなさい。あの司祭が戻ってきたら面倒だ」
「うん、おじちゃんありがとう」
子供は去って行ったが、子供って残酷だ。
「おじちゃんですって。ぷっ」
「おじちゃんですわね。ププッ」
「お前たち、何がおかしい」
「なんでもありませんわ」
「そうですわ、なんでもありません」
メアリーもリリアも笑ってやがる。そんなに俺がおじちゃんと呼ばれると嬉しいか。そうか。
「メアリーおばちゃん、元気ですかー」
「わ、私まだ18ですわよ!」
「リリアおばちゃーん」
「私もまだ18ですわ!」
「おじちゃんと言われた心の痛み、思い知るがいい」
「もう、おじちゃんとは言いませんわ。おじちゃんとは」
「ええ、私もおじちゃんとはいません。おじちゃんとは」
メアリーもリリアも喧嘩売ってるなら買うよ?
メアリーとリリアの頭を軽く叩いておく。
きゃーいたーい、とか行ってるがじゃれ合いの中だ。
それよりも司祭がアレではこの国の未来も暗いな。
メアリーの話を聞く限りでは、厳格に戒律を守ってる感じだったんだが。末端は違うということだろうか?
俺たちは宿に戻って休むことにした。
翌日は魔の森で討伐だ。
北に進むと3日ほどで魔の森に着く。森は薄暗く、中に入ると迷いそうだ。
魔の森自体はゴブリンロードの際に少し奥まで入ったことがあるが、アレは迷ったら出れない。俺は空が飛べるからいいけど。
全員で森をかすめるように西に向かう。
ゴブリンを見つけたが、メアリーが<火魔法>で焼いて終わりだ。メアリー、顔を狙うのが早いとはいえ、討伐証明部位の右耳は無事に残しとこうぜ?
ろくな魔物がいないので、街道まで戻って中に入ることにした。馬車は置いていく。
1時間ほど歩くと、オーガが1匹いた。俺が<水魔法>で覆ってやると、メアリーが炎で焼いた。苦しんで死んでいったが、どちらが苦しかったんだろう?
討伐証明部位は角だ。それとオーガは皮が売れるので、皮を剥ぐ。これは敢えてメアリーにやらせた。普段は奴隷組がやってしまうので、あまりやる機会がなかったのだ。
メアリーは拙い手つきで皮を剥いでいくが、見ていて危なっかしい。あ、皮を貫通した。ああ、肉がごっそりついてる。
メアリーが剥ぎ取った皮を持ってきたが、俺は全体を見て、
「売り物にならんな、落第」
と言った。
メアリーは自分の剥いだ皮を持って、恨めしげに俺の方を見るが、持って帰ってもバカにされるだけだ。Cランクなら出来て当たり前だからだ。Fランクの新人のようなことをやっていてはダメなのだ。
「こ、この辺なら使えますわ!」
皮の一部を指して主張する。
「それだけじゃ買い取ってくれないな。その広さだと、防具にも使えない。買い取るだけ損するだろう」
「そんな。。。」
「まあ、初めてなら上出来だ。皮は剥げたんだからな。クレア、改めてメアリーに何が悪かったか教えてやってくれ」
「うう、クレアよろしくお願いしますわ」
これで一応依頼は果たした。
あとは俺の用事だ。
「もう少し先に進むぞ。こんなやつでは訓練にならん」
先の方に魔力を感じていたのだ。それも大きな反応を。ゴブリンジェネラルクラスじゃないだろうか?
俺はワクワクしながら奥に入っていく。
、、、ヒュージスパイダーがいた。
ヒュージスパイダーってこんなに反応大きいのか?それをもこの個体の問題か?
なんにせよ、大きな魔力を持っているなら強いんだろう。
俺は<風魔法>で足を切り落とす。地面すれすれを一閃だ。人間でいうと指が切れただけだが。。。
ヒュージスパイダーは一瞬バランスを崩したが、何も感じてないように見える。蜘蛛って痛覚ないんだっけか。
そのまま突っ込んできたので、風の斬撃をお見舞いしてみた。手加減しすぎたらしい、弾き飛ばしただけだった。
もっと鋭くできるかな?風を真空にする気持ちで放ってみる。
頭がスパッと切れた。うん、これいいな。
しかし、ヒュージスパイダーは頭を切られたまま突っ込んできた。
「げっ」
俺は頭にパンチを叩き込む。頭が完全に潰れた。
それで死んだらしく、地面に横たわった。
そういえば、蜘蛛なのに糸使わなかったな。なんでだろう?まあいいか。
「誰か、ヒュージスパイダーの討伐証明部位は知ってるか?」
「触覚じゃなかったかしら?」
俺はヒュージスパイダーの顔を確認し、触覚が顔にめり込んで潰れてるのを見た。
「売れる部位は?」
「口のあたりにある、糸を吐く部分ですわ」
俺はヒュージスパイダーの顔を確認し、糸を吐く部分がめり込んでいるのを見た。
「他には?」
「ありませんわね」
ふう、素材はなしと。そういう事もあるわな。
「帰ろうか。。。」
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