164 ボンタン


宿の前には立派な馬車が停まっていた。


メアリーはドレスに着替えてきている。王族に会うのに、普段着じゃダメらしい。俺?貴族服なんて持ってないよ?なんであんなに窮屈な服着たがるかね。


俺たちは王宮に、、、向かわずに、服屋に向かった。俺の服を買うらしい。ヒギンズさんもメアリーが説明すると納得し、服屋に連れて行ってくれた。どうやら俺も普段着じゃダメらしい。



「どんな服でもいいような気がするが。。。」


「それでは通りません。相手は王族ですよ?」


「王族ならここにもいるが。。。」


「わ、私はいいのですわ。ジン様と婚約予定ですし」


「いや、そんな予定ないからな」


「あら、残念」



「それでどの服がいいんだ?」


「そうですわね。店員に聞いてみましょう」


意見がある訳じゃなかったのね。てっきり何か着せたい服があるんだとばかり思ってたけど。



「これなんかいかがでしょうか。最近王都で流行っているボンタンという形状になります。太ももなどの部分が大きく膨らんでいるのが特徴です」


異世界でボンタンって。しかも流行ってるって、どこのヤンキーだ。


「もっと目立たないのはないですか?」


「目立たないのですか。難しいですね。貴族様は目立ってなんぼの世界ですので、多少奇抜な服装の方が喜ばれます。その為当店で用意しておりますものも、新鋭のデザイナーがデザインした、結構奇抜なものが多いです。

当店で用意できるものといえば、タキシードでしょうか。昔から無難と言われているもので、派手さはありませんが、清潔感をアピールできます」


タキシードあるんだ。俺確か、最初にリリアの家に呼ばれた時、『フリルの付いた上着に、ピッタリとしたズボン』を着させられたが。恥ずかしかったので、よく覚えている。


「じゃあ、そのタキシードで。サイズを合わせてもらえますか?」


店員はメアリーの方を向いて確認した。

メアリーは頷いていたので、問題ないのだろう。

俺じゃなく、メアリーに聞くところが微妙だが。


「はい、では合わせてまいりますので、しばらくお待ちください」


奥の部屋に裁縫のできる人がいるようで、すぐに直してくれるらしい。




「はい、サイズ直しが終わりました。着て帰られますか?」


「はい」



俺は買ったばかりのタキシードを着て、馬車に乗った。



王宮に着くとすぐに応接間に案内された。

紅茶を楽しんでいると、『フリルの付いた上着に、ピッタリとしたズボン』を着た人が入ってきた。

あの服、着る人いたんだ。


入ってきたのはぽっちゃり体型の若い男性だった。15歳くらいだろうか。


メアリーが先に話しかけた。


「シグルド様、お久しぶりにございます。ザパンニ王国第3王女のメアリーにございます」


メアリーが様付けで呼んでいるからには、この男性が第2王子なんだろう。俺は一応膝をついて頭を下げた。


「無理を言ってきてもらって、すまなんだ。メアリー王女お久しぶりです」


格好はなんだが、挨拶はまともだ。



王族ともなると、いきなり本題に入るわけにもいかないらしく、雑談からはじめった。

しばらく雑談していると、メアリーから今回の呼び出しに関しての話題が振られた。


「うむ、その件に関しては、冒険者ジンに対しての指名依頼といっても良いと思う。

実は今度、私の『成人の儀』が『試練の祭壇』で行われる。

タスクのダンジョンだ。その道中の警護をおねがいしたい」


「騎士が護衛すれば良いのでは?」


「それなんだが、一緒に入れるのが3人までと決まっておってな。騎士団長なども同行するのだが、ダンジョンには不慣れだ。

なので冒険者を雇う事にしたのだが、今日メアリー殿下が王都に入られたと情報が上がってきてな。それならジン殿が来ている可能性があると、調べさせた。

結果、ジン殿と思われる人物が一緒にいると言う事が分かったので、こうしてきて頂いた次第だ」


「ジン様は死んだと言う事になっていますが?」


「我々は信じておらんかったのでな。

Sランクの生存率は高い。一年戻らなかったので、最近は死んだかもしれないと言う話も出ていたが、メアリー殿下が旅に出たと聞いてな。生きてる可能性を捨てれなんだ」


「なるほど、私の線からばれましたか。ジン様申し訳ありません」


「いや、それは構わないが。。。ここでバレるとは思ってなかったからな。どうしようか」


「ジン殿が名乗り出ないので、Sランクの依頼とするわけには行かず、かといって、Fランクに依頼するわけには行かず。なので、直接呼ばせてもらった」


「手間をおかけして申し訳ありません。しかし、Sランクに匹敵する難易度なんですか?正直、王族が成人するたびにSランクを雇っていたら、いくらあっても足りないかと思いますが」


「それに関してだが、通常はBランク程度の者を連れて行くのが多い。しかし、最近ダンジョンがきな臭くてな。賊が出ると言う話も聞く。なので、できるだけ高いランクのものを選びたかったのだ。

内容は護衛と案内、期間は2週間、報酬は白金貨1枚でどうだろうか?」


「案内に関してはお約束できませんよ?」


「それは構わん、『試練の祭壇』までの地図はあるのでな。どうだろう?受けてはもらえないか?」

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