163 べスク王国


俺たちはべスク王国に向かっていた。

数日で国境の予定だったが、途中の村でハプニングがあった。


「旦那、うちの娘を買ってくだせえ。銀貨、いや、大銅貨でいいだよ。いや、ただでもいい、連れて行ってくんろ」


村によると、道の端にガリガリの男性と、若い女の子が並んで座っている。

奴隷の売り込みとは。


「王都の奴隷商に行った方が良いのでは?」


俺は正論を吐くが、王都ではダメだったらしい。


「それが、食えなくなったモンが多いらしくて、いくら安くても買ってくれねぇだ」


「でも大銅貨じゃ芋くらいしか買えないでしょう?」


「いんや、俺たちの飯代じゃねぇ、買ってもらえれば、この子は飢えなくてすむだ。戦争で男手取られて、畑も十分に耕せねぇ。これじゃ、この村もおしまいだ。なんで、おねげぇだ。この子を連れて行ってくんろ」


どうやら、食糧事情がよくないらしい。この様子じゃ、王都が飢えるのも時間の問題じゃね?


「悪いが、奴隷は間に合ってる。他の人を当たってくれ」


自衛もできない奴隷はいらない。今から仕込むなんて、時間がかかりすぎる。顔も特に好みというわけでもないしね。



「思ったよりも食糧事情が悪いな。来年もヤパンニ王国は存在してるのか?」


「どうですかしら。存在していて欲しいですわね。こんな状況で領地にしたら、負担が大きすぎますわ。下手すると放置で、全員が野盗と化すかもしれませんわね」


「放置なんてことがあり得るのか?」


「可能性は低いですが、あまりにも得るものが無さすぎですわ。港が手に入るのが利点といえば利点ですが、王都からも遠く、それほど価値はありませんの。

領地化するとしたら、野盗を生み出さないための、治安維持の一環となるかしら。その場合もべスク王国と分け合いたいところですわね」


どこも世知辛いね。



「村にいると、何されるかわからないから、もう少し進んでから野営する。

べスク王国に入るまでは野営だと思ってくれ」



5日ほどで国境までこれた。

国境では審査が厳しく、犯罪歴などを調べられた。俺のギルドカードがヤパンニでの発行という事もあって、入国審査は厳しかった。結局、保証金という形で金貨1枚収める事で話がついた。

保証金が払えるようなら、食い詰めた犯罪者じゃないだろう、という判断だ。余計な出費は勘弁して欲しいね。


国境で聞いた話だが、ヤパンニからの亡命者はあとを断たないらしい。

街道を歩けば関所があるので、防げるが、国境全てを壁で覆っているわけじゃないので、どんどん入ってくるらしい。そのせいで国境付近の村は治安が悪くなっているらしい。

街レベルになると、入り口で止められるのでまだマシらしいが、食料の高騰などが始まっているそうだ。


べスク王国自体は一年中温暖で麦や塩も充分に採れ、輸出までしている。ザパンニの塩の三分の一はべスク王国から買い入れている。


ヤパンニも塩が取れるのだが、技術が未熟なうえ、真面目に作ってないので砂が混じってたりして、人気がない。ザパンニも属国となった時に塩を求めたが、使い物にならないため、放棄したらしい。


べスク王国王都、ベスラートまでは10日間だ。途中の村は治安が悪くなったというだけあって、ピリピリしていた。俺たちは村で泊まって、刺激するのもなんなので、離れたところで野営した。



10日後、ベスラートについた俺たちは、ギスギスした村の雰囲気に疲れ切っていた。村を通り過ぎるたびに、視線が痛いのだ。よそ者を歓迎してないのはすぐに分かった。


ベスラートは王都と言うだけあって、活気があった。村の雰囲気がなんだったのかと言うくらいだ。俺たちはまず、ギルドに向かった。


「いい宿を紹介して欲しいんですが?」


「どの位のランクのが良いでしょうか?」


「そうですね、中級で。馬車を預けれるところがいいです」


「それならカゴメの鳥亭ですね。料理が美味しいです」


「ありがとう」



俺たちはまず、宿をとり、馬車を預けた。

旅の間は精神的に疲れたので、今日は休みでゆっくりとする予定だ。


夕方に俺の部屋のドアをノックする者がいた。魔力の感じではリリア達ではない。俺は不思議に思いながらも戸を開ける。


「初めてお目にかかります。私は近衛第3隊の小隊長をしております、ヒギンズと申します。第2王子のシグリッド様がお会いになりたいと仰せです。一緒に来ていただけないでしょうか?」


なんと、王族からのご招待だ。なんで俺の正体バレたんだろう?


「誰かとお間違えでは?」


「冒険者のジン様ですよね。ヤパンニからお疲れ様でした。王宮にて部屋を用意してあります。また、メアリー王女殿下もご一緒に、との事です」


メアリーの線からバレたのかな?しかし、ヤパンニから来たのもバレてるって事は、国境の段階でバレてた?いや、それならその時に言われてもおかしくない。なら、王都に入る時か、ギルドに行った時だな。

メアリーの顔を知っている人がいたのかもしれない。


べスク王国では特に何もした覚えはないので、敵対的、と言うわけではないだろう。

とりあえず、様子見かな。


「わかりました。少しお待ちください」


俺はメアリーに声をかけて、ヒギンズさんについていく事にした。

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