162 ヤパンニ王国 (4)


「王都を出る」


俺は翌日の朝、そう言いだした。


クレアの件も終わった。図書館は閉鎖中。他に見るべき場所もない。

いる必要ないよね?


「まずは港町ロアナに向かい、別大陸への船がないか探す。多分、今の状況からして、船は出てないだろうが、別大陸の噂でも聞ければ儲け物だ」


俺は目的を明確にするために、説明する。


「過去に船を出したことがあるかなどを、引退した船乗りから聞くのがメインだ。今の現場はロクな生活してないだろうしな。むしろ嘘を教えられる可能性が高い。連れてってやるから、お金出せって感じでな」


予定を発表する。


「ロアナで3日噂を集めて、何もなければ、そのままべスク王国に渡る。

以上が今後の予定だ。何か質問は?」


「貴族からも噂を集めますの?」


「できればそうしたいが、身分を隠さずというのは難しいだろう?」


「そうですわね」


「それに、船乗りがロクでもないの以上に貴族はロクでもないだろうしな」


「ずいぶん嫌われてますのね?」


「ヤパンニ王国の貴族だぞ?お前も以前の交渉の際にわかってるだろう?」


「ええ、自分たちの殻にこもって、周りが見えてませんでしたわね」


「そんな連中相手にしてられるか。地道に噂を集めた方が有益だ」


「了解ですわ。それなら、私も一般の噂を集めに行こうかしら。リリア、ご一緒しませんこと?」


「そうですわね。メアリー一人では何するかわかりませんし」


「あら、信用ないですのね」


「過去を振り返って御覧なさいな」


「まあ!リリアも言うようになりましたね」



リリアとメアリーのじゃれあいはともかく、荒廃しているヤパンニ王国では噂を聞くのすら無理かもしれない。もう少し後に来るべきだったか?




「おじさま、少しお話よろしくって?」


「おじさまはやめてくれや。貴族の嬢ちゃん。それで何が聞きたいんだ?」


「他の大陸について知っていれば。。。」


「あんなのは昔の噂話だ。少なくともここ100年はねぇよ。なんだい、学者かなんかかい?だったら、他の大陸の事なんかじゃなく、この大陸についてでも調べた方が有益ってもんだぜ。遺跡やなんやと、わかってない事も多いからな」




「オヤジ、他の大陸について知らないか?噂話でもいい」


「おいおい、嬢ちゃん、人に聞くときは作法ってもんがあるだろう?」


「ああ、すまん、オヤジに酒を!」


「ウンウン、わかってるじゃねえか。それで他の大陸についてか。何千年も前に獣人の国があるって言う噂が流れたらしいが、船を出したって話は聞かねえな。

そういえば、リングシュタット商会が最近、宛先不明の船を出してるって話だな。もしかしたら獣人の大陸にでも言ってるのかもしれんな。ガッハッハ」




「おっちゃん、ちょっと話いいか?」


「ん?出すもん出してから聞きな」


「おっちゃんに一杯やってくれ!」


「そうこなくっちゃな。それで何が聞きたいんだ?」


「最近、獣人の奴隷を見たんだけど、この辺じゃ珍しくないのか?」


見てないが、そういう事にしておく。


「獣人の奴隷?この辺にそんなのいるわけねぇだろ。獣人の奴隷なんて、教国にいるって噂しか知らねえな。獣人自体見たことのあるやつなんていねえよ」


「帝国の東に村があるとか、教国が囲い込んでるとか言う噂を耳にしたんだが。。。」


「教国にならいてもおかくねえな。多分全部奴隷だろう」


「なら、俺の見た獣人奴隷はなんだったんだろう?どう思う?」


おっちゃんは、空のジョッキを見せてくる。


「おっちゃんに追加!」


「俺には難しいことは分かんねぇが、教国で奴隷を買ったんじゃねぇか?高いだろうし数も多くないだろうから、コネとか必要だろうけどよ」


「この国で、獣人を買えそうな商人って言ったら、誰だ?」


「リングシュタット商会だな。この国最大の商会だ。リングシュタット商会がなければ、この国は潰れてたと言われてる。コネも十分持ってるだろうよ。教国とも商売してるしな」




「と言うことで、リングシュタット商会が怪しいことがわかった。明日はこの商会に面会に行ってくる。お前たちは商会の周りで獣人を見かけないか、周囲を張ってくれ」


怪しいと行っても犯罪犯したわけじゃないんだけどね。商会になんと行って話を聞こうかな?




「ごめんください。少し聞きたいことがあるんですが?」


「いらっしゃいませ。聞きたいことですか?私で答えれることでしょうか?」


「それは分かりませんが、ここでなら獣人の奴隷を買えると聞いてきたのですが。。。」


「そう言う噂があることは知っていますが、当商会は奴隷を扱っていません。なので、ご期待には添いかねます」


「そうですか。では、どこに行けば買えるでしょうか?」


「教国でも行くことですね。運が良ければ買えるでしょう」


「そうですか、お時間取らせてすいませんでした」


もうちょっと聞けたかもしれないけど、この辺で引き下がっておこう。あんまり突っ込むと商会的に都合が悪い可能性もあるからね。行き先不明の船の話もしたかったんだけど、、、まあ、いきなり聞かれても答えてくれないだろうしね。




「と言うことで、教国なら何か知っている可能性があることがわかった。なので、この件は教国に着くまでは保留だ」


行き先不明の船など、怪しいにも程があるけどね。この国にはコネもないからこれ以上は無理だね。

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