161 ヤパンニ王国 (3)


図書館も開いてなく、マリアの買い物も終わってしまえば、俺たちにすることはない。

クレアの調べたいことが終わるまで、暇だ。


「クレア、調査は順調か?」


「あまり良くない。明日は別の方面から調べてみるつもりだ」


「そうか。メアリー、明日は俺が一緒につく。宿で暇してろ」


「ええ、ゆっくりさせてもらいますわ。外に出てても辛気臭くて。ジンさまもすぐに嫌になりますわよ」



俺は退屈の方が辛い。


翌日、クレアについて街を回る。


スラムの方に向かうようだ。ただでさえ治安の悪い王都で、スラムに行くとは。何か目的はあるんだろうけど、長居はしたくないな。


クレアは迷うことなく、スラムの一角にある、比較的マシな建物に入っていく。俺もついていくが、中にはガラの悪い連中がたむろしていた。


「ベルフリート傭兵団のクレアだ。情報が欲しい」


「ベルフリート傭兵団だと?二年前の戦争で潰れちまっただろう。今更なんの情報が欲しいってんだ?男探してんなら俺が相手になるぜ」


「そっちは結構だ。傭兵団のシュバルツという男を探している。二年前の戦争では生き残っていたはずだ」


「シュバルツ?俺たちの知っているシュバルツといえば、リンゴルム傭兵団の副団長をやってるシュバルツだけだな」


「リンゴルム傭兵団?聞かない名前だな」


「ああ、二年前の戦争の後にできた傭兵団だ。団長とそのシュバルツの2人で立ち上げたそうだ。今は国に雇われて、各地で警備をやってるはずだ」


「ねぐらはわかるか?」


「ベルフリート傭兵団の使っていた建物をそのまま使っているはずだ」


「そうか、情報感謝する。これは礼だ」


クレアは銀貨を数枚渡した。


「おお、銀貨じゃねーか。ごっつぁんです。おい飲みに行こうぜ」




「まさか元の巣をそのまま使ってるとは思わなかった。

リンゴルム傭兵団か。シュバルツが立ち上げた時点であまりいい感じはしないな」


「聞いていいのか知らんが、そのシュバルツは何をしたんだ?」


「二年前の戦争で、私は捕虜になったが、その時にお互いに保釈金を払いあおうと約束して、約束を果たさなかった男だ」


「なるほど。その男を見つけてどうするんだ?」


「決闘を申し込む。ご主人様に許可が必要だったな。許可をもらえるだろうか?」


「そのくらいは構わんが、それほど強いのか?」


「少なくとも二年前は私より強かった。今の私と比べると分からないけど」


「そうか。勝算がなければ決闘は仕掛けるなよ?」


「ああ、わかってる。うん、わかってる」


あまり分かってないようだな。感情的になる前に止めれればいいんだが。

とりあえず、ベルフリート傭兵団のねぐらに行くみたいだ。すぐに決闘とかならないといいんだけど。


少しマシな区画の建物に入っていく。慣れた手つきで扉を開ける。

中はガランとして、誰もいなかった。


クレアはそのまま2階に上がり、突き当りの部屋をノックする。


「誰だ?!」


人がいるのを確認して、扉を開いて入る。俺も後ろから入るが、中には小柄な男が一人いるだけだ。


「やっぱりお前か、シュピーツ。ベルフリート傭兵団の資産はどこへやった?お前が管理していたはずだな?それともこの傭兵団を立ち上げるのに使ったのか?」


どうやら、シュピーツとやらが、ベルフリート傭兵団の金庫番だったらしい。そうか、傭兵団の資産があれば、傭兵の保釈金も払えたんだろう。つまり、シュピーツが自分の懐に入れるために払わなかったと。

話が見えてきた。なるほど。シュバルツとシュピーツが手を結んでいたとすると、クレアの保釈金が払われなかったのも当然だ。


前の傭兵団の傭兵が残っていると邪魔だろうしな。


「な、何を言っている!わしが事情を知った時には全て遅かったのだ。全員奴隷に落とされてたから、仕方なく、資産を売却して、新しい傭兵団を立ち上げたんだ。お前に指図されたくないわ!」


「コソコソしていたお前が団長か。偉くなったものだ。それで、シュバルツはどこだ?あいつの事だ、真面目に仕事なんてしてないだろう?」


「ああ、あいつは酒に溺れてるな。傭兵団は各地の警備の仕事で順調に回っている。あいつはその資金を食いつぶすつもりかもしれん」



とりあえず話は聞けたので、シュバルツのよくいる酒場を聞いて、建物から出た。


「どうするんだ?その呑んだくれに決闘を挑むのか?無駄な気もするが」


「けじめは取らないとな。払えない事情があったならともかく、払うつもりがなかったのなら、私を侮辱したことになる」


「まあ好きにすればいいさ」




酒場に行くと、昼間から飲んでる男がいた。


「シュバルツ!よくも保釈金をがめたな!私と勝負しろ!」


「ああ?誰だおめぇ?」


「クレアだ、保釈金の約束を違えたお前と勝負しにきた!」


「クレアだぁ?昔そんな女もいたな。今更何の用だぁ?」


「今更じゃない!今だからだ!勝負だ!」


「そんな面倒なことやめてよ、一緒に飲もうぜぇ。奢ってやるからよぉ」


あの男はもうダメだな。酒にやられてる。指も震えてるし、剣も持てないだろう。


「クレア、その男はもうダメだ。お前が相手する価値はない。気がすまないというなら、決闘じゃなく、今切り捨てろ」


「いや、もういい。私が復讐する相手はすでにいなかった。せめて真面目に警備の仕事でもしていればな」


「クレア、今日は酒を奢ってやる。宿で飲もう」


「すまん」


今日は潰れるまで飲ませてやろう。


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