159 ヤパンニ王国 (1)


俺はロービスの城門を通らずに外に出た。

城門を通るときにギルドカード見せたら騒ぎになるからね。

Sランクのギルドカードはそうそう見ないし、ジンって名前も覚えやすいしね。どこでバレるか分からないから。




俺は神様に、どこまであげたら終了なのか、に関して明確な答えをもらってない。さらに連絡方法もない。

また魔法陣でも使うしかないか?いや、あれはたまたま神様が助けてくれたから良かったものの、放っておけば世界の狭間に放り出される危険な魔法陣だ。命かけてまで神様に会いたいわけじゃない。


結局、誤魔化されたまま、この世界に戻ってきてしまった。




ヤパンニ王国へ向かう途中、盗賊が出た。ヤパンニ王国が荒廃してるのがよくわかるようだ。

俺の記憶では新しい、ヒャッハー君たちが思い出される。いや、今度のは正統派である事を祈ろう。


「おい、金目のもん、置いていけ!逆らったら殺すぞ!」


お、正統派だ。ウンウン、そうでないとね。

だけどね、ろくな装備もなしに喧嘩売るのはどうかと思うな。人数だけはいるけど。。。それでも10人か。


「貴様ら盗賊か?!」


御者席のクレアが誰何する。


「なんだー、おー、べっぴんさんだ!お前は残れ!他のやつは金さえ置いていけば、見逃してやる」


「何事ですか?」


マリアが馬車から降りて確認する。


「おおー、こいつもべっぴんさんだ!お前も残れ!他のやつは金さえ置いていけば、見逃してやる」


「うるさいですわね」


メアリーが馬車から降りて文句を言う。


「おおー、こいつもべっぴんさんだ!お前も残れ!他のやつは金さえ置いていけば、見逃してやる」


「どうしたのですか?」


リリアが馬車から降りて確認する。


「おおー、こいつもべっぴんさんだ!お前も残れ!他のやつは金さえ置いていけば、見逃してやる」


俺は出ない。

男がいないと思った盗賊がどうするのか興味があった。


「ん?もしかして女だけか?!よし、野郎ども、丸ごといただくぞ!」


もしかして、男がいた場合、本当に見逃すつもりだったのだろうか?


盗賊が一斉に攻撃してきた。

クレアとマリアが前衛に出て、受け止める。


その間にメアリーが<火魔法>で後ろの盗賊たちを炙る。

魔物と違って、人間は髪が焦げれば熱いのだ。それだけで戦意を削げる。まあ、焦げただけでは済まないんだけどね。


そろそろ俺も出ようかと、腰をあげたら、

「ウガッ!」「ホゲッ!」

とみっともない声を出す。


俺は外に出ずに、馬車の窓を開けてのぞく。


クレアの大剣で男たちが吹き飛ばされている。

クレア、筋力強化のスキルでもあるのか?いや、あれは<身体強化>使ってるな。<魔力操作>はうまくいったのだろうか?俺のいない間に練習したのかもしれない。


俺の出番はなさそうなので、馬車の窓から覗いていると、盗賊が逃げ始めた。手を出してはいけない相手だとわかったのだろうか。

しかし、逃がすわけがない。メアリーが<火魔法>で盗賊の後ろに壁を作る。


盗賊たちが躊躇している間に、クレアとマリアが接近して、後ろから切り捨てる。

マリアが首を狙ってる。暗殺者にでもなるんだろうか?


少し経つと、立っている盗賊がいなくなった。

メアリーも<火魔法>を止めて、周囲の警戒にあたる。


リリアが手を出そうとして、先んじて手を打たれて、アワアワしてる内に戦闘が終わってしまった。リリア、もう少し早く動こうな。


「ご主人様、申し訳ありません。盗賊が全滅しました。ねぐらを吐かせようと思ってたのですが。。。」


俺は馬車から出て、みなを労う。


「みな、お疲れ様。全滅したものは仕方ない。それに寝ぐらにそれほど大したもの置いてなさそうだしな。問題ないだろう。

死体を燃やしたら、出発しよう」


俺は後始末を任せて、リリアの方に行く。


「リリア、判断は早くしろ。やろうとした事、全部先にやられてたぞ?」


「は、はい。すいません」


「メアリー、<火魔法>の使い方が良くなってるな。魔力効率も良い。人間は顔を火で炙るだけで戦闘継続が難しくなるからな」


「ええ、いろいろ勉強しましたわ。幸い時間だけはありましたからね」


「マリア、首を狙っていたようだが、何か意味があるのか?」


「はい。短剣ではダメージが低いので、弱点を狙おうとするのですが、人間の弱点は首です。なので、首を狙う方法をいろいろと考えました」


「そうか。魔物の時はどうするんだ?」


「はい、弱点部分に短剣でもダメージが与えられるなら、狙いますし、そうでない場合は、魔物の目の前で派手に動き、引きつけます。倒すのはクレアの大剣で、と言う感じです」


「なるほど。クレア、<身体強化>、使えるようになったんだな」


「はい。一年かかりましたが、なんとか実戦で使えるレベルになりました」


「うん、みんなが考えて動いてて、嬉しいよ。この一年の成長が見れる。俺がいない間にも頑張ったんだな」


いつの間にか、盗賊の後始末を放り出して、俺と話している。

いや、俺の話なんて、後始末しながらのおしゃべりで十分だよ?



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