153 遺跡 (7)


「それで帰りのスケジュールですが、どうしますか。研究は中止を前提に動くんですよね?」


「そうですね。ただ、国の直轄事業なので、父上の決済が必要になります」


マリウス皇子では、決裁権がないと。まあ仕方ないけど、失職を嫌った研究者が逃げ出さなければいいですね?


「騎士は全員連れて帰るんですか?」


「はい、そのつもりです」


なるほど。それほど危機管理ができてないと。この辺の甘さが皇帝陛下との違いなのかな?皇帝陛下なら騎士を半分置いて、研究者を管理下に置くと思いますよ。


「出発の予定は?」


「明後日ですかね。さすがに騎士も休ませないといけませんし」


「わかりました。それまで遺跡でも見て時間を潰しましょう」




俺はあちこち見て回るふりをしながら、地面に魔法を放っていた。微細な振動を起こすものだが、人が感知できるほどではない。揺り戻しの魔力を感じて、地下室の大まかな大きさを測定する。深さまでは分からないが、遺跡と同じくらいだ。

本当に地下室だな。実は昔は街中の一軒家だったとかないだろうな。


これ以上は俺の知識では無理だな。実際にあの部屋の地下を掘るしかないな。

皇帝陛下の決済さえあれば、研究は中止になるし、その後にでも掘りにくるか。あ、そうだ、ヤパンニ王国の洞窟の魔法陣消しとかないと。


<転移>


ヤパンニ王国の洞窟の魔法陣を消すと、俺はすぐに遺跡に戻った。

今いた場所への転移だ。イメージに問題ない。



「何か強力な魔力を感じましたが、何かありましたか?」


研究員の一人が俺の魔力に気づいたようだ。


「いえ、何も?気のせいでは?」


一人しか気づいてないようなので、ごまかしておく。俺の<転移>はこの距離だと片道5000ポイントほど使う。当然その際に発せられる魔力は甚大だ。研究者の一人しか気づかない方がおかしいのだ。

君たち、本当に研究者?魔力くらい感知しようよ。





「明日にはここを引き払いますが、何かしておくことはありますか?」


マリウス皇子が確認してくる。


「特にはありませんが、研究者の方ともう少しお話ししてみたいですね。どんな研究をされてたのか気になりますし。

私たちは結論だけ見て判断してしまったので、過程でどんな検証をしたのか、などですね」


「なるほど、確かに結果だけを評価してはかわいそうですね。過程も聞いておきますか」


研究者の代表を再度呼び出して、話を聞く。


「それで、どんな調査を行なって、どんな結論を出されたんですか?」


「まず、私たちはこの魔法陣を<転移>とは結びつけてませんでした。遺跡の中とはいえ、部屋の中にあったので、遺跡の状態保存を行う魔法陣だと推測していました。

しかし、魔法陣に、6属性のどの魔力を流しても起動しませんでした。

なので、6属性以外の魔法陣だと断定し、他の魔法で魔法陣を使うのがないか、調べました。

挙がったのは<召喚魔法>ですが、<召喚魔法>の魔法陣はこれほど大きくありません。もしかして伝わっていない上級の魔法陣かとも思いましたが、初級、中級の魔法陣と関連性が全く見られませんでしたので、<召喚魔法>も候補から外しました。

古代語魔法も考慮しましたが、これに関しては資料がないので、保留としています。

あとは<時空魔法>の<転移>くらいしか残りませんでした」


「つまり、消去法ということですか?」


「そうです。他の未知の魔法体系というのも考えはしましたが、古代語魔法と同様に保留としています」


「現実的な考察として、今考えられる候補が<転移>だと?」


「はい。現在知られている魔法陣で最も考えられるのが<転移>だったのです。その時にジン殿の<転移>の魔法陣を見て、これだ、と思いました。他のどの属性の魔法陣よりも似ていたので。

魔法陣は少し違うだけで、違う魔法陣になることは周知の事実ですが、似ているのが同じ効果を持つ傾向にあるのも事実なのです」


「では、<転移>と断定した理由をお伺いしてもよろしいですか?国はこの調査に結構出資しています。効果を断定して、私を呼ぶだけの理由があったはずです。なかったのですか?」


「はい。他に考えられるのがなかったので、つい断言してしまいまして。結果を焦ったと言われればその通りです。この遺跡の研究は打ち切られるようですが、この魔法陣の研究は続けていくつもりです」


「そうですか。なら頑張ってください。今回のような中途半端な結論ではなく、理論的な根拠を事由に研究を進めてください」


消去法で断定できるのは、すべての条件を挙げられるのが前提だからね。


さて、ここで時間潰してても得るものはなさそうだし、帰る用意でもしますか。全部<アイテムボックス>に入ってるけど。






「、、、という訳で、<転移>の魔法陣ではないと結論を出しました」


俺は皇宮で皇帝陛下に、直接報告していた。


研究の不備や見通しの甘さなども含めて言及した。

暇してる時に魔法陣に<時空魔法>の魔力を込めてみたが、反応なかったので違うという説明にしてみた。


「そうか。違ったか。仕方ないな、報酬は後で文官から受け取ってくれ。無駄な研究にこれ以上金をかけないでよかったと思おう」


無駄じゃないですよ。断定するのが間違いなんであって、方向性としてはあってますよ。言わないけど。


「細かい点はマリウス皇子に聞いてください。現場での会話なども全部聞いてますので、私からの話よりも詳しく聞けるかもしれません」


「あいわかった。ご苦労だった」





リリアたちの無事を確認したが、特に問題なかった様だ。


皇帝陛下は約束通り、手を出さなかったらしい。まあもし手を出してたら、皇子だけの処分じゃ済まさないけどね。


俺は旅に少し疲れたので、しばらくは帝都でのんびりしよう。

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