152 遺跡 (6)


「ジン殿、何かめぼしいものはありましたか?」


マリウス皇子は遺跡の探索を終えた俺に成果を聞いてきた。


「流石に専門家が調査した後の遺跡を探しても、新しい場所は見つかりませんよ」


「それもそうですね。ジン殿なら何か新しい発見があるかと期待したんですが」


発見しましたが、いいませんよ?


「どいう風に見られているか、一度確認した方がいいのでしょうか?」


混ぜっ返しておく。


「いや、勘弁してください。ただの冗談です」


「いえ、ここは厳しくいきましょう。美味しいワインで手を打ちましょう」


「おや、ワインを持ち込んでいるのがバレましたか。仕方ありませんね、少しだけですよ?」


「おお、さすがはマリウス皇子、話がわかりますね」


二人で手酌でワインを飲んでいると、マリウス皇子が聞いてきた。


「昼間の日誌ですが、なんて書いてありましたか?」


「何のことですか?私は読めるなんて言ってませんが?」


「でも読めないとも言ってませんね。教えてください」


マリウス皇子は真剣な目になっていた。酒の場での目ではない。


「何故そこまで必死なのですか?研究者に任せておけばいいでしょうに」


「私には時間がないのです。私は第2皇子です。なので、皇帝にはなれません。なので、他の家に婿養子に行くことになります。ですが、私には好きな女性がいるのです。

何か手柄を立てて、その女性を娶る許可を取る必要があります。なので、どうか、何が書いてあったか教えてもらえませんか?私で出来る事があれば、なんでも手伝いましょう」


うーん、突っ込まないでくれるのが一番の手助けなんだけどなぁ。


「うーん、そうですねえ。一つだけヒントを差し上げましょう」


「はい!お願いします!」


マリウス皇子はやった気になっているが、聞いても何も始まりませんよ?


「あの魔法陣は<転移>の魔法陣ではありません」


「え?!」


「ですから、あの魔法陣は<転移>の魔法陣ではありません」


「本当ですか?!いえ、それを聞けただけでも十分です!ありがとうございます」


感謝されてもなぁ。あ、元の俺が書いた魔法陣が<転移>の魔法陣だと勘違いしていると問題ないのか。似てるけど違うからなぁ。なんであんないい加減な調査が許されるんだか。


日本であんな中途半端な調査に費用をかけていたら、すぐにクビだよ?あの調査に白金貨10枚の価値があるのか、至極不安だ。10億円かぁ。宝くじにでも当たらない限り、庶民には関係のない金額だな。

いや、今の俺はそのくらい稼いでいるか。ドラゴンいい値段だったなぁ。


俺はそのまま寝てしまったようだ。翌朝起きたら、毛布がかけられていた。




「だから、それは<転移>魔法の魔法陣じゃないと言ったでしょう?」


「何を根拠に言われてるんですか?我々研究者が調査の結果<転移>の魔法陣の可能性が高いと結論出したんですよ?違うというなら根拠を示してください」


「いやそれはその。。。」


俺から聞いたとは言えないのか、皇子が困っている。こちらを振り向いたが、俺は知りませんよ?


「ジン殿何か意見があるのではないかな?」


いや、こちらに振られても。。。


「私の使った魔法陣と同じじゃない時点でお察しください」


実際に使えるものから言われると自身が揺らぐのか、考える雰囲気になった。


「皇子、戻る予定ですが。。。」


「お待ちください。では、ジン殿の魔法陣を教えてください」


「うん?すでに手に入れられてるのでは?」


「はい。ですが、全く同じでなかった以上、正しい魔法陣は必要です。写しではまた同じ事が起きます」


言ってることは正論だけど、受けれませんよ?


「それはそちらで正確な写しをとってください。私の仕事ではありせん」


「ならば、いくらか研究費から出しましょう?白金貨1枚でどうですかな?」


「金額の問題ではありません」


「白金貨2枚」


「金額の問題ではないと言ったでしょう。しつこいと嫌われますよ?」


「しかし、、、」


「とにかく、その魔法陣を起動できたとしても、<転移>は使えません。

他に何か知る必要があるのですか?研究者の趣味にお金を出すほど国は甘くないですよ?

ちょうど皇子も聞かれています。自分で正確な写しをとればタダで済むのに、白金貨を出すなんて許されるわけないでしょう」


「その通りです。この研究は一旦凍結になると思います。もちろん、父上に報告した後ですが」


「それじゃあ仕方ないですね。研究お疲れ様でした」




「ジン殿、えげつないですね。私から直接研究の中止の言質を取るなんて」


「それくらい国をバカにしたお金の使い方をしてるということです。研究だと言えば全てお金が付いてくると思っているのがおかしいのです」


「その通りですね。もう少し金銭感覚を養わせないと」


「まあ、これで皇子の<転移>じゃないという主張に根拠ができたでしょう。この借りは高くつきますよ?」


「ええ、なんでもすると言ったのです。出来る限りの事はしますよ」


出来る限りと注釈をつけるところが権力者らしいね。逃げ道を用意している。まあ、でもその位の方が安心できるけどね。あの研究者に全部の情報を渡したら、その足で教国にでも亡命しそうだ。

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