150 遺跡 (4)
俺たちは、遺跡に到着した。予定通り一月だ。
翌日から、まずは報告を聞こうと、責任者を呼び出した。
「報告を頼む」
「はい。まず、遺跡にあった魔法陣はくだんの物一つだけでした。
あとは、日誌のようなものがありました。他に、地図のようなものが見つかっています。現在の大陸の地図とは違うので、他の大陸の地図かもしれませんが」
見つけたの、魔法陣だけじゃなかったんだ。
日誌に地図ねぇ。魔法陣が<転移>の魔法陣なら行き先が記されていると考えるのが普通だけど。。。
どれだけ昔の遺跡なのかは知らないけど、何万年と経っているなら、地形も変わりますよ?
それにもしも双方向型だと、相方が存在しないと動かないですよ?
最後に、これが一番重要だけど、俺に判断するだけの知識はないですよ?
俺は日誌と地図を見せてもらうことにした。
地図には一箇所にばつ印がついており、他は簡単な地形図だ。今の大陸図とは違う。
そして日誌を見て驚いた。
『日本語』で書かれていたのだ。
日誌には、「これを読めるものに託す」と最初に書いてあった。
帝国歴10150年7月21日
私は30年以上前にこの世界にやってきた。神隠しにあったようだ。この世界で言葉を覚えるのに2年、わかったのは、ここが地球ではないことだけだった。
それから帰る方法を探すこと25年。運良く<時空魔法>を取得するも、帰る方法は見つかっていない。
しかし、今回の魔法陣は一番期待できる。<転移>の魔法陣をいじったものだ。転送先を別世界にした。
もちろん、それだけでは、元の世界に帰れる保証はない。しかし、私の体は地球のものだ。引き寄せてもらえるのではないかと甘い考えを持っている。と言うか、それしか頼るものがないのだ。
この魔法陣でのテストに成功すれば元の世界に帰れるし、失敗したら、どこかわからない世界に転移するか、もしくは時空の狭間に取り残されるだろう。
この日記を読めると言うことは、日本人なのだろう。この魔法陣を信じるか信じないかは君の判断に任せる。後悔のしないようにしてもらいたい。
この魔法陣の起動方法だが、地下にある魔石に、変換前の純粋な魔力を100万ポイント分ほど注いでやれば良い。複数人でやれば可能だろう。それから魔法陣の真ん中に立ち、<時空魔法>の魔力を魔法陣に注げば良い。一定の魔力が注がれたら発動する。
予想では数千ポイントでいいはずだ。魔力が足りないなら、魔法陣の外に人を配置し、それぞれに<時空魔法>の魔力を注いでもらえばいい。それならば君が<時空魔法>を使えなくても起動できるはずだ。
私は日本に妻と子供を残してきた。私も今や70を超えた。今までの魔法陣は発動しなかった。なので、今回の魔法陣が起動するかもわからない。が、どちらにせよ最後の挑戦になるだろう。
この日誌が残っていると言うことは、魔法陣が起動したのは間違いない。どこに飛ばされるかはわからないが。。。
なんにせよ、君が元の世界に帰れる保証はない。だが、希望はある。なぜなら、魔法陣が起動したはずだからだ。
結果を残せないのが心残りだが、君にも諦めてもらいたくない。私の魔法陣を使うにせよ、他の方法を探すにせよ、時間の許す限り足掻いてみてくれ。
五十鈴亮司
日誌というよりも手紙だった。
まさか自分以外に転移してきた人がいるとは思ってなかった。
神様、他にきてる人がいるなら、先に教えておいてくださいな。
帝国歴とあるが、今の帝国とは違うのだろう。古代帝国のことだろうか?
「あの、ジン殿?」
「はい、なんでしょう?」
「それを読めるのですか?」
「え?」
俺が熱心に読んでいるのを、周りは静かに待っていたらしい。
そういえば、これは『日本語』で書かれている。おそらく俺以外に読める人間はいないはずだ。日本語は習得するのに最も難しい言語だと聞いたことがある。解読するのも、言語を知らないと、余計に難しいはずだ。
つまり、この世界では『日本語』は読めない。
その上で、慎重に返答しないと、まずい事になる。
「いいえ、この文字が古代帝国の文字なのか、興味を持っただけです。どうなんでしょう?」
研究者に話題を投げると、喜んで説明しだした。ごまかせたかな?
「古代帝国の言語も解読されてはいませんが、主に使われている文字は28文字です。それはこの日誌の文字とは異なります。なので、古代帝国時代の他の国の可能性もあります。ですが、ジン殿はこの日誌を横に向け、縦方向に見られていた。その発想はありませんでした」
この日誌、方眼紙に書いたように、縦横同じ間隔で書かれてるんだよね。なので、普通に横文字文化の人が見ると、90度左に傾け、左から読むと、文章の空白が自然に見える。
なので、その方向で調べていたのだろう。余計なヒントを与えてしまった。
とりあえず、この日誌はわからないで通そう。
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