147 遺跡 (1)
帝都に戻り、中級の宿屋に宿泊する。
すると、その夜に使いの者が来た。
例の子爵からだ。
なんでももう一度会いたいらしい。
なんだろう?また依頼かな?これ以上受けると縁が出来そうなので、関わり合いたくないんだけど。。。
とりあえず、話くらいは聞かないとダメだろう。
使者の用意した馬車に乗っていくと、帝宮に連れて行かれた。
いや、そんな気はしてたんだ。子爵はこれ以上用事ないはずだしね。用事があるとすれば、毒に侵されていた皇族くらいだろう。お礼とかだったらいらないんだけどな。口封じじゃなければいいなぁ。
案内された部屋に入ると、紅茶を出してくれた。一応<鑑定>しておくが、毒などは入ってない。ビットバイパーの毒でも入ってたら、皮肉が効いてて、むしろ興味を持ったかもしれない。
しばらく待つと、使用人が準備ができたと呼びに来た。
さて、誰が待ってるのかな。
「よく来てくれた。わしは今代の皇帝をしておる、ガリウス・フォン・アズールと申す。そなたがジンだな。
今回はわしの息子を助けてくれて感謝しておる。もうダメかと思ってたからの。
こやつが今回愚かにも毒にやられた第2皇子のマリウスだ。
挨拶せい」
「マリウス・フォン・アズールです。
今回は助けていただき、ありがとうございました。このご恩は必ず返させてもらいます」
「あー、そういうのは良いです。報酬は貰ってるんで。
それで、今日の用事はお礼だけでしょうか?それなら帰らせてもらいますが?」
「まあ、待て。そう急ぐでない。
まずは茶でも飲もうではないか」
俺は別に用事はないんだが。。。流石に皇帝を前にして、勝手に席を立つのも非礼だし。
一応この紅茶も<鑑定>しておく。なんと何も入ってなかった。逆に恐ろしいね。何考えてるんだろう?毒か自白剤の2択だと思ってたんだけど、どちらもないとは。
本当にお礼に呼んだのかな?
適当な雑談を挟んで、皇帝が言い出した。ようやくだ。
「そなたには依頼したいことがある、、、」
「お断りします」
俺はセリフを遮るように断ると、席を立とうとした。
「まあ、待て。これを見ろ」
ん?本を出してくる。召喚魔法中級?
どこの本屋を探してもなかった本だ。
どうやら俺が<召喚魔法>の本を探していることを知っているらしい。ザパンニ王国にいた頃から調べられてた可能性もできてたな。頃合いとしてはSランクになったあたりが妥当なところか。
または<転移>がバレたあたりかも。
どこまで情報持ってるのかね?
「それで、なんでしょうか?」
一応座り直して聞いてみる。召喚魔法の本は、話を聞くくらいしても良い程度には読みたい。
「うむ。話を聞いてくれるようでありがたい」
そういうと、本を俺の方に押し出してきた。俺は素直に受け取る。
多分、話を聞かせるためだけの餌だ。
つまり、この後に重要な本題が出てくると言う事だ。
「帝国の東に何があるか知っておるかね?」
「海では?」
「まあ、それも間違いではないが、実は遺跡がある。ダンジョンではない。純粋に昔の建物という意味の遺跡じゃ」
まあ、そういう事もあるかもね。それで?
「その遺跡にある魔法具と思われる物が発掘された。その魔法具の調査をお願いしたい」
「研究者を派遣すれば良いのでは?」
「無論派遣した。その上で専門家が必要だと判断した」
「私は専門家ではありませんよ?」
「いや、今回の件に関しては専門家といって良い。魔法具は<転移>の魔法具だと思われるのでな」
なるほど、それで俺のことを調べていたのか。召喚魔法の魔法書はちゃんと調べてますよ、というアピールな訳だ。ごまかしても良いことないな。
「それで?」
とりあえず、肯定も否定もせずに先を促す。
「<転移>に関しては大賢者が使えたと位しかわかっておらん。わずか数十年前のことだが、記録がほとんど残っていない。なので現役のそなたの意見を聞きたい。研究者はそれほどに困っておる。危険な魔法具なら壊せといってあるが、危険かどうかすらわからんと」
「なぜ<転移>の魔法具だとわかったのですか?」
「そなたが使った魔法陣と同じ物が刻まれているそうだ」
そういえば、ヤパンニ王国の洞窟に書いた魔法陣、消してないな。そこから調べられたか。
しかし、俺の使った魔法陣と同じということは、別に<転移>とは限らなくなってきた。別に魔法陣なくても<転移>できるからね?
まあ、知らないだろうから、仕方ないけどね。教えるつもりもないし。
「私に<転移>の秘密をバラせと?」
「いや、そこまで求めていない。ただ、現物を見て、転移の魔法具かどうかだけでも判別したい」
「なら、ここに持ってきてください。すぐに確認しましょう」
「それがな。部屋一つでな。床に魔法陣が刻まれているらしい。なので、持ってはこれなんだ。そなたには現地に赴き、是非を確認してもらいたい。
その間は、メアリー王女の付き人として、そなたの連れも国賓待遇で迎えよう」
連れを人質にすると?
「ああ、既に使いは出して、皇宮に呼んである。メアリー王女なら断らんじゃろ」
既に確保していると?
「もちろん、危害は加えない。そなたにもだ。それはワシの名において誓おう」
「人質とはひどいじゃないですか?」
「まさか。人質などではない。客人だ。無論、そなたが断ったとしても変わらん」
「断れるんですか?」
「ああ、無理やりやらせても良い方向にはいかんのが研究だ。好奇心旺盛な研究者をいかに制御するかが肝心だ。枠にはめてしまうと、自由な発想が出てこん。なので今回の研究に関しては危険のある場合の破壊以外には指示しておらん」
なるほど、筋は通っている。
「では、ギルド経由で」
「それは出来ん。ギルド経由にすると、報告自体がギルドに流れてしまう。結果のいかんにかかわらずな。今回の魔法具に関しては帝国でもごく一部しか知らぬ、極秘事項だ。ギルドとはいえ、知られるわけにはいかん」
「それで危険の担保ができません。連れを害さないと誰が保証するんですか?あなたが依頼主である以上、あなたの保証では成立しません」
「そこまで考えているなら、息子をここに呼んだ理由もわかるじゃろ?」
「皇子を人質に出すと?」
「そうじゃ。皇子の視察に同行するという名目で、皇子の随行員という体で行ってもらいたい」
これ以上話しはなさそうだな。
「メアリー殿下と話をしてから決めましょう」
「うむ、それで良い。明日までに返事をしてもらおうか」
「わかりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます