139 結婚式
「時間はどうだ?」
「そろそろ時間ですが、新婦がドレスを着るのは時間がかかりますので、遅れるのはよくある事です。なので、ごゆっくりされるのがよろしいかと思います」
「そうか」
今日は俺たちの結婚式だ。
俺の要望通り、身内だけの結婚式だ。
メアリーも参列する。参加じゃないよ?参列ね。お祝いに来てる感じかな。
街の教会で式を挙げ、伯爵邸(城)で披露宴を行う。
披露宴は流石に身内だけというわけにいかず、近くにいる貴族が参加する。俺たちが主役の晩餐会だな。
まずは式を乗り越えねば。
誓いの言葉を繰り返してみる。うん、覚えてる。
この世界では、神父が言葉を言って『誓います』ではなく、自分で『〜を誓います』というのだ。この内容は決まっていない。単に『幸せにすることを誓います』でもいいし、華美な美辞麗句で飾ってもいい。
新婦側は、『新郎に全てを捧げることを誓います』というのが定型文だ。男系社会だね。
式が始まった。
俺は神父のそばで立っており、ドゴール伯爵とリリアが入り口から入ってくるのを待つ。
両開きの扉が開き、二人が入ってくる。静々と進んできて、俺の少し前で止まり、新婦だけが俺の横に来る。
「幸せにしてやってくれ」
ドゴール伯爵は俺にそう言って、横の参列者席に移った。
神父が式を進める。
「お互いに誓いの言葉を」
「私は、リリアーナ・フォン・オーユゴックを幸せにすることを誓います」
「私はジン様に全てを捧げることを誓います」
短いって?そりゃそうだよ。俺に詩人の才能はない。
日本の誓いの言葉だって覚えてないし。なんか、病める時も健やかな時も、だったか。自信がないので端折った。
それに俺は<不老>なので、一生の誓いをするわけにもいかない。もちろん、言葉だけでも、という考えもあるだろうが、俺はそこはこだわりたい。
「では、新郎ジンより贈り物を」
俺はリリアの首にネックレスをかける。一応ダイヤだ。金貨3枚とはいえ、ダイヤの金額としてはそれほど高くもない。なのでそれほど大きな粒というわけではないが、周りにくずダイヤをあしらった、ネックレスとしては大きなやつだ。
リリアはすでに涙をこぼしている。俺は指で涙を拭ってやる。
「嬉しい時に涙は似合わないよ。笑顔だ」
「はい」
「では、誓いのキスを」
俺はリリアの顎を持ち上げて、キスをした。
リリアは大粒の涙を流している。さっき、笑顔で、って言ったばかりなのにね。
そして、神父の後ろにある鐘を二人で鳴らす。
「神よご笑覧あれ。今日この二人は結ばれました。神のご加護を。
この誓いの鐘の音は神にも届いたことでしょう。お二人ともお幸せに」
俺はすでに『創造神の加護』持ってるよ?恋愛神とかいるのかな?イングリッド教国に行くまでに調べとかないとね。
このあとは馬車で伯爵邸(城)に戻った後、晩餐会だ。
リリアは晩餐会用のドレスに着替える予定だ。もちろん、その際は俺の贈ったネックレスをつけるはずだ。
つけてなかったら、俺泣くよ?誓いの後に贈ったのをつけられてなければ、結婚を気に入ってませんと言われるようなものだ。
もちろん、事前にネックレスの意匠は伝えてあるので、ドレスもそれに合わせてあるはずだ。
俺は晩餐会に参加する前にリリアに会いに行く。一緒に登場する予定だからだ。
「少しお待ちください。まだドレスを着ている最中ですので」
「わかった」
俺は待った。少し、の意味を辞書で調べたくなるくらいに待った。
入室を許されて入ると、黄色いドレスに金糸で刺繍された可愛らしいドレスを着ていた。金髪に合わせたんだろう。
胸元には俺の贈ったネックレスを着けている。うん、ちょっと安心した。
ネックレスが大ぶりなので、胸元は広く取られており、若さが強調されている。
ちょっと開きすぎでは?
二人で晩餐会の会場に入場する。当然最後だ。入場と同時に拍手が沸き起こる。
俺たちは、まっすぐに会場の真ん中にまで進み、音楽が開始されるのを待った。少し待つと音楽が始まり、俺たちは一曲踊った。そこからあとは、参加者も自由に踊れるダンスタイムだ。
俺たちも数曲踊り、果実水で水分を補給する。
そのあとは、挨拶回りだ。周囲の街を収める貴族たちだ。俺はこの時間が一番嫌いだ。思ってもないことを飾った言葉で言ってくるのだ。こちらも笑顔で応えないといけない。
正直、結婚式じゃなくて、披露宴を簡素にして欲しいと言った方が良かったかもしれない。多分その場合は受け入れられなかったと思うが。
平民とはいえSランク冒険者だ。知己になっておきたい貴族は多い。本来は俺たちの方から話しかけて、という流れなのだが、貴族の方から話しかけてくる。おかげで食事なども口にする時間はなかった。美味しそうだったんだけどな。
最後に俺から皆に挨拶をしてお開きだ。
俺たちが最初に退場し、あとはそれぞれが退出していく。
そのあとは初夜だ。もちろん、この世界にも初夜の文化はある。
ただ、俺的には今更だ。
だけど、何もしないのもリリアに失礼だしな。少しは頑張るか。
こうして俺たちの結婚式は終わった。
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