135 封印の剣 (3)


俺は魔の森を探索し始めた。

逃げ出したという場所から西に向かって。方向としては魔の森の奥地になる。


まずは<魔力感知>で大雑把な魔力の分布を見る。どこもかしこも魔物だらけだ。こうなったら<魔力感知>も意味がないな。判別できる1キロ範囲で探索しよう。


この辺の魔物になると、俺も注意が必要だ。オークキングクラスがゴロゴロいるのだ。知らない魔力を感知するたびに近寄って、相手を確認する。ゴブリンエンペラーやオークロードなどが散見される。

目的は討伐ではないので、放置する。

どんどん奥に入っていく。ソロなので、夜警が必要だ。光の結界ではこの辺の魔物は防げない。なので2轍が限界だろう。


だが、2轍も必要なかった。夕方にいは冒険者風の男を見つけたのだ。

男は血に染まった剣を持ち、目を血走らせて周囲を見ている。目元は窪み、隈が出来ている。寝てないのかもしれない。体から瘴気が漏れている。剣は封印の剣だ。別々に輸送するとか考えなかったのかね。

それにしても、よくこの魔の森で生き残っていたものだ。冒険者ランクはDだと聞いていたからだ。


男は何かに気づいたのか、俺の方を見る。気づかれた?<気配察知>でも持っているのだろうか?


男は奇声をあげながら俺の方に向かってくる。完全に見つかってるな。

さて、捕縛か討伐かだが、とりあえず捕縛を試してみよう。<地魔法>で足を拘束する。男は力づくで魔法を蹴散らした。筋力も異常だ。本当にDランクか?


俺は近づかれてはたまらないので、後ろに下がる。<風魔法>で剣を持った手を狙う。

男は剣を一閃すると、魔法が消えた。まさか魔法を『斬られる』とは思ってなかった。魔法の核が見えてるのだろう。封印の剣の力かもしれない。


こうなると、元Dランクという考えは捨てた方がいいな。捕縛ではなく、討伐で考えよう。魔法が斬れるのだ。侮ってこちらがやられたらシャレにならない。

男の瘴気が剣にまとわりつく。魔闘術に近い様だ。あれは俺でもやばい。


俺は男の後ろに回り込んで、<風魔法>で斬撃を繰り出す。100ポイント込めた。男は振り返って、剣で魔法を切ろうとするが、間に合わない。

肩からざっくりと裂ける。


しかし、切り口を瘴気が覆い、『斬られた状態のまま』襲ってくる。斬られて打ち消されるのを覚悟の上で<風魔法>の斬撃を撃ち出す。100ポイントだ。

封印の剣で魔法を斬ろうとするが、100ポイントは荷が勝ちすぎたらしい。斬れずに直撃する。魔法を斬るのは0か100かだ。中途半端に威力を減らすというのはない。

男は体を真っ二つにされ、倒れ込んだ。<魔力感知>は反応している。瘴気が残っている様だ。俺は<神聖魔法>で浄化を試みる。集中が必要なので、戦闘中は使えなかった魔法だ。


男の体に光が降り注ぎ、瘴気を中和していく。


魔法が消えると、男からは瘴気がなくなって、<魔力感知>にも引っかからなくなった。ようやく死んだ様だ。


封印の剣を見ると、あちこち刃こぼれしていて、男が激しく戦ったのを物語っている。神聖な雰囲気も消えている。瘴気での魔闘術のせいだろうか?

男が瘴気をまとったまま、封印していた剣を使えることがおかしいのは俺にもわかっている。だけど、封印の剣は瘴気との相乗効果で、瘴気を強めていた様に見えた。

封印するのに瘴気の力を使っていた可能性もあるな。瘴気を浄化して、純粋な魔力に変わったのを取り込んで再度浄化する。これを繰り返していたとすれば、瘴気の力を増幅してしまうのも頷ける気がする。


いや、本当かは分からないよ?ちゃんと研究者が調べないと俺にはなんとも言えない。


とりあえず、男の死体と封印の剣を<インベントリ>にしまう。

<転移>で王都の俺の部屋に移動する。


ギルドで報告しようとアイリスさんを探したが、いなかった。仕方ないので適当な列に並んで、ギルドマスターのゴルドさんを呼んでもらう。


「やあ、先日は捜索に加わってくれてありがとうね。

今日は何の用事かな?」


「それなんですが、別室でいいですか?」


「もちろんだよ」


俺たちはギルドマスターの執務室に移動する。


「それで何かな?」


「実はくだんの冒険者を発見しました」


「本当に?どこにいたのかな?」


「はい、魔の森に入って1日くらいの場所にいました。封印の剣を使って生き残っていた様です。瘴気の力に取り込まれており、かなり凶悪だったので、捕縛じゃなくて討伐しました」


「うん、ギルド的には討伐の方がありがたいね」


「死体を確認させてもらってもいいかな?」


俺は冒険者の死体を出す。封印の剣も一緒だ。


「確かにくだんの冒険者だね。特徴が一致する。それと、これが封印の剣か。全く力を感じないけど」


「その辺はよくわかりませんが、冒険者の瘴気が消えたのと関係あるかもしれません。研究者に調べてもらわないと」


「そうだね。よく見つけてくれたね。ありがとう。

ただ、捜索は打ち切ったので、報償は出せないよ?」


「ええ、別に必要ありません。俺の見つけた剣が最後にどうなったか気になっただけですから」


俺は報告をすませると、やることはやったと、屋敷に帰った。

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