126 ツチノコ


「何かいい依頼はないか?」


俺はアイリスさんに話しかけた。


「良い依頼ですか。Sランクの依頼はありませんね。Bランクで面白いのがありますよ?」


受付から出てきて、依頼ボードに向かう。


「これです」


俺は依頼を見た。


捕獲依頼、ツチノコの捕獲、1匹金貨2枚、1週間。


「ツチノコ?存在するのか?」


「ええ、珍しい魔物ですが、錬金術師には垂涎の的です。特級ポーションの材料となるらしいです。滅多に出現しませんが、目撃情報が複数あるので、錬金術師ギルドが発注したものです」


「捕獲とあるが、調査じゃないということは場所は分かってるということか?」


「はい。泥沼があるのですが、そこに生息しているそうです」


「Bランクの理由は?」


「その沼が北西の森にあるからです。北西の森は魔の森と繋がっていますので、それなりに強い魔物が出ます。泥沼を探している間に襲われたら目も当てられません。なので、警戒要員もいるBランクパーティが推奨されています」


「面白そうではあるが、期間が1週間じゃ探すのは難しいんじゃないか?」


「そうですね。ですので受注されずに残っています。ですが、ジンさんなら出来るかと思っておススメさせていただきました」


「そうだな。暇だしやってみるか?

依頼不達成のペナルティはなんだ?」


「依頼料の半額、金貨1枚の罰金です」


「なかなか厳しいな。受けられないのも納得だ。

よし、受けてみよう。最悪金貨1枚だ」


アイシスさんに受注処理をしてもらったあと、屋敷に戻った。


「クレア、明日から1週間休みは取れるか?」


「お嬢様の許可があれば可能だ」


「許可は俺がとるから、準備してくれ。冒険に出る。それと泥沼を漁ることになるから、汚れてもいい服も用意しておけよ」


夕方リリアが帰ってきてから、ツチノコの依頼の話をした。


「ツチノコですか。珍しい魔物ですね。一度天日で乾燥させたあと、出汁で戻すと珍味になると聞いたことがあります。でも錬金術の材料になるのは知りませんでした」


「それで、マリアを1週間休ませたいんだが」


「勉強の方は問題ありませんが、出席日数はどうでしょうね。今まで休んでませんから1週間くらいなら大丈夫だと思うんですが」


「それなら何とかなりそうだな。明日から1週間借りるぞ」


「マリア、そういう事だ。冒険の準備をしてくれ。泥沼を漁ることになるから、汚れてもいい服を用意しておけよ」


「わかりました。私はこれから、野菜等の食料を仕入れてきます。夕食までには戻ります」


「ああ、頼んだ」


さて、人員は揃った。準備もマリアに任せておける。

しかし、ツチノコか。この世界では実在するんだな。前の世界では伝説に過ぎなかったが。

なんでもつくしのように、立っていて、水面から出ている部分で空気を吸うんだとか。空気を吸う時以外は水の底に隠れているとか。海亀みたいな習性だな。



翌日、俺たちは北に向かって歩いていた。馬車だと1週間放置することになるから使えない。

北西の森に入り、くだんの泥沼を探す。

少し入ったあたりにあった。この位浅いなら魔物もそれほど強力なのは出ないだろう。


「二人とも着替えてくれ。泥沼に入って、三箇所でみはる。三十分に一回くらいの頻度で空気を吸うために水面に上がってくるそうだ。それを見逃さないでくれ」


「<魔力感知>では探せないのですか?」


「ああ、地面の中はわからない。それと今回は討伐じゃなくて、捕獲だから殺すなよ?手で捕まえるんだ」


俺たちは泥沼に三箇所に分かれて周りを注視する。沼の深さはふとももくらいだ。魔物が出ると危ないというのも頷ける。

じっと30分待っていると何箇所か泥が盛り上がっている場所がある。これか。

一番近いところに向かう。

近づく頃には泥の中に戻っていったが、それから30分さらに待つ。

目の前に浮かんできた。

俺は手で掴むがにょろっとしていて、滑りやすい。仕方ないので、布を取り出して、強引に締め上げるように持ち上げた。立ってなければ、蛇と見間違えたかもしれない。

俺は用意したツボに入れて、蓋をする。


「クレア、マリア、こっちは1匹捕まえたぞ。そっちはどうだ?」


「はい、場所は特定したのですが、ぬるっとしていて、取り逃がしました」


「そうか、布で滑らないようにして捕獲してみろ」


「ご主人様、1匹捕まえました。ツボに入れてあります」


「よくやった。マリアのを捕まえたら、休憩だ」


俺たちは3匹捕まえて、休憩に入った。


「捕まえた他に盛り上がっていた場所はあったか?」


「近くにはありませんでした」


「私もだ」


「なら担当の場所を変えてみよう」


俺たちは場所を変えて水面を見つめる。


「いた!」


クレアが発見したらしい。

俺の周りには見当たらない。


「マリアはどうだ?」


「見当たりません」


クレアだけらしい。


「ご主人様、捕まえたぞ。これで2匹だ」


「ああ、他に見当たらなかったから、今日はこの辺にしておこう。

マリア、食事の準備をしてくれ」


マリアは桶を取り出して、マジックバッグから大きな水袋を取り出した。それを桶の中に入れて手を洗っている。俺たちもそのあとで手を洗った。

ズボンはビショビショのドロドロだが、明日も入るので、着替えるのが面倒臭い。神聖魔法の浄化魔法で済ませる。

一応、臭いのは取れた。土はついたままだが。衛生上は問題ないだろう。二人にもかけてやり、夕食にした。


「牛乳を買ってきましたので、オーク肉のシチューにしてみました」


「うん、うまいな。誰かに習ったのか?」


「はい。屋敷の料理人から教わりました」


料理人とも仲良くしているらしい。俺、屋敷の使用人で話するのって、ルナくらいだよ?コミュ力高いな。



翌日も探したが、見つからなかった。まだいたような気がするんだが。。。

仕方ない。4匹も見つけたんだ。文句はないだろう。

明日帰るか。



翌日、街に戻ると、まずは屋敷に向かった。

風呂に入って、泥を落としたかったのだ。一応体は拭いて服も着替えたのだが、まだ泥がついているような気がするんだ。


風呂から上がったら、ギルドに報告に行く。3日で4匹捕まえたのを話したら、驚かれた。1匹でも捕まえれれば良い方らしい。

確かにあのぬるぬるは掴まえにくいね。網でも持っていけば楽だったかもしれない。

いや、網の隙間から逃げられるか。


とにかく依頼は完了だ。報酬の金貨8枚をもらって帰った。




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