125 学院祭


朝食の席でリリアからお誘いがあった。9月23日だ。

学院祭に来ないかという誘いだ。


「学院祭?文化祭とは違うのか?」


「ええ、学院祭とは言ってはいますが、実際は武闘大会です。

魔術師部門と戦士部門に分かれて、トーナメント制で順位を決めます。

当然順位の高いほうが成績にプラス判定が付きます」


「別に首席を目指しているわけじゃないんだろう?なら参加する必要がないんじゃないか?」


「いえ、この学院祭は必須科目に含まれますので、全員参加です。

非武闘系の生徒は、運営側で手伝うことが認められています」


「それで俺に見にきて欲しいとは?」


「はい、最近の私の実力を見て欲しいのです。

最近ジン様は、私と模擬戦をしてくれません。なので、ジン様に活躍を見てもらいたいのです」


「なるほど。見に行くのは構わないが、俺の前で負けても知らないぞ?」


「もちろん、出るからには勝ちにいきます」


「ちなみにどっちに出るんだ?」


「戦士部門です。私の土魔法は未熟ですので」


「そうか、分かった。日を空けておこう。」



学院祭という名の武闘大会が行われた。

最初に学長の挨拶があり、普段の成果を十分に発揮してもらいたいという内容だった。偉いさんの挨拶の割には短かった。

そのあと、魔術師の部門があり、ベスト8まで行われるようだ。

正直、お互いにその場から動かず、呪文を唱えあって、魔法をぶつけるというだけのつまらない試合だった。


魔術師部門のベスト8が決まると、魔力を回復する関係から、間に戦士部門の試合がある。リリアの順番は2試合目だ。

リリアは難なく勝ち抜き、ベスト8に入った。


そして、午後になって、まずは魔法部門からトーナメントが始まった。

これもその場から動かず、魔法をぶつけあうだけの試合だった。実に退屈だ。

そのあと、戦士部門の試合が始まるが、初戦はリリアだ。相手は槍使いだ。

リリアの武器は短剣なので、かなり不利だ。間合いが全然違う。

しかし、リリアは突いてきた槍を反らすと、そのまま懐に入った。相手も素早く槍を引き戻そうとするが、間に合わない。クビに短剣を突きつけられて試合終了だ。それにしても、今の懐に入る動き、かなり洗練されていた。よほど修練を積んだのだろう。

他の試合も終わり、ベスト4が出揃った。

流石にこの辺になると実力者ばかりだ。


リリアの相手は剣と盾を持った、オーソドックな戦士だ。だが、この組み合わせは最悪だ。リリアは接近するしか勝利はあり得ない。ところが、相手は剣を避けられても盾で守れる。両方ともかいくぐるのは難しいだろう。

リリアは剣士の右側に少しずつ移動する。

盾のある左側は攻めにくい。なので、右側に回るのがセオリーだ。しかし、当然戦士がわも分かっていて、向きを変えて、常に正面に来るように構える。


リリアは小手調べとばかりに接近するが、盾で防がれた上で、剣で切りかかられた。

バックステップでかわすが、戦士は追撃する。リリアは剣をいなしたあと、盾の横を殴って、盾の位置を正面からずらした。

そして、その隙間を縫って、相手のクビに短剣を突きつけた。

勝負ありだ。戦士は攻撃に力を入れており、盾がおろそかになっていた。だが、今後は注意するだろうし、次戦うことになったら、勝てるか怪しい。


次は決勝戦だ。

なんと相手はメアリーだった。

リリアの試合ばかり見ていたので、気づかなかった。

俺の予想ではメアリーの勝ちだ。剣と短剣という間合いの違いに加えて、レベル差がありすぎる。


メアリーは正眼に構えて、リリアの様子を見る。二人は屋敷で何度も模擬戦を行なっている。互いの手の内は知っていると思っていい。

先手はメアリーだった。リーチの長さを利用して、剣先で切り裂く程度の位置を守りながら、剣を振る。リリアも予想していたのか、わずかに下がっただけで躱した。


メアリーはいなしにくい、唐竹割りを仕掛けた。真上からの攻撃だ。右にずらすにせよ、左にずらすにせよ、体ごと避けなければいけない。リリアは右にそらし、体を左に避けた。そのまま短剣で突きを放つが、メアリーは首をひねって躱した。

なかなかの試合だ。観客も盛りあがっている。


メアリーは再度唐竹割りを仕掛けようとしたが、突如バランスを崩した。その隙に短剣をクビに当てられて試合が終了した。

メアリーの足元を見ると土が少し盛り上がっている。<土魔法>を使ったのだろう。

戦士科の試合とはいえ、<身体強化>の使用を許可されているくらいだ。使えるのなら魔法を使ってもありだ。

普通は戦士同士の戦いで、魔法を使う余裕はない。

だが、リリアが使ったということは<無詠唱>を覚えたということだ。


なるほど、成長を見て欲しいというだけのことはある。


そのあとは表彰式だ。

メダルと副賞は食堂の食事無料券20枚だ。準優勝のメアリーには5枚渡された。

まあ、学生だしそんなもんだろう。


にしてもリリアの成長は著しいな。久しぶりに<ステータス>を見るか。


短剣術が上がっている。2つも。<土魔法>も上がっている。かなり練習したのだろう。Cランクの実力はありそうだ。

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