124 新Sランク


キャンプファイアーの時間になった。

拡声の魔法で、キャンプファイアーが行われる旨が通達される。


「ご来場の皆様。間も無くキャンプファイアーの時間となります。

第1訓練場にて行いますので、お集まりください。

学院生による合奏で、ダンスの時間もございます。出店を出している学院生も店を閉じてお集まりください」


本格的に全員参加だな。店を閉じたら、飲み物とかどうするんだろうか?


俺はキャンプファイアーの会場に向かった。


疑問はすぐに解消された。

本職の屋台があったのだ。大人用に酒を出す店などもあり、学院生の出店とは違った趣がある。


拡声の魔法で、カウントダウンが始まり、ゼロになったところでキャンプファイアーに火が入った。油でも巻いていたのか、すぐに燃え広がり、大きな炎となる。灯の少ない訓練場全体を明るく照らしている。近くに行くと暑そうだ。



すかさず、学院生の楽団が音楽を奏で、何組かのカップルが踊り出した。

俺はリリアを探し、ダンスを申し込んだ。


そして、二人で踊る。去年の晩餐会以来だろうか。

俺も多少は踊れるようになっている。去年リリアに教えてもらったのを覚えていたからだ。

二人はクルクルと回りながら、キャンプファイアーを何周かする。その間に曲も何曲か変わっていた。

踊り終わる時、俺は手の甲ではなく、リリアの唇にキスをした。


リリアは真っ赤になるも、淑女らしくスカートをつまんで、挨拶をした。

それからはリリアと飲み物を飲みながら、文化祭に関しての感想を言い合った。

特にリリアの研究発表の出来を褒めた。


そういえば、クレアはどうしてるんだろうか。

リリアによれば、警備の都合上出席できなかったそうだ。


なんにせよ、リリアと二人での会話は楽しかった。


拡声魔法で、キャンプファイアーの時間が終わることが告げられた。

後片付けとかもあるのだろう。

リリアに聞いたら、片付け自体は明日でもいいのだが、今日中に片付けてしまって、明日は完全休日にする人が多いらしい。

休みは貴重だろうしね。


リリアも片付けがあるからと研究室に戻ってしまった。

俺はすることがなくなったので、屋敷に帰ることにする。

歩いて帰ったので、結構時間が経ってしまった。


「ジン様、お手紙が届いています」


「手紙?誰か手紙書くような人いたっけ?」


とりあず差出人を確認する。

ザパンニ王国国王からの召喚状だ。

この時期に呼び出すなんて、何の用だろう?


手紙を開ける。

中身は時候の挨拶から始まって、定型句と思しき内容の後に、ぜひ昼食を共にしたいとの事だ。時間は明日の昼だ。

別に忙しいわけではないので、構わないのだが、急すぎる。


翌日、朝から王城に向かっていた。


「よくきてくれた。今回は人を紹介したくて呼んだのだ。

こちらが、最近Sランクになった、ラノスだ。

こちらが、ドラゴンスレイヤーのジン殿だ」


「初めまして、Sランク冒険者のジンと申します。よろしくお願いします」


「ラノスだ。俺より前にSランクになったそうだが、俺もSランクだお前に負ける気は無い。ついては、模擬戦の相手をしてほしい。先輩Sランクの胸を借りたい」


言ってることは、要は模擬戦で自分が勝つから、上下をはっきりさせようと言う事だ。


「申し訳ありませんが、辞退させていただきます」


「なぜだ?どっちが強いか決着をつけるのには、模擬戦が一番だ。逃げたら自動的に俺が一番になるぞ」


「どうそ、一番をお名乗りください。私は興味ありませんので」


実際に最強かどうかは問題では無い。ラノスと言う男は野心家と聞く。俺を倒して名を上げたいのだろう。だが、俺にはメリットがない。

飄々として、話を流していると、どうしても模擬戦がしたいのか、ラノスは手袋を脱ぐと俺に投げつけた。思わず受け取ると、「これで決闘が承認された。陛下が証人だ。逃げられんぞ?」と言い出した。

俺は決闘には詳しくないので、陛下に尋ねると、手袋を投げつけられ受け取ったら決闘が成立する、と言うのが貴族間の慣習なのだそうだ。俺もラノスも平民なので、別に強制力はない。

だが、ここで逃げたら、しつこく付きまとってきそうだ。


実力の差を見せつけたほうがいいかもしれない。


今日はまだ時間があるので、午後に行うことになった。

裏にある訓練場に向かう。すでにラノスは来ていて、準備体操をしている。

俺も真似して準備体操をするが、すぐに終わる。日本みたいにラジオ体操があるわけでもないからだ。


ラノスと俺は5mほど離れて、互いに剣を抜いた。

騎士団長のライノスさんが審判のようだ。


「いつでもいけます」


「俺もいつでもいける」


「なら、初め!」



俺は剣を正眼に構えると、相手の出方を伺う。ラノスは開始早々、剣で攻撃してきた。

それほど早くない。剣で受け流すと、「驚いたな、今のを交わすとは、では実力を見せよう」と言ってきた。

あれだけ遅い剣筋だと、実力を出しても大したことはないだろう。


そう思っていたら、ラノスの剣から炎が立ち上った。


「これが俺の魔剣、フランベルジュだ。当たったら火傷じゃ済まないぞ?」


丁寧に解説してくれるのはありがたいが、正直先ほどの剣の腕を見る限り、それほど脅威ではない。

案の定、正眼から右袈裟に斬りかかってきたが、動きは先ほどと変わらない。

俺は剣をいなし、剣をクビに突きつけた。本来ならこれで決着なのだが、ラノスは負けを認めず、そのまま剣を横薙ぎに振ってきた。ライノスさん、勝負はついたと思うのですが?

お互いが戦う意思があるなら、寸止めでは勝負はつかない。気絶させるなりすることだ。


仕方なく、こちらから攻めることにした。気配を残したまま、背後に回る。

出来るだけ鎧の厚そうなところを狙って、剣を叩きつけた。

ラノスは気を失っていた。


ライノスさんは俺の勝利を宣言し、模擬戦という名の決闘が終わった。


しまった、勝った時の特典を決めてなかった。

あいつの魔剣でももらうか?流石にもらいすぎか。


「ライノスさん、もう行っていいですか?」


「ああ、もちろんだ、ラノスの面倒はこちらでみよう」


「ではお願いします」


俺は釈然としないまま、昼食をとる。

ああいう輩は、負けを認めず、卑怯なことをしたと行って、再試合を求めてくるものだ。


しかし、ラノスはそれ以降、現れなかった。実力差を知ったのだろうか?

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