122 文化祭 (2)


学院の門に着くと、馬車が渋滞していた。貴族の知り合いだから、皆馬車みたいだ。

俺たちは順番に並ぶと時間がかかりそうなので、途中から歩いて行くことにした。


門は綺麗に飾られて、『王立学院へようこそ!』と書かれている。学生が作ったのかね。


学院内に入ると、学生服を着た生徒が屋台などをやっている。


「ワイバーンの串焼きいかがですかー。一本銅貨5枚ですよー」


「シーフルーツが冷えてますよー。一本銅貨3枚でーす」


「ホットケーキ焼きたてですよー。はちみつたっぷりのホットケーキいかがですかー」


色々と売っているようだ。お面みたいなのは売ってないのかな?祭りと違うからやってないか。貴族が買うとも思えないしね。


俺は使用人達とは別に回ることになっている。俺と一緒では自由に楽しめないだろうからだ。


「じゃあ、ここで解散だ。帰りは各自で戻ること。夜のキャンプファイアーに参加する場合は誰かにことづけて行くこと。以上だ」


そう、今日の最後にはキャンプファイアーが予定されているのだ。学院側の主催で、この時に一緒に踊るのはカップルへの早道だそうだ。

俺もリリアと踊ることになっている。

ダンスは基礎学科に含まれているので、貴族平民関係なく、学院生なら踊れる。なので、目当ての人がいる場合は、真っ先に踊りに誘うのだとか。最初に踊った人に優先権があるような感じかな。

学院生は全員参加が義務なので、不参加で踊れないということはない。もちろん、踊らなければいけないという訳ではない。

このキャンプファイアーには学院の教官も参加するらしいが、あまり人気がないらしい。毎日会ってるしね。


まずはリリアの研究発表を見に行かねば。

リリアの発表は上級生のクラスで発表されている。部屋は扇型の階段状で、周りを囲むように発表が陳列されている。一応順路が決まっているようで、順番に見て行くとわかりやすいらしい。

最初はおとぎ話の例などを題材に、興味を引くようになっていて、後になれば、そのおとぎ話に出てきた魔法から順に整理されて展示されている。最後の方になると、もはや伝説どころか、古文書でも見ないと知らないようなことも展示されていた。

これらは研究会全員でまとめたものらしいので、リリアがどの部分に関わったのかわからない。

あたりを見回すと、研究会のメンバーと思しき学院生が、各資料の説明をしている。自分の書いたところの説明かな?だとしたら、リリアはどこだろう?

順番に回って行くと、最後の資料のところでリリアに会った。

どうやら、一番研究らしい研究の発表を任されていたようだ。


「リリア、お疲れ様。見にこさせてもらってるよ」


「ジン様、よく来てくださいました。もう前の順路のは見終わりましたか?」


「ああ、よくまとまってたと思う。興味を引くようにおとぎ話などを混ぜてるのが良かったね」


「ええ、それは毎年の伝統でして。そうしなかった年は見て行く客が減るのだとか。上級生からの申し送り事項ですので私が確認した訳ではありませんが」


「なるほど。そういう事もあるかもしれないな。それでリリアがこの部分を発表しているという事でいいのか?」


「はい、私の研究はおとぎ話ではなく、史実ですので、あまり脚色がありませんので、最後に回されました。興味があるようでしたらご説明いたしますが?」


「ああ、頼むよ」


「では。

まず、古代語魔法というのは現在では使い手がおりません。これはスキルを確認しているイングリッド教国が正式に発表している事なので間違い無いと思います。

その上で、時代を遡っていきますと、古代文明に行き当たります。現在では稀に発掘される遺跡で、今では作れないようなマジックアイテムが発掘されたりしています。

そして、その遺跡に残っていた文書が古文書として扱われています。正確には本体はイングリッド教国が管理して、その複写を各国の図書館に保存している形になります。

その古文書によりますと、古代の人たちは全員が魔法を使えたそうです。ごく普通に空を飛んだり、遠距離で会話したり。今でもおとぎ話の中にはそういった表現が残っていますが、古文書の影響だと言われています。

そして注目なのが古代語魔法です。現在の魔法は適性によって使える人が限定されますが、古代語魔法にはそういう制限がなかったとされています。

ただ、私は別の説を立てました。<古代語魔法>と呼ばれているのは実はマジックアイテムだったのでは無いか、というものです。専門家が作ったマジックアイテムを、魔力を流すだけで使えるようにして、全員が所持していたのでは無いかという説です。つまり、現在発掘されているマジックアイテムは、今の魔法の規格に合ったものを総称しているだけで、実は他に実用性が無いと放置されているものも、当時はマジックアイテムとして使用されていたのでは無いか、と考えています。

現在、この説を立証する証拠も、反論する証拠も上がっておりません。なので机上の空論ですが、説としては成り立っていると考えています。

今後の調査によっては否定されるかもしれませんが、自分では面白い考察だと考えています」


「なるほど。<古代語魔法>が実はマジックアイテムの効果を魔法と勘違いしていたのかも、という話だな。うん、面白い仮説だ。よく考えついたね」


「ええ。学院に入る前から構想はあったのですが、図書館等で文献を調べるうちに、反証がないことに気づきました。なので、この機会に発表してみました」


「そうか。俺も楽しませてもらったよ。他の人に悪いから次行くね。夜のダンスで会おう」


後がつかえているので、クラスを出て行ったが、俺は発表内容を考察していた。

俺は<古代語魔法>のスキルを持っている。つまり<古代語魔法>という魔法は存在していたことになる。これはリリアの仮説の反証となる。


とすると、それまでに掲載されていた魔法などは実存していた可能性が高い。

つまり、俺が使える可能性があるわけだ。

それらには、空が飛べるとか、遠距離で通信が可能だったとか、日本でいれば、普通にできたことばかりだ。なので、<古代語魔法>というスキルがなければ、古代では科学が進歩していた可能性も検討しても良いくらいだ。


だが、今回の発表では具体的な話はなく、仮説もそれほど多くは掲示されてなかった。おそらく来客が退屈しないように配慮したのだろう。今度、他にどんな仮説があったか、リリアに確認しておこう。喜んで解説してくれるだろう。

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