120 閑話 <裁縫>


さて、俺は暇になったわけだが、ギルドに行っても、面白そうな依頼はなかった。

ここはスキルを上げるべきだろう。

俺は<裁縫>を選んだ。なぜなら、教本が売っているからだ。

教本には基本的な縫い方や留め方から、立体縫製の仕方、刺繍まで載っている。

一番大事なのはデザイン案がいくつか載っていることだ。俺にデザインのセンスなどないので、デザイン案は普通に嬉しい。


俺はその中でも刺繍を選んだ。

デザインは教本に載っているし、センスの必要な部分は応用に入ってからだ。


俺は刺繍に必要な、円形の、布を抑えるものと、刺繍用の糸を買った。刺繍用の針もだ。

刺繍用の針は通常の縫い針よりも細いものだ。縫った場所に大きな穴があると汚く見えるためだ。


教本の通り、布をピンと張り、専用の石でデザインを描いていく。この石で描いた物は洗うと綺麗に落ちるらしい。

そしてデザイン通りにチクチクと針を刺していく。

教本に載っていた、葉っぱつきの花を描いてみたが、不格好だが、一応それらしくできた。

問題はデザインの方だろう。


今度は教本を見ながらではなく、教本の上に布を乗せて、上からなぞるようにデザインを写した。

そしてまたチクチクと針を刺していく。今度は糸を強く引きす過ぎたらしい。枠から外すと刺繍の部分だけ縮んでしまった。

俺は同じモチーフを同じ布に何度も縫い付けていく。一杯になったらほぐして再度だ。

しかし、刺繍って、一箇所切ってもなかなか解けてくれない。それだけしっかりと縫われてるということだろう。

しばらくして、ようやくまともなものが縫えるようになった。


<ステータス>


うん、ちゃんと<裁縫>が上がっている。


そのあとは、縫製だ。布の端っこを立体縫製で縫っていく。きつく縫ってしまい、立体にならなかったものや、縫いが甘くてほつれたように見える場所がある。

糸をほどいて何度も挑戦する。

ようやくそれなりの物になった。もちろん店売りできるようなレベルではないが、自分で使う分には問題ないだろう。


それからはちゃんとした布を使って、ハンカチを作ってみた。

白い布の端っこに花の刺繍の入ったものだ。


完成してから見ると、女の子用に見える。

デザインが花柄だからだろうか。

俺はそれにリリアの名前を刺繍してみた。教本に飾り文字が載っていたのだ。


うん、女の子用のハンカチとしてはありだな。


その後、教本に載っている他のデザインを刺繍して、ハンカチを4枚作った。

当然4人分、全員別に名前を刺繍してある。


<裁縫>がlv3に上がっていた。


次にリリアの家の家紋を入れたものを作ってみた。

家紋は結構入り組んでいて、苦労した。

飾りではなく、実用品として作りたかったので、立体縫製はせず、普通に縫った。


最後に洗って、下書きを落としてからアイロンなのだが、ルナにアイロンを借りてやってみたが、焦げてしまった。

ルナに、アイロンについて聞いたが、完全に乾かしてからでなく、少し湿った状態でかけると良いそうだ。俺は乾燥した状態でかけたために焦げてしまったのだ。

さらに、この世界のアイロンはやかんに炭を入れたような形をしている。炭の量で熱さ加減を調節するらしい。

俺はドバドバと目一杯入れたが、ハンカチのアイロンなら、底に敷き詰めるくらいで十分らしい。アイロンで乾燥させるくらいまで熱するとすぐに焦げるそうだ。微妙に湿った状態でやめて、あとは自然乾燥させるのが良いらしい。


俺はせっかく作ったハンカチをダメにして、半泣きだったが、作り始めた以上、最後まで作りたい。

花柄を4つ、家紋を1つ作り直して、アイロンを当て直した。


完成品を皆に配ったが、リリアから注意された。

家紋を入れるには、その家から許可を取らないといけないらしい。通常は依頼されて作るので問題ないが、自分でこうやって作る場合は、許可が必要だそうだ。

今回はリリアが黙っててくれるらしいが、次からはちゃんと許可を取るようにと言われた。


貴族に家紋って大事なんだな。

まあ、貴族の顔だしな。貴族になるときに、国王から家紋入りの短剣が贈られるそうだ。貴族の身分証とも言われているもので、当主は全員持っているらしい。無くしたら、下手するとお家取りつぶしの可能性もある、大事なものだそうだ。


まあ、貴族はともかく、ハンカチは喜んでもらえた。頑張った甲斐がある。


そういえば、そろそろ晩飯かね?お昼抜いて頑張ってたからお腹すいたよ。



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