113 ヤパンニ王国陥落
始業式から1週間、マリアが報告してきた。
「ジン様、近く、ヤパンニ王国との戦争が始まるとの噂でいっぱいです。学院中でこの噂で持ちきりです」
「そうか。戦争開始以外の噂はないか?」
「はい、今回は王太子様の初陣になるのではないかという話がありました」
「初陣?昨年、いやもう一昨年か、の戦争ではでなかったのか?」
「はい、戦況が安定しなかったために、安全のために見送ったと。今回は圧勝を予定しているので、初陣にするとか」
「圧勝する予定の戦争ねぇ、そんなのがあれば楽なんだろうけどね」
「今回負けると?」
「いや、勝つとは思ってるけど、圧勝かどうかはわからないかな」
「何か理由がおありですか?」
「いやだってさ、ヤパンニ王国だって、何の勝算もなしに戦争ふっかけるわけないし、何かあると思った方が良いだろう?」
「なるほど。では王太子様の護衛は危険だということでしょうか?」
「それなりに危険だろうね。何だ、護衛でも依頼されたのか?」
「いえ、『Sランク冒険者が護衛につく』という噂がありましたので」
「何?俺は何も聞いてないぞ?」
「はい、私もそう思ったのですが、まことしやかに語られてましたので」
「明日メアリー連れて帰ってこい。直接聞く」
「承知しました」
戦争中の大将の護衛なんて冗談じゃない。
戦闘に参加しろと言われてるようなもんじゃないか。
俺はそんなもの受けるつもりはないし、クレアやマリアにも受けさせるつもりはない。
翌日放課後にメアリーが来た。
「メアリー、なんで呼ばれたかわかるか?」
「兄上の護衛の話かしら?」
「そうだ。何でも『Sランク冒険者が護衛する』らしいじゃないか?
この国には俺しかSランクはいないはずだぞ?」
「それですが、ワイバーンを単独討伐した冒険者がいるそうで、Sランクに上がるのではないかと噂されています。
その男は名誉欲が強いらしく、ジン様が断られたのといいことに、自分から名乗りを上げたそうですわ。ワイバーン討伐でAランク昇格して調子に乗っているんじゃないかしら」
「ワイバーンの単独討伐か、立派といえば立派だが、Sランクにあげるには弱いな。他に何か功績でも立てたのか?」
「いえ、それだけですわ。国の方がSランクが欲しくて上げたんじゃないかしら」
「王太子殿下の初陣の箔付けか。今の時期に都合よく現れた実力者。信用できるのか?」
「ヤパンニ王国の尖兵という可能性ですか?軍部が調べたはずですが、問題ないと判断したようですわ」
「そうか、裏がないならそれに越したことはないが、戦争中に大将が暗殺されたらどんなに戦局が有利でも負けに等しいからな」
「流石に軍部もそこまで愚かではないでしょう」
フラグにも聞こえるが、まあ、俺には関係ないな。
負けたらこの国から逃げるとしよう。
メアリーとリリアは付いてくるかな?
「そうか、まあ、俺に関係ないならそれでいい。わざわざ来てもらってすまなかったな」
「いえ、構いませんわ」
一月後、戦争が始まったらしい。
なんでもヤパンニ王国は連敗に連敗を重ねて、逃げ惑っているとか。
勝算もなく戦争を仕掛けたのか?
いや、あのヤパンニ王国ならありえるな。なんせ後先考えてない。
焦土作戦か?いや、焦土作戦を仕掛けるにはヤパンニ王国は小さすぎる。
べスク王国が側面を突くとか。
いや、そこまでやると、ザパンニ王国との全面戦争になる。裏から支援するのとは意味が違ってくる。
情報不足だな。
それに俺が戦争の趨勢を気にする意味もないし。
まあ、勝つといいね、って感じだな。
さらに1週間後、ヤパンニ王国の王都を包囲したらしい。
さらに1週間後、ヤパンニ王国は全面降伏したらしい。
なんだ遣る瀬無さは。ヤパンニ王国がただの馬鹿だったというだけじゃないか。
ヤパンニ王国は海に面しているので、塩の安定供給に一役買ってもらうことになるらしい。
今までザパンニ王国の自国での塩の生産は、西の魔の森の比較的魔物の少ない場所に街道を作り、西の港町で作っていたらしい。リリアがオーガに襲われていたのも、この街道だ。
もちろん、自国生産だけでは足りないので、べスク王国からも買い付けている。べスク王国の南は全部海だからな。気候が温暖なこともあり、塩の生産なんてどこでもできる。
ともかく、ヤパンニ王国は以降、ザパンニ王国の属国となる。王族からは定期的に人質を出させるし、毎年献上金を巻き上げる。塩も安く買い叩く。
ヤパンニ王国がどうやって国を運営していくのか知らないが、やっていけるのかね?戦争だって2年連続でやったら、結構な出費だったろうに。
俺はヤパンニ王国の王都の活気のなさを思い出しながら、そう思った。
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