111 ラールサック領


リリア達の進学試験が終わったら、1ヶ月の休暇だ。長いが、帰郷するのに時間のかかる人も多いので仕方ない。それに、この世界、ゴールデンウィークなど無いし、冬休みは年初の3日だけだ。


俺たちは護衛依頼を受けることにした。

メアリーが護衛依頼の経験がないためだ。学院生のうちに経験できるだけいろんな種類の依頼を受けておいた方がいい。

来年は、いろんな依頼をこなしながら旅することになるからな。


俺たちが受けたのはラールサック領への護衛だ。

3台の馬車を護衛するのだが、俺たち5人の他に、Dランクの冒険者が4人雇われていた。王都からの道は比較的安全なので1パーティでもいいような気がするが、馬車が3台もあるので、念を入れたのだろう。


Dランクパーティは『青空の夜明け』、と言う、よく分からないパーティ名を名乗った。俺たちはパーティ名を決めてない。名乗るならドラゴンスレイヤーなのだろうが。。。自分から名乗るものでもないと思う。

期間は約10日、報酬は銀貨15枚だ。途中の食費は自分持ち。馬車には乗れないので、歩きだ。

馬車だけなら7日でつくのだが、冒険者を歩かせるために、わざとゆっくり進むそうだ。冒険者をのせる馬車を用意するよりも3日余分に時間をかけることを選んだのだろう。

この依頼、条件は良くない。依頼料が安いのだ。途中の食費を持ってくれるなら妥当なのだが、自前となると、結構な出費となる。途中でオークでも出てくれれば食費は浮くのだが。比較的安全な道なのと、移動のついでに受ける冒険者が多いために報酬が安くなっている。


俺たちは護衛の経験が目的なので、魔物と戦いたいわけではないので、安全なこの依頼を受けた。片道10日なら学院の春休み中に戻ってこれる。


俺は『青空の夜明け』と相談して、俺たちが前、向こうが後ろ、と決めた。俺たちの方がランクが高いので、索敵の必要な前を担当するのだ。

商人も魔物に襲われるのをそれほど警戒しておらず、こちらの配置に口を出してくることもなかった。


俺たちはマジックバッグがあるので、食料やテントなど持ち歩く必要もないが、『青空の夜明け』は分担して持っているので重そうだ。あれだけ持ってて、よく歩きの護衛依頼など受けたもんだ。


護衛は問題なかった。メアリーも頭は悪くないので、一度注意すると、繰り返してミスをすることはなかった。


予定通り10日で護衛を終了し、依頼料ももらった。

さて、帰りの依頼を見るかと言う時に、リリアから待って欲しいと言われた。

オーユゴックの領主の娘として、ラールサックの領主に挨拶をしたいと言うのだ。時間はあるので、行ってくればいいと言ったら、俺も行くのだと言う。

メアリーは自分が行くと相手が恐縮してしまい、リリアの邪魔になるから居残りだそうだ。

とりあえず、俺用に一人部屋と他の4人で一部屋、宿を確保した。



「リリアーナ・フォン・オーユゴックです。ご無沙汰しております、ラルク様」


「ご無沙汰しております、リリアーナ嬢。最近婚約されたとか、おめでとうございます。お祝いにも駆けつけれず申し訳なく思っております」


「こちらが私の婚約者のジン様です。お見知り置きを」


「冒険者のジンです。初めてお目にかかります、子爵様」


「これはご丁寧に。ラルクです。ジン様と言うと、ドラゴンスレイヤーのジン様ですかな?」


「そうですね。そのジンであってます」


「これはこれは、一度会ってみたいと思っていたのです。夕食でも一緒にどうですかな?ぜひドラゴンを倒して時の話をお聞きしたい」


「リリア、どうする?」


「ご一緒させていただきましょう。数日滞在するのですから、挨拶だけしてさようならでは恥をかかせてしまいます」


「そう言うもんか。わかった、メアリーたちにはそう伝えてこよう」


「ええ、お願いします。ラルク様、他のパーティメンバーに夕食のことを伝えますので、少し席を外します」


「良ければ、お連れ様もご一緒にどうですかな?精一杯もてなさせていただきますぞ?」


「パーティメンバーには奴隷もいますので、夕食には。。。」


「それは残念ですな。では夕食はリリアーナ様とジン様のお二人で」


子爵もドラゴンスレイヤーとは平民でも夕食を共にできるが、奴隷とは共にできないらしい。

まあ、貴族だから仕方ないだろう。どのみち一緒に参加させるつもりもなかったし。奴隷よりもメアリーに驚きそうだしな。

王族をもてなすなんて出来るんだろうか?


夕食をとりながら、ドラゴンを倒した時のことや、ワイバーンを退治した時のことなどを話していく。子爵はいちいち大げさに驚いてくれる。これももてなしなんだろう。

食事が終わると、俺たちはお暇することにした。流石にいきなり来て、泊まるのは失礼だ。


宿屋に戻ると、メアリーがどんな話をしたのかと聞いてきたので、話をしてやると、食事の話になった。子爵の出してきた料理はオーク肉のシチューだった。

だが、宿の夕食はワイバーン肉のステーキだったらしい。当然ワイバーン肉の方が希少だし、美味い。貴族のもてなしよりも美味い料理を出す宿とは。思ったよりも当たりの宿を引いたらしい。


王都への帰りは護衛依頼の条件が合わなかったので、歩いて帰ることにした。

奴隷が護衛につくことを嫌がられたのだ。戦力に変わりはないと思うのだが、通常奴隷はそれほど戦闘力を持っていない。

優秀な戦闘奴隷は冒険者が手を出せる金額ではない。なので、冒険者の奴隷=戦闘力のない奴隷、なのだ。


俺たちは2週間ほどかけて王都に戻ってきた。



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