110 閑話 進学試験 マリアの独白


私の名前はマリア。ジン様の奴隷です。

今日は私たちの進学試験の日です。

今日から3泊4日で迷宮を踏破します。迷宮はダンジョンとは違い、人工的なものを指します。

メンバーはメアリー様、リリアーナお嬢様、クレアと私の4人です。クレアは学院生ではありませんが、荷物係としてついてきてくれます。

私はジン様よりマジックバッグを預かっているので、荷物係は不要なのですが、学院の規定で進学試験ではマジックバッグの使用が許可されません。なので、今日は持ってきていません。


学院には専用の迷宮があり、初級と中級があります。

初年度生は初級の迷宮を期間内に踏破すれば進学です。

踏破の時間で成績が決まり、マイナス評価などが追加であり、最終成績になります。


パーティの人数は4−6人が推奨されていますが、特に制限はありません。

ただ、多くで攻略しても、マイナス評価がつくそうです。


入るのは初級迷宮ですので、敵はそれほど強く無いそうですが、毎年何らかのテーマを持って魔物を配置しているとか。魔物を捕まえてきて配置するのも大変そうですが、さすがは王立の学院といったところでしょうか。

それとも、召喚魔法などで呼び出してるんでしょうか?

実際のところは分かりかねますが、お金がかかっているのは間違いないでしょう。


さて、私たちは現在順番待ちの最中で、荷物の最終チェックをしています。

保存食に水、テントやランタン、ロープにナイフ、各自の武器など、確認することはいくらでもあります。

私たち学院生は武器や最低限の水などしか持ちませんが、クレアは沢山の荷物を持って大変そうです。大きな背負い袋を背負って、体が倍になったかのようです。


私たちの番が来たようです。

入り口がわりの魔法陣に入ります。

教師の一人が呪文を唱えて私たちを迷宮に転送します。

パーティごとに違う区画に転送されるそうで、迷宮内でかち合うことは滅多に無いそうです。


転送された先は洞窟でした。それも部屋ではなく、通路でした。

どちらに進んだら良いのでしょう?不親切ですね。

一応このパーティのリーダーはメアリー様という事になっています。身分的な問題でしょうね。

最近ジン様は、メアリー様を殿下ではなく、メアリーと名前で呼び捨てにしているようです。言葉遣いも敬語からタメ口に変わっています。何かあったのでしょうか?


メアリー様は、どちらに進んでも一緒なので、自分が最初に向いていた方へ進む事にしたようです。さすがは王族、決断力がありますね。私ならしばらく悩んでいた事でしょう。


しばらく歩くと、ゴブリンが3匹出てきました。クレアは事前に気づいていたようですが、私たちは<気配察知>などのスキルを持っていませんので、気づくのが遅れました。

一番前を歩いていたお嬢様が最初に気づき、警告の声を上げると、右側のゴブリンに向かいます。

お嬢様が使っているのは普通の長剣なので、左側は剣を振る隙間がないので、攻撃がしにくいのです。なのでお嬢様が右側から、私が左側から、というのがセオリーとなっています。


今回は3匹ですので、左の1匹にだけ構っていれば良い訳ではありませんので、ここは2体を牽制します。

お嬢様にとって、ゴブリンは雑魚魔物です。一撃で倒して、真ん中のゴブリンに攻撃を始めました。そうなれば、私は牽制だけでなく、左側のゴブリンに専念できます。私にとってもゴブリンは雑魚です。首を切り裂いて倒しました。

魔物を倒したら、討伐証明と魔石を確保します。ナイフで肉を切る感触はいつまでも慣れませんが、これをしないとお金にならないので仕方がありません。


その後も何度かゴブリンが出てきましたが、問題なく対処できました。途中でお昼休憩などをとり、進みますが、何箇所か分かれ道がありました。メアリー様が方向を指示していますが、何か根拠があるのでしょうか?私には分かりませんが、あれだけ自信満々なのですから、何かあるのでしょうね。


その日の夜には階段のある部屋に着きました。

結局一度も曲がり道を戻ることもなかったので、メアリー様の案内が的確だったということでしょう。

階段のある部屋でテントを張り、交互に休みます。荷物係は警戒任務も参加不可ですので、3人で交代で見張ります。

洞窟型は地面も硬いので、寝てると体が痛みます。毛布でもあると良いのですが、荷物を減らすために持ってきていいません。


翌日、階段を降りると、やはり洞窟型のようです。

この迷宮はずっと洞窟型なのでしょうか?迷宮によっては階層ごとに平原や火山など地下とは思えないような環境もあるそうですので、洞窟型は割とあたりではないでしょうか。


この日もメアリー様の指示に従い、進んでいくと、やはり夜には階段のある部屋に着きました。

一度も間違えないとはどうやってるんでしょうか?まさか教師が道を教えてくれるとも思えませんので、何らかのスキルでしょうか?<魔力感知>だと魔物の位置は分かっても、洞窟の道までわかりませんので、<魔力感知>ではないのでしょう。まあ、メアリー様が<魔力感知>を持っているのかどうかも知りませんが。

何にせよ、何度も道を間違えるよりも楽なので、文句をいうことではありません。


今日も昨日と同じように交代で見張りをしましたが、魔物が現れることはありませんでした。

階段の部屋は安全地帯なのでしょうか?迷宮によっては、特定の場所に魔物が現れない場所があると聞きます。階段の部屋がそうなのかもしれませんね。さすがは初級迷宮です。

迷わなければ1日で階段にこれるというのも良いですね。迷う方は3泊4日で攻略できるのでしょうか?

まあ、攻略できないと進学できませんし、大抵のパーティは進学するということですので、攻略できるのでしょう。


翌日の昼には魔法陣のある部屋にたどり着きました。

恐らくこれが迷宮の終わりなのでしょう。

4人で魔法陣に入ると、魔法陣が発光し、外に転送されました。


今回の迷宮ではゴブリンしか出ませんでしたが、今年のテーマはゴブリンだったのでしょうか?

それにしても、3泊4日のはずが2泊3日で攻略してしまいました。ゴブリン相手では苦戦する方が難しいので、やはり、迷わなかったのが良かったのでしょう。


メアリー様に迷わなかった理由をお尋ねしたところ、毎年の迷宮にはパターンがあるそうで、過去の迷宮の地図を調べて研究したとか。さすがですね。事前準備に余念がありません。


しかし、こんなに簡単に攻略できてしまって良いのでしょうか?迷宮というので、もっと強い魔物が出てくるのを警戒していたのですが。

メアリー様が言うには、攻略が進学の条件なのに倒せない敵を置く方がおかしいとの事。確かにそうですね。でもオークくらいは出ても良かったと思います。オーク肉、美味しいですよ?まあ、迷宮では調理できませんが。


数日後、教師から合格の発表がありました。首席だそうです。クレアを荷物係にする事でマイナス評価を覚悟していたのですが、大丈夫だったようです。

これで、私たちは上級生です。来年度はどんな授業があるのでしょうか。今から楽しみです。



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