109 荷物係
俺がワイバーン討伐の報告をしていると、後ろの方で騒ぎがあった。
新人冒険者がベテランに喰ってかかってる。
「だから、なんで俺じゃだめなんだよ?!
俺の実力なら大丈夫だって言ってるだろう?
だからその依頼、俺に渡せよ!」
「うるせぇ、俺たちが受けた依頼だぞ?なんでお前にやらなきゃいけないんだ。
それにお前のランクじゃこの依頼受けれねぇだろう?
もっと自分のランクに合った依頼受けろよ」
ベテランの方が正解だ。
「だから、俺にはそれを受けれる実力があるって言ってるだろう!
ランクが低いからって、実力があるのに受けれないっておかしいだろう?!
俺がその依頼をこなして、見返してやるんだ!」
自分じゃ受けれない依頼だから、人が受けた依頼を自分にやらせろと言っているようだ。
どんなに実力があっても、それはやっちゃいけない行為だ。
ギルドの依頼は冒険者の実力も判断材料として斡旋している。
最初のうちは、どんなに実力があってもFランク依頼から始めるべきだ。そうやっている内に、自然と冒険者のルールを覚えていく。少なくとも、他人の受けた依頼を横取りしようなんて考えないはずだ。
「アイシスさん、あの子のランクは?」
「Fです。先ほど登録したばかりですね」
「あのベテランの受けてる依頼は?」
「Cランクですね。北の森のフォレストウルフの討伐です。
もし、あの子が1対1でフォレストウルフに勝てる実力があったとしても、囲まれておしまいでしょうね」
「ああいう場合どうするんだ?」
「どうもしません。冒険者が依頼を譲るなら好きにすれば良いですし、譲らないなら、それでも構いません」
「そうかぁ、世の中世知辛いねぇ。
まあ、登録初日にCランクはないわな。せめてゴブリンかオークくらい狩ってから言わないと説得力がない」
「そうですね」
「じゃぁ、俺はこれで」
俺は新人冒険者の横をすり抜けて冒険者ギルドを出て行った。
俺が戻ると、ルナが出迎えてくれた。
「お嬢様が心配されてましたよ?昨日帰ってこられませんでしたから」
「すまんな、北の山に行ってたんだが、帰りが間に合わなくてな。馬車で一泊した」
「ジン様でしたら日帰りも可能なのでは?」
「そうだが、久しぶりの依頼だったんで、馬車で行ったんだ。馬車だと時間がかかるのを忘れててな。帰ろうと思ったら夕方だった」
「そうですか。お嬢様を心配させないでくださいね。とばっちりは私たちに来るんですから」
「ん?何かされたのか?」
「いえ、心配のあまり、何度も何度もまだ帰ってないのか確認させられるんです。帰ってくればすぐお伝えしますのに」
「そうか、すまなかったな」
「いいえ、それも仕事ですから」
リリアも心配性だ。
そうだ、今度クレアとマリアを依頼に連れていくときに、リリアも連れて行こう。メアリーもCランクになったから、Cランクの依頼を受けよう。うん、そうしよう。
夕方、リリアが帰ってきたから、依頼の話をしようとしたが、リリアの表情が優れない。
「リリアどうかしたのか?顔色が悪いぞ?」
「ええ、今度の進学試験なのですが、荷物係が見つからなくて」
「荷物係?マジックバッグで十分だろう?」
「それが、学院の方針で、進学試験の冒険ではマジックバッグの使用が禁止されていて。
なんでも、マジックバッグを持っているお金持ちばかりが優遇されるから、公平でないという理由らしいです。
平民の方もいらっしゃるので、理由としては納得できるんですが、実際に荷物を担ぎながら冒険をするわけにも行きません。
なので、荷物係を雇うんですが、通常は学院の戦闘系以外の学院生を雇うんです。
なんですが、今年は戦闘系以外の学院生が少なく、私とメアリーとマリアのパーティでは荷物係が見つからなくて。
自分たちで全ての荷物を運ぶのかと思うと、億劫で」
「荷物係は学院生でないといけないのか?」
「いえ、そんなことはありませんが、依頼料は試験のマイナス査定されます。貴族の中には従者を荷物係にして、無料で雇ったからマイナス査定にはならない、と言い張っている人もいるんですが、実際にはマイナス査定されているようです」
「ふむ。学院の対応が正しいな。文句のつけようもない。
マイナス査定は厳しいのか?具体的にはマイナス査定されると、進学できないとか」
「滅多にないですが、あり得ます。それに、上位には喰いこめませんので、卒業時の就職先に影響します」
「なるほど、ならお前たちは俺と旅に出るんだから、進学さえできれば十分だな?」
「そうですね。でもお小遣いで雇える人となると探すのも大変ですし」
「俺が行ってやろう。金額も日に銀貨1枚でいい。予定はどのくらいだ?」
「3泊4日の予定です。しかし、銀貨1枚とはいえ、Sランクを雇ってマイナス査定がどれだけされるか。。。
今まで貴族でBランク冒険者を雇って試験にのぞみ、流石に落第した人がいるらしいんです」
「むぅ、それだとダメだな。ならクレアならどうだ?気心も知れてるだろうし、体力もあるぞ?いざという時は自分で守れるし。奴隷だから冒険者ランクも無い」
「ああ、奴隷という手がありましたか。そうですね。奴隷にそれほど実力のある人がいない事もあり、今まで事例はなかったと思います。おそらくクレアさんならマイナス査定も最小限で済みそうです」
「ならそれで決まりだな」
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