107 国王の裁定


俺とメアリーは王城に赴き、会議室のような場所に通された。

陛下とブルクはすでに席に着いており、俺待ちだったようだ。


「遅くなりました」


と、礼儀上一言入れるとブルクが噛み付いてきた。


「まったくだ。わしだけでなく、陛下まで待たせるなど、論外だ。

陛下、こんな奴、侮辱罪で死刑にしてしまいましょう」


陛下は額のあたりを揉みながら、「とりあえず座れ」と言って、ブルクと反対側の席を勧めてきた。

俺は大人しく座ったが、ブルクは同席することが気にくわないのか、何か言おうとして、陛下に止められていた。


「それでは、今回の件に関して、裁定を行う。

まずはブルク大隊長、主張を述べよ」


「はい。今回のヤパンニとの戦争に関して、冒険者を雇う上で、高ランク冒険者も雇おうという話になりました。

そこで、冒険者ギルドにわざわざ出向いて、要望を伝えました。

高ランクの参加は公募には含まれないと言われたので、直接本人と話すことになりました。

そこで翌日向かったのですが、あろう事か、断ってきたのです。

伯爵であるわしの要望を、です。そのまま出て行ってしまったので、騎士を向かわせて連れて来させました。

その席でも従軍の要望を伝えたのですが、勝手に席を立ってしまい、話になりませんでした」


「では、ジン殿、そなたの主張を述べよ」


「はい。まず、先に説明しておきますが、戦争への従軍の指名依頼は禁止されております。

ギルドには依頼では無く、公募を行っていましたが、高ランク冒険者はギルドの方針で戦争には参加させません。

今回は要望という、グレーな範囲での問い合わせだったので、直接お断りしましたが、本来は要望自体、ギルドの方針に違反しています。

ブルク殿が高位の貴族であること、騎士団の幹部であることで、一応話をする機会を作りましたが、本来はそれ以前の問題です。

あと、私の従軍依頼ですが、何度も断っております。


それと、ブルク殿は侮辱罪侮辱罪と言っていますが、侮辱するような発言をした覚えはありませんし、また、侮辱罪を無しにする代わりに金貨100枚をよこせなどと言う、横暴な意見に従うつもりもありません。

私からは以上です」


「ブルク伯、今の反論に相違ないか?」


「陛下、伯爵たる私の要望を断ること自体が私への侮辱です。

金貨100枚で命が助かるなら、安いものでしょう。

こやつは私の慈悲に感謝するべきです」


「とりあえず、侮辱罪のことは置いておこう。

従軍の要請にジン殿が断ったのは事実か?」


「ええ、私の要請を蹴るなんて、ひどいもんです」


「なるほど、その上で騎士を動かし、彼を拘束したのも事実か?」


「ええ、私の話を聞かないなんて、許されません。当然の処置です」


陛下は、ふぅ、とため息をつく。


「ブルク伯、其方への侮辱があったかどうかはともかくとして、要請を断られたからと行って、騎士を動かしたのは問題だ。戦うべき兵士が逃げ出したならともかく、従軍する気のないものを無理やり従軍させるために騎士団を動かすとは何事か。

騎士団は其方の私兵ではないのだぞ?!

侮辱罪についても、伯爵家当主の問題だから、それに騎士団を用いるのも問題だ。

やるなら私兵を使ってやるべきだったな」


「ブルク伯、其方は大隊長から中隊長に降格、さらに騎士団を私的に用いたことによる罰金金貨100枚だ」


「金貨100枚ですと!なぜそんな金額に?!」


「金貨100枚で命が助かるなら安いのであろう?

それとも反逆罪あたりで一族郎党極刑になるか?」


陛下はなかなか容赦がないようだ。まあ、騎士を私的に使うのは問題だよね。


「そ、そんな!」


「其方のしたことはそれだけ重大だということだ。

冒険者ギルドを甘く見ないことだ。国内にどれだけの冒険者がいると思う?

我が国と他国の間の街道で、突然護衛の冒険者に襲われたらどうする?それがあちこちで起きたら?

我が国と取引する商人はいなくなるだろう。そうなったら大国とはいえ、我が国ですら存続すら危うくなるのだぞ?」


「そ、そんなつもりは!?」


「どんなつもりかは知らん。だが、結果としてそれを引き起こそうとしたのだ。罰は受けるべきだろう。

そなたは当主として資格がないようだ。長男に家督を継がせるんだな。

国家反逆罪でないだけありがたいと思え」


「そんな。。。」


ブルク伯、いや、元伯爵は俯いてしまった。

陛下の株が上昇していますよ。今のところまだマイナスですがね。


その時、メアリーが部屋に入ってきた。


「裁定中だぞ?何事だ?」


「はい、今回の件について、冒険者ギルドのギルドマスターからお手紙です」


「うむ、ご苦労、下がって良いぞ」


陛下が手紙を読むのを待っていると、ブルク元伯爵は俺の方を恨めしげに睨みつけていた。

俺を睨むのは筋違いだと思うんだけどね?


陛下が読み終わったようだ。


「ギルドマスターからの書状にも侮辱罪に相当する発言はなかったとの証言があった。

よって、ブルク伯の侮辱罪は適用されん」


ギルドマスターからも横押しがあったようだ。

あとでお礼言っとかないとね。


「さて、今回の決定について改めて宣言する。


ブルク伯は金貨100枚を国庫に収めること。

Sランク冒険者ジンに関しては瑕疵がないこと。


以上だ。これにて閉廷する」


ブルク伯がまだ睨んでる。

また何かやってくるのかな?次はないよ?


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