106 軍部の暴走


このまま詰まらない話が続くなら、とっとと帰ろうかと思っていたら、アンジェさんが部屋に入ってきた。


「大隊長、冒険者を拘束するなど、ギルドに話は通してあるのですか?」


「本人が望めば問題ないと言っておったからな、こうして来てるんだから問題あるまい」


「騎士に拘束させてきたと聞いていますが?」


「些細な事だ。平民なんぞいくらでもおるわ。大人しくわしにしたがっておれば良かったのに、下手に逆らうから騎士を動かす必要があったのだ。面倒をかけおるわ」


「大隊長、それは本人の了解とは言いません。罪もない平民を捉えるなど、、、」


「罪ならある。貴族であるわしのいう事を聞かんかったのだ。侮辱罪だ。先ほど、わしの温情で侮辱罪は罰金金貨100枚で済ますと言ってある。それで丸く収まるのだ、問題あるまい」


「しかし、、、」


「アンジェ!お主は男爵家のくせにわしに逆らうのか?」


「、、、いえ。。。」


もう帰っていいかな?

コントとしてなら、無料なら見ててもいいんだけど、流石に飽きてきた。


「では、用件もないようなので、俺は失礼します」


「まて、お主との話は終わっておらぬ」


まだ始まってもいませんが。


「今度のヤパンニ王国との戦争の先陣を任せる。先陣は騎士の誉れ。平民のお主が栄誉ある先陣をきれるのだ、喜んで拝命せよ」


「お断りします。では」


俺は無理やり話を終わらせ、部屋を出ようとする。


ドアの前に立っていた、二人の騎士が道を塞ぐ。

俺は左右の拳で、二人のみぞおちのあたりを殴る。

二人は吹き飛んだ。鎧の腹の部分が凹んでいる。直すのに金かかるんだろうなぁ。なんせ、金ピカの鎧だ。見た目重視だろうから、下手すると、新品を買う必要があるかもしれない。


俺はそのまま部屋を出て行った。

後ろから「あやつを捕まえろ!」という声が聞こえてきたが、無視だ無視。




俺は屋敷に帰って、クレアを呼んだ。


「クレア、騎士団ともめた。このまま拗れるようなら王都を出ることになるから、準備しておけ。マリアの分もな」


「わかったぞ。リリア様の分はどうするのだ?」


「メイドに任せろ。どうせ俺たちには何が必要かわからん。ただ、準備は急がせろ」


「了解だ」


俺はいざという時の指示だけして、メアリーが来るのを待った。

メアリーと騎士団のどっちが先に来るかな?


メアリーが先に来た。


「ジン様、申し訳ありません。軍部が暴走したそうで。

今頃、お父様、いえ、陛下に報告が行っているはずです。

陛下からとりなしてもらいます」


「間に合うといいんだけどな」


「?どういうことですか?」


「なに、話がつまらなさすぎて、話を切り上げてきたからな。

ブルクとかいう貴族が怒ってたからな。大隊長とか言ってたか。

あいつがどう出るかで、俺の対応も変わるからな」


メアリーが真っ青になって、懇願してきた。


「私が話をつけますので、どうかお任せください。

これ以上話が大きくなると、収集がつかなくなります」


「まあ、俺はどっちでもいいんだけどな。リリアの事を考えると、卒業させてやりたいしな」


貴族関係のゴタゴタはメアリーの担当だよね?

朝の段階で、戦争の話は知ってたんだし、予想できたよね?

それにギルドの話からすると、陛下も知っていて止められなかったいみたいだし、同罪って事でいいよね?


「ジン様、お父様は騎士団に対して、強硬な手段を取る事を禁じておりました。

今回の件はブルク伯の独断ですわ。

陛下が知れば、降格もあり得ます。

どうか、短慮は慎んでいただけるとありがたいですわ」


メアリーは現状を把握しているらしい。

どれだけまずい事が起きているかも。


俺が素直に従うふりをして、戦争が始まってから、ヤパンニ王国に味方したら、味方の中に敵がいることになってしまう。

これが高ランク冒険者を本人の了解なしで、無理やり従軍させた時の危険性だ。

低ランクの冒険者なら、周りの冒険者が取り押さえれるだろうが、高ランクの冒険者だとそうはいかない。下手すると、周りの低ランク冒険者も一緒になって、敵対する可能性もある。

それがSランクの俺ともなると、一人敵対しただけで、戦争の趨勢が変わってしまう。



そんな話をしていると、王宮から召喚状が届いた。

今回の件で、陛下の前でお互いの主張を言い合い、陛下が裁定するというものだ。

通常は貴族同士の諍いに行われる、裁判のようなものだが、今回は話が大きいのであえて行うことにしたらしい。


「よかった、お父様が間に合ったようですね。

このままだと、戦争の前にジン様に騎士団を壊滅させられるかと思ってました」


状況によっては可能性はあったよ?

別にお尋ね者になりたい訳じゃないから我慢しているだけで。

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