105 嫌な貴族


翌朝、俺は一人でギルドに赴いた。

依頼を受けるわけではないし、気分のいいものでもないので、他のメンバーは置いてきた。


「遅いですねぇ」


「遅いねぇ」


ゴルドさんと二人で応接室で待っていたのだが、昼前になってもやってこない。


「もう来ないんじゃないですか?」


「うーん、そんな事はないはずなんだけどねぇ」


最初のうちは最近のギルドの話や、有望株の冒険者の話なんかで盛り上がっていたのだが、何時間も経つとなると、話すことなんてない。

そろそろお昼に出かけようかと思った頃にやってきた。


筋肉モリモリの身長2メートル近いおっさんだ。

髭も生やしており、背が低ければドワーフかと勘違いするほどだ。


「我の名はブルク・フォン・ドイエールだ。平民、お主に戦争に参加する栄誉をやろう。陛下とも顔見知りのようだし、小隊長待遇を保証してやろう。

手続きがある、すぐに付いて来るがよい」


ブルクは、いや、こんなやつ呼び捨てて十分でだろう、は背を向けて外に出ようとする。


「ちょっと待ってください。俺は受けるなんて言ってませんよ?」


ブルクは立ち止まり、振り返った。


「?お前の意見など聞いてない。一時的とはいえ、映えある騎士団の一員として行動できるのだ、喜ぶがよい。

さっさと付いてこい」


ブルクは出て行った。

俺は、付いて行かず、冷めた紅茶をすすっていた。


しばらくすると、ブルクが戻ってきて、怒鳴った。


「貴族を待たせるとは何事か!

準備に時間がかかるなら多少は待ってやる。とっとと準備しろ」


「いえ、それ以前に、従軍の話を断ると行ったはずですが?

耳が悪いんですか?

もう一度言います、従軍はしません、おかえりください」


「なんだと!

ギルドマスター、こんな奴をSランクにしておるのか?!

貴族に対する態度がなっとらん。

こんな奴、追放してしまえ」


また理不尽なことを言ってきた。

ゴルドさんが屈するとは思えないが、だんだん腹が立ってきた。

最初は普通に断るつもりだったんだが、貴族優秀主義に頭にきたのだ。


「いやぁ、すいませんねえ。

なにせゴロツキの集まりなんで、貴族への応対なんて習ってないですからねぇ。

いやぁ、申し訳ないですねぇ」


ゴルドさんも怒っているらしい。

丁寧に言ってはいるが、半分挑発している。


「何度でも言いますが、戦争には参加しません。

逆になんで参加しなくちゃいけないんですか?」


「貴族が望んでいるのだ、光栄に思って、従うのが当然であろう。

わしは平民なんぞ役に立たん奴を、一時的にとはいえ騎士団に入れるのは反対なのだ。

お前に時間を使っているのも、他の貴族がうるさいからだ。

とっとと準備しろ」


無理やり戦場に立たせてもなんの役にも立たない事をわかってないようだ。


「平行線ですね。

私は行きません。以上です。


ゴルドさん、これ以上は無駄な時間です。

俺は帰らせてもらいます」


「時間を取れせてごめんね。またねぇ」


「おい、何を帰ろうとしている、お主は騎士団に来るのだ。

勝手に帰っていいわけがなかろう」


俺はこれ以上話を続けるつもりがなかったので、そのまま立ち去った。




午後になって、食後のティータイムを洒落込んでいた時に、騎士が20人ほどやってきた。

なんでも、貴族に暴言を吐いた侮辱罪らしい。

侮辱罪は貴族でも当主だけに許された権限だ。


俺は話を断っただけで、侮辱するような事は言ってない。


騎士団に連れて行かれたら、強引にでもこじつけられて、戦闘奴隷にでもされそうだ。

俺は、騎士団への同行も断った。


一旦、屋敷の外に出た騎士は、他の騎士たちを連れて戻ってきた。

門番が止めようとしていたが、騎士相手に戦うのには抵抗があるらしく、警告と報告で済ませている。

この屋敷の使用人はほとんど王宮から派遣されてきた者たちなので、騎士団に強く出れないらしい。使えない奴らだ。


リリアがいない現状、俺が判断するしかないのだが、貴族の権威に従うつもりはない。

俺はルナに学院にいるはずのメアリーに伝言を頼んだ。


俺は騎士団全体に喧嘩を売るつもりはないので、大人しく付いて行くが、拘束されそうになった時は断った。

それはもう、体が持ち上がるほどのアイアンクローしながら、丁寧にお願いした。

フルプレートの騎士だが、戦争でもないので兜はつけていない。


騎士たちは『大人しく付いてくるなら拘束する必要も無いだろう』という事にしたらしくで諦めてくれた。


馬車で城まで連れて行かれ、そこから歩きで騎士団の詰所まできた。

そこにはブルクが待っていた。


「待っていたぞ、ようやく貴族というものが解ってきたようだな。

最初から素直に付いてくれば、こんな面倒な手順を踏まなくても良かったのに。

貴族の時間を奪ったのも含めて、今回の件は罰金で済ませてやる。

そなたはSランクになって稼いでいるようだし、金貨100枚で済ませてやる」


なんと1億円要求してきた。

まあ、一円足りとも払う気は無いのだが、貴族って、こんな感じで金を稼いでいるのだろうか?


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