104 ヤパンニ王国と戦争?


年が明けて4日。

この3日間は特に何もなく過ごしていた。

この世界では一般的に、正月の3日間は家で家族と過ごす。

一部の店以外は閉店しており、街も静かになる。

俺たちも屋敷でおとなしくしていた。


そして今日、年明け最初の依頼でも受けようかと、朝食を食べていた時に、メアリーが駆け込んできた。


「ジン様、大変です。戦争が始まります」


「はあ?どこの馬鹿だこんな年早々に」


「東の小国ヤパンニ王国です。

昨年の条約に納得いかない貴族が中心となり、国王もそれを認め、年始の挨拶に戦争についても触れていたと。

先ほど、鳩便で届きました」


「ほう、それで?」


「え?大変なんですよ?戦争ですよ?」


「いや、だから、俺になんの関係があるんだ?」


「えっと、なんでしょう?」


「俺は戦争には参加しないと宣言したはずだ。

もしこの王都に戦火が広がるようなら、俺は身近なものをつれて逃げ出すといったよな?

なんで、戦争の第一報が俺のところに来るんだ?

すぐに逃げろとでも?」


「いえ、その。出直してまいります」


「ああ、そうしろ」



戦争か。誰が参加するもんか。

好き好んで人を殺すやつの気が知れない。


それに、ヤパンニ王国に今戦争を仕掛ける国力は残ってないはず。

べスク王国あたりがバックについたか?


まあ、俺には関係ない。


「リリア、クレア、マリア、今年最初の依頼だ。何かいいのがないか探しにいくぞ」


「「「はい」」」



俺たちは冒険者ギルドに来ていた。


アイリスさんの列に並び、順番が来るのを待った。


「ご無沙汰してます、アイリスさん。

何か良い依頼でもないですか?」


「ああ、ジンさん、良いところに。

ギルドマスターが用事があるそうです」


「わかりました」


応接室に通されたが、あまりいい予感がしない。

ゴルドさんが出てきた。


「久しぶりだね、ジン君。元気してたかい?

ちょっと厄介なことになっててね。

君の力を借りれると嬉しいんだけど?」


「具体的にはどういうことでしょうか?」


「うん、今度、ヤパンニ王国と戦争が始まるのは知ってるかな?」


「一応聞きましたが」


「うん、それでね、国からも冒険者に対して、公募したいと言ってきてるんだ。

もちろん、戦争の参加者をね。

冒険者ギルドは戦争に加担しないのが原則だから、依頼扱いにはできない。

でも、冒険者が自主的に参加するなら、止めるすべもない。

そこで、公募という形を取るんだよ。


そこで問題となるのが、高ランク冒険者の扱いなんだ。

国としては、戦力になる高ランク冒険者を引き入れたい。でもギルドは戦争なんかで優秀なギルド員を殺されてはたまらない。ヤパンニ王国の冒険者ギルドだってそう思っているはずなんだ。

だから暗黙の了解として、Bランク以上は戦争に参加させないという方針なんだよ」


「いい制度ですね。それで俺となんの関係が?」


「内々になんだけど、君を参加させれないかと聞かれててね。

軍の高官が直接交渉に来たんだよ。

流石にその場で話を蹴るわけにはいかなくて、本人の了解を得ないとダメだという話になったんだ。


それで、君に頼みたいのは、その高官と会って、参加を断って欲しいんだ。

もしこれで味をしめて、内々に頼んだら高ランク冒険者を派遣してくれるなんて誤解されたら、大事になっちゃうからね」


なるほど。

つまり、高ランク冒険者の代表として、ギルドに命令するな、独立組織だと公言しろという訳か。

ふむ、断れ、なら問題ないな。


しかし、王家にはちゃんと釘を刺しておいたのに、これか。

メアリーは知ってたんだろうか?


「わかりました。直接会って、断りましょう。時間はいつがいいですか?」


「そうだね、明日の今頃に来てくれるかな。

本来の立場的には軍部の方に行くべきなんだけど、今回は向こうが頼みに来てる立場だからね。

こちらに来てもらおう。こういう時は強気でいくべきだからね」


「わかりました。

なら今日は依頼を受けない方が良いですね。

明日また来ます」


うん、ゴルドさんは分かってる。

多分ランクの低い冒険者も出したくないんだろうけど、基本自己責任だからな。

ギルドが勝手に拒否もできない。

だけど、指名は絶対に許さないという姿勢を示すのは大事だ。

ギルドは自由だという根幹をなす話だからな。



俺たちがギルドから戻ると、メアリーが来ていた。


「どうした、朝来たばっかりだろう?」


「ええ、その軍部がジン様の参戦を希望しておりまして。

お父様も抑えきれずに、軍部の高官が、ギルドに協力を依頼に行ったとか」


「ああ、さっきギルドで聞いたな。明日断る予定だ」


「そ、そうですか。それならいいんです。

お父様もジン様と約束したばかりで反故にはできないと考えていますので。

ただ、その高官も高位貴族でして。それも平民を見下すタイプの。それで、その、ジン様の気分を害するかもしれないからと、事前に謝りに来ました」


「謝るくらいなら、最初から止めておいて欲しかったな」


「すいません、力足らずで。

とにかく、そういうことですので、軍部はともかく、王家にジン様との約束を破るつもりはありませんので」


「分かった」

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