098 殿下との縁談


それから1週間後、リリア様が学院に行っている間にメアリー殿下が訪ねてきた。

あまりいい予感がしない。


「メアリー殿下、お久し振りにございます。

殿下におきましては、、、」


「もうそれは良いと言ったでしょう。

そこに座りなさい。お茶をいただきましょう」


ルナがお茶を淹れてくれる。

ルナも俺が帰ってきたとき、泣いて喜んでくれたうちの一人だ。


「それで、私の用件は分かっていますね?」


「は?」


「何よ、分かってませんでしたの?

あんなに王宮が騒がしいのに」


「はぁ、王宮に伝などありませんので」


「もう、仕方ないですわね。

私とあなたの事ですよ。ヤパンニで同室で一夜を過ごしたことを、ヤパンニ王国が盛んに喧伝してますのよ。

本気で信じてる人なんかいないでしょうけど、立派なスキャンダルです。


そ・こ・で、あなたに責任を取ってもらいたいの」


「その話はなかった事になったはずでは?」


「国に戻るまで保留、と言ったはずです。

国に戻ったら、噂で持ちきりでね。私にあった、縁談が取りやめになったわ」


「結婚を承諾した覚えはないのですが?」


「してもらわないと困るのよ」


「私は平民ですし。。。」


「あなたが貴族になれば問題ないわ。

ちょうど、ヤパンニ王国と繋がっていた貴族を数家潰したばかりだし、枠は空いてるわよ?」


「いや、そういう意味じゃなくて。。。」


「何?私じゃ不満ですの?

胸だってそれなりにありますし、自分で言うのもなんですが、顔にも自信がありますわよ?」


「いや、そう言う問題でもなくて、私はリリア様と婚約してるんですが」


「問題ないありませんわ。リリアが先ですので、私は側室で構いませんわ」


やっぱり分かってないな。

確かに胸もある、スタイルもいい、顔も美人だ、性格も悪くない。

ん?悪くないのでは?


いやいや、リリア様に不義理すぎるだろう。

発端は誤解からだが、今ではそれなりに好きになっている。

それに先日、殿下とは何もないって宣言しちゃったし。


「なんでそんなに俺と結婚したがるんですか?!

今の婚約が解消されても、殿下なら他にいくらでもいるでしょう?」


「いえ、それが、ドロシーが誘導尋問にあっさり引っかかってしまって。

あなたが転移魔法を使えることがバレてしまいましたわ。

もちろん、一日一人だけって内容だけど、それでも引き入れたがっててて。

私を嫁にやることで、囲い込もうと言うわけです。ちょうどケチもついてますしね」


「いや、それでも平民に嫁ぐなんてありえないでしょう!?」


「いやいや、あなたが思っている以上に転移魔法は優秀らしいんです。

私もよく知らなかったんですけど、たとえ一人しか運べなくても、十分な役目ってのもあるらしいですわ。まあ、ロクでもない内容だとは思いますけど」


「はぁ、それが嫌だから殿下に相談したんじゃないですか!?」



当然だ。

転移魔法がバレても役に立たない条件にしておけば問題ない、という前提で転移魔法の事を打ち明けたのだから。

これは本気で表舞台から消えることも考えないといけないか?

クレアとマリアだけ連れて田舎に行くか?リリア様も連れて行くか?


いや、結論を出すのはまだ早いな。

逃げるのはいつでもできる。自分だけならと言う条件がつくけど。なんなら<転移>してもいいし。

まずは、陛下がどう思っているのかを確認して、リリア様の意向も確認しないとな。

それから、<転移>の有用性がどのくらいかも確認しないと。交渉時に不利になるからな。


「それで、陛下は私に何を求められてるんですか?」


「それはお父様に直接聞いてくださいな。

今日の夕方に時間を作っていただいたわ。夕食を一緒に食べてから会談という流れだそうよ」


「まあ、話は聞かないといけないんですが、そんなに急に決まったんですか?」


「いいえ、一昨日には決まってたましたわ。

早く言うとあなたが逃げてしまわないか心配だったから、直前に言いに来ましたの」


俺が<転移>の有用性を確認する時間を潰してきた。

わざとなら、結構本気で囲い込みに来てると見るべきだ。


「とりあえず、今日の会食には伺いましょう。

ですが、結婚の話も、転移魔法による協力も約束はしません。

あくまで、話を聞くだけです」


「それで結構ですわ。

私としては、どちらでも構わないませんし」


「殿下は私との結婚をどう考えているんですか?」


「そうですね、顔も悪くないし、気遣いもできる、財力もある、冒険者としての力量もある。優良物件ですね。

正直、顔も見たこともない貴族のバカ息子に嫁入りするくらいなら、あなたの方が面白そうですわ」


王族は結婚観も違うらしい。


「はあ、どうせ馬車が待ってるんでしょう?」


「話が早くて助かります」


俺にはゆっくりと考えをまとめる時間もないらしい。



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