091 ヤパンニ王国 (3)


その時、反対側の馬車の窓付近に、何かが飛んできた。

風壁に遮られているが、針のようだ。


殿下も気づかれたみたいで、窓から離れる。


「こっちが本命か」


俺が窓から外を見ると、黒づくめの男達が10名ほど向かってくる。

俺の<魔力感知>に引っかからなかったことから、特殊な訓練を積んでるのだろう。


全員、爪形の武器を装備している。

たまに体術で戦う人が使っているのを見るくらいの、珍しい武器だ。


しかし、大きさが普通よりも大きい。

まるで『グレートウルフのサイズ』かと思うほどのサイズだ。


なるほど、魔物を後ろに通して襲われるのではなく、確実に殺しに来たらしい。

それもグレートウルフに見せかけて。


先ほどの針はおそらく殿下を狙ったのだろう。グレートウルフは爪に麻痺毒を持つので、偽装できる。

魔物側の窓を見ているのだから、反対側の窓からは射線が通る。

ここまで考えての行動なら、あっぱれな読みだ。


さて、このままだと、反対側から暗殺者に攻撃を受けてしまう。

入り口は魔物側だけとはいえ、兵士も後ろから攻撃を受けたら、被害が出る」


俺は兵士に注意喚起したが、すでにグレートウルフが馬車の近くまできている。

両方から狙われたら、ひとたまりもないだろう。

仕方ない、出るか。


「殿下、兵士だけでは暗殺者に対応できないでしょう。

馬車の裏側にいる間に処理してきます。

障壁は解きますので、窓は閉めておいてください」


「よろしくお願いします」


俺は馬車から出ると、兵士に怪我がないことを確認し、裏側に回った。

暗殺者達は、まだ気づかれてないと思っていたのか、慎重に気配を殺しながら寄ってきていた。


今なら、剣で殺せば、兵士が対応した、ですむ。


俺は、下草に紛れるように、暗殺者の左側から接近する。

剣を振れば、下草も刈り取って、音でバレてしまう。

なので、喉を狙っての突きだ。


一人目はあっさりと倒せたのだが、暗殺者の体が倒れる音で気づかれた。

俺としたことが。。。


まあ、気づかれたのなら仕方ない。

一気に接近して剣を振るう。


2人倒したところで、敵に半包囲された。


俺は下がらず、前方にダッシュして、二人を切り裂きながら、包囲を突破した。

全力でのダッシュだ。消えたようにしか見えなかっただろう。

俺は気づかれる前に左側の2人の首を跳ねる。


ここでようやく後ろに回られたのに気づいたのか、右側にいた3人が襲ってきた。

俺は下がらず、<魔闘術>で剣を強化して、敵の爪を全て切り飛ばした。


そのまま3人とも首を切り落とした。



俺が魔物側に戻ると、戦闘は終了していたらしく、傷を直したりしていた。

俺は、ザパンニ王国の兵士たちだけに聞こえるように指示する。


「反対側に暗殺者が来ていた。

俺が倒したが、お前達で倒したことにしてほしい。

すぐに裏側に回ってくれ」


兵士たちは俺の護衛が秘密なのを知っているので、素直に従ってくれた。


俺は馬車のドアをノックして、

「殿下、魔物の討伐が終了した模様です」

殿下が降りてくる。


「ヤパンニの騎士達、よく守ってくれました。礼を言います」


流石に殿下、ポーカーフェイスだ。


その時、馬車の反対側から兵士が姿を現し、

「殿下、反対側から襲ってきた不審者を排除しました」

と報告した。


「不審者ですか?

生きているものはいますか?」


「いえ、全員殺してしまいました。申し訳ありません」


「まあ、仕方ないでしょう。

身なりや武器など、何か特定できるものはありませんでしたか?」


「は、全員が黒づくめで、爪のような武器を装備しておりました」


「爪のような装備ですか?

珍しい武器を使いますね」


「はい、まるで『グレートウルフの爪のような』大きな武器でした」


兵士もちゃんと分かっているようだ。


「そうですか。ホリン殿、まるで殺されてもグレートウルフのせいに出来る武器を持ったものに襲われましたが、何か意見があれば聞きましょう」


「我々も何が何だか。。。」


「そうですか、それでは、我が国の兵士が気づかなければ、私は殺されていたと思いますが、その辺はどうでしょう?

あなた方は、グレートウルフを倒すのが仕事ではなく、私を守るのが仕事のはずです。

一人も護衛に残さずに討伐に向かった理由をお聞かせください」


「そ、それは、、、突然の襲撃でしたので。。。」


「そうですか。護衛能力に疑義があることを本国に伝えておきましょう」


「そ、それは、、、」


「さあ、先に進みますよ。

皆、馬車に乗りなさい」


殿下は有無も言わさずに、騎士団の対応の悪さを指摘して、反論も許さずに馬車に乗ってしまった。

これは、下手に言い訳させると、認めざるを得なくなるので、それを防ぐためだろう。


「ジン様、ベストな対処でした。我が国の兵士が処分した事に出来たのも良かったです。

さすがはリリアの婚約者ですね」


「恐縮です」


「これで攻め手が一つ増えました」


殿下は、やはりやり手のようだ。今回の件も手札にするらしい。


「殿下、実は、爪も確保してあるのですが。。。」


俺は折っていない、完全な状態の爪と、窓枠から狙われた針を出す。


「さすがですね。保管しておいてください」


爪にも針にも麻痺毒が塗られているのがわかる。


鑑定した結果、<グレートウルフの麻痺毒>と出た。

『グレートウルフの』と出るとは思わなかった。麻痺毒にも種類があるらしい。それも種族を特定できるような。


ともかく、これがあれば、今回の件をなかった事には出来ないだろう。


魔物寄せの香は、跡形も残ってなかったそうで、証拠にはならないらしい。

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