090 ヤパンニ王国 (2)


国境線上に到着すると、ヤパンニ王国の騎士と思しき人が、挨拶に来る。


「メアリー王女殿下にお越しいただけるとは、光悦至極にございます。

ここからは、当騎士団が護衛してますので、ご安心くだくさい」


ヤパンニ王国の騎士は、騎士の礼も取らずに、会釈だけで済ませてきた。

王国内でなら、不敬罪で処分されてもおかしくない。

軽く見られているのだろう。


「まずは、名乗りなさい」


「はい、申し訳ありません、騎士団で大隊長を努めさせて頂いています、ホリンと申します。

道中は我々が責任持って護衛いたしますので、ご安心ください」


いや、騎士団が一番危険なんだが。。。

騎士団は20名か。全員騎士のようだ。兵士はいない。

まあ、外交は殿下の領分だ。俺が口を出すことはない。


「メアリー・フォン・ザパンニです。

よろしくお願いします。


ところで、ホリンどの、我々は、昨日、盗賊の襲撃に遭いました。

このあたりでは、頻繁に出現するのですか?」


「この辺りですと、赤斧の髭が大きな勢力でしょうか?

50名ほどだと聞いております」


首領は別に赤斧は使ってなかったが。


「討伐はされないので?」


「なにぶん、形勢不利となると、ザパンニ王国側に逃げてしまうので、追うに追えないんです」


なかなか、いろんな言い訳を考えているものだ。

剣が全員新品なのと、服毒自殺がなければ、信じていたかもしれない。




翌日の昼間、俺は嗅いだことのない匂いに気づいた。


「殿下、何か匂いませんか?」


「か、体はちゃんと拭いていますのよ?!」


「いえ、そういう意味ではなく、、、薬のような匂いがするんですが。。。」


「薬ですか。私には匂いませんが、ホセ、ドロシー匂いますか?」


ホセさんというのは、外務大臣をされている男性のことだ。

ヒョロっとしており、目にクマのある不健康そうな老人だ。


ドロシーさんは、殿下付きのメイドだ。

マリアを連れて来たかったのだが、殿下の判断でドロシーさんに決まった。


「これは魔物よけの香ではないでしょうか?

錬金術師が作るもので、かなり高価な代物です。

馬車で移動中は匂いが後方に流れてしまいますので、野営時にしか使われないと聞いていてのですが。

それに、以前嗅いだのとは、少し違うような気もします」


「なるほど。それにしては、おかしいですね。

北から魔物が寄ってきています」


魔物よけの香というのは、どのくらいの影響力があるのでしょうか?」


「ゴブリンやオークなどが嫌う匂いだと聞いたことがあります。

他の魔物にも効果はあるようですが、ランクの高い魔物には効かないそうです」


「殿下、うちの戦力は後ろの馬車の兵士6名だけです。

北から寄ってきている魔物から、ヤパンニ騎士団が守ってくれなければ、我々はどうしようもありません。

ヤパンニ騎士団を信用しますか?」


「魔物に襲われたとしても、王国内で使者が死ねば、責任の追及は免れません。

それでも襲うならば、騎士団を捨て駒にしている可能性がありますが、そこまで思い切ったことはしないでしょう。

やるとしたら、守りきれなかった、あたりでしょうか。

もしくは、我が国のせいに出来る何かがある可能性もありますね。


以前も言いましたが、ヤパンニ王国はロビー活動が得意です。

少しでも我が国に非があれば、それだけで自分たちを有利に持っていくでしょう」


「だとすれば、怪しいので、香くらいですか」


ホセさんが、思いついたように口を挟んできた。


「あの、今の香ですが、もしかすると、魔物寄せの香かもしれません。

話に聞いただけですので、はっきりとは申せませんが、魔物よけの香を作る過程で生まれたものだとか」


「殿下、魔物寄せの香を使っていた場合、どうなりますか?」


「そうですね、我々がわざと使ったと言って、、、」


「魔物だ!左側からきているぞ!」


話の最中に、もう魔物が襲ってきたらしい。

後ろの馬車の兵士も俺たちのいる馬車の前で剣を構えている。


馬車から見ると、狼系の魔物のようだ。

フォレストウルフにしては体が大きい。

グレートウルフかな?ちょっと遠くて鑑定が効かない。


夏なので、下草が茂っていて、発見が遅れたようだ。

騎士達も慌てて剣を抜いているが、先にグレートウルフが体当たりを仕掛けてきた。

騎士が数名吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


後ろからまだ出てくるので、大きな集団なのだろう。


俺は、兵士に馬車に近づくように言ってから、風壁を張る。

それほど強力なものではないが、魔力を十分に込めればドラゴンのブレスにも耐えれる優れものだ。

今回は、騎士に気づかれないように、魔力を抑えているが。

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