089 ヤパンニ王国 (1)


王都を出発して20日、そろそろ国境が近い頃、俺の<魔力感知>に反応があった。

おそらく人間で50人ほどだ。


「メアリー殿下、前方に50名ほどの集団がいますが、出迎えでしょうか?」


「いえ、出迎えにしては早すぎます。

盗賊の可能性があります。


ライノス、前方に50名の集団。警戒を」


「了解しました。

おい、誰か先に行って、確認してこい!」


「殿下、この辺には50名もの人数を抱える盗賊団がいるんでしょうか?

謀略の疑いもありますが」


「昨年まで戦争をしていたのです。

食い扶持を稼げなくて、盗賊に落ちる人も多いでしょう。

なので、いたとしてもおかしくはありません。

時期的に出来すぎているのが難点ですが」


先行していた兵士が戻ってきたようで、報告している。


「前方に50名ほどの集団を確認。

全員武装しており、道を完全に塞いでいます」


「盗賊か?」


「それにしては装備が良すぎる気がします」


「そうか、一旦停止だ。

半分はついてこい。残りはこの場で警戒だ」

ライノスさんは、全部で100名くらいの兵士を二つに分けた。


ライノスさんが前方に近づいていった。

半分くらいに近づいたところで、前方の集団が一斉に突撃してきた。

ライノスさんは数人を切り捨てるが、槍で馬がやられた。

落ちてからも、下がりながら防戦し、馬車の近くまで戻ってきた。


他の兵士も参戦し、状態が拮抗する。


「殿下、どうしますか?私が出てもいいですが、一人でも逃せば、私のことはバレてしまいます」


「戦局をどう見ますか?」


「盗賊でしたら、ある程度倒せば自然と逃げていくと思いますが、謀略だとすれば、最後の一兵まで戦うでしょうから、こちらの損害も大きくなるかと。

それと、謀略だとしたら、50名を倒したところで、監視役がいるはずですので、やはり、バレてしまいます」


「ならば、このまま兵士達に頑張ってもらいましょう。

ポーションの備蓄は大丈夫ですね?」


「ええ、十分に揃っています。

四肢欠損さえなければ、大丈夫でしょう」


戦闘は入り乱れて、乱戦になっていた。

敵の中でも強いのが一人いて、首領だろう。


俺は、窓の隙間から麻痺毒を塗った短剣を放った。

見事、ふとともに刺さり、動きが鈍る。



兵士が7人ほど死亡したが、他はポーションで治る範囲だった。

盗賊は逃げることはせず、最後まで戦った。


「殿下、盗賊は最後まで逃げませんでした。

これは謀略を疑ったほうが良いかもしれません。


ライノスさん、敵の武装は共通点はありますか?」


「防具はバラバラですが、剣が全部新品です」


「謀略で間違いなさそうですね。

ザパンニ王国の領内での盗賊の襲撃となれば、ヤパンニ王国の責任にはなりませんので」


「そうですね。

まさか、交渉の前に謀略を仕掛けてくるとは思いませんでした。


交渉の席で毒でも盛られるのかと思ってましたから」


「では、どうしますか?

兵士は7名殉職しましたが、戦力はまだ残っています。

ですが、今の規模の戦闘がもう一回あれば、守れても、十分な戦闘力は残らないでしょう」


「ライノス、今後の行動に関しての上申を」


「は、ヤパンニ王国には到着予定を伝えていますので、今から引き返すわけにはいかないかと思います。

ただ、奴らが、奇襲を選ばなかったのが気になります」


「彼らが本気だということを示したかったのかもしれませんね。

盗賊?に生き残りはいないのですか?」


「居ましたが、服毒自殺していました」


「謀略が確定ですね、以降、警戒を厳重にしてください。

ヤパンニ王国に入ってしまえば、襲撃の可能性は低くなりますので、それまで頑張ってください」


ヤパンニ王国に入ってから、使節が盗賊に襲われたとなれば、ヤパンニ王国の責任となる。なので、表立っての襲撃はないだろう。

とすると、絡め手だが、毒などに注意する必要がある。

無いとは思うが魔物の人為的なトレインという可能性もある。


「殿下、以降は持参した食料だけで過ごしましょう。

確か、十分な量を持参したはずですね」


「ええ、そうですね。井戸水なのにも気を付けましょう。


ライノス、良いですね。警戒しすぎて悪いことはありません。

いかなる妨害にも負けずに到着すれば、それだけで交渉で有利に立てます」


「了解しました。

ただ、水は井戸から汲むしかないので、誰かに安全を確認させる必要がありますが」


「それに関しては私の方で、調べましょう。

調べた井戸だけ使うようにしてください」


「それは助かります」


メアリー殿下も謀略というせんで合意したので、これから先は敵地だ。

それも、騎士は国境までしか行けないので、あとは兵士数名のみの護衛となる。


「戦力が心もとないですが、なんとかするしかないですね」


「ええ、兵士の方には不便をかけることになりますね。


俺もメアリー殿下も、以降は一瞬も気が抜けないことになった。




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