088 交渉内容
メアリー殿下が屋敷を訪れた。
リリア様に会いに来たのではなく、俺に会いに来たらしい。
俺は裏庭の東屋にいるメアリー殿下にこうべを垂れ、挨拶をしようとすると、
「そういう面倒なのは良いといったでしょう。
これからも必要はありません。普通に話すことを許可します」
と言われてしまった。
王族だから、みんなにかしずかれて、飽きているのかもしれない。
リリア様も跪いたりしていないし。
友達枠に入れてもらっているのだろうか?
さて、リリア様が学院に行かれていて、いない間に、わざわざ会いに来たのだから、ただの挨拶の訳が無い。
なんの用事だろうか。
「ジン様、今度のヤパンニ王国での交渉について説明に来ました」
メアリー様が交渉について何を説明するのだろう?
「今度の大使は私が務めることになりましたわ。
なので、挨拶と今回の予定に関して相談するために参りました」
なんと、メアリー殿下が大使を務めるとは。
王族が戦争していた国に行ってもいいのだろうか?危なくないか?
「メアリー殿下、流石に昨年まで戦争していた国に行くのは危なくないですか?
外務大臣とか、誰かいるでしょう?」
「戦争をしていたからこそですわ。
下手に下のものを担当にすると、低く見られて、交渉が不利になりますの。
なら、最初から王族である私が向かった方が有利ですわ」
なるほど、国同士の交渉だ。下っ端が出る幕はないということか。
しかし、外務大臣、下っ端説か。興味はあるが、知りたくないな。
「それに、一文字も見逃さずに、こちらに有利にしなければなりません。
何かあって、こじつけられると、こちらが悪い形で再度戦争という可能性もありますから。
それには、国の代表として、その場で全権代理ができる私が行くのがベストですわ」
それほど、ヤパンニ王国は重要なのだろうか。
「ヤパンニ王国はそれほど重要な国だということでしょうか?」
「いいえ、国力で言えば、我が国の十分の一以下ですわ。
問題は国力ではなく、外交力ですの。
ヤパンニ王国は各国に大量の役人を派遣しており、各担当者と親密にしておりますの。
それを世界中で行うため、実際になかったことでも有ったように伝えられたりして、厄介ですの。
前回の戦争でも、向こうから戦争を仕掛けてきたというのに、こちらが先に越境したと喧伝して周り、こちらが弁明に回る始末ですわ。
幸い各国の情報網も確立されているだけ有って、ある程度自国でも情報を収集しており、大事には至りませんでしたが、今回も同じようなことが起これば、次はどうなるかわかりませんわ」
なるほど、ロビー活動が得意でゴネるのが得意と。
どこかの国が思い出させるな。
あちこちに銅像立てさせたらしいし。
「なるほど、殿下が向かわれる理由はわかりました。
それで、私と相談というのはなんでしょうか?
私は特に外交をする必要はないと言われているのですが」
「ええ、外交は私が行います。ですが、国の意向を知っていていただかないと、何か言質を取られると厄介ですの。
なので、事前にどういう風に話を持っていき、どの辺りで決着をつけるつもりかを話しておきたいんですわ」
なるほど、護衛なら何言っても気にすることはないが、一応役人という名目で行く以上、代表者の一員というわけだ。
そこまで考えてなかったので、今更ながらに重要な役目だと自覚する。
「それでは説明しますが、まず、前回の戦争に関してですが、我が国が有利な展開のまま、終了しました。
国境線をだいぶ押し戻し、あと1年有ったら、国を併呑できたくらいには勝利していました。
間に南のべスク王国が入ることで、停戦に合意しました。
しかし、1年間の限定的停戦条約だったため、今回の正式な友好条約の交渉が行われることになりました。
今の停戦条約には、相手国と戦争をしない、経済の邪魔をしない、などの項目がありますが、基本はただの停戦です。
今回の交渉では、国同士の関税率や穀物の取引量などを細かく決めることになります。
とはいえ、我が国が有利で終了した以上、当然我が国の儲けが出るような条約にしなければいけません。
べスク王国からも暗に後押しする旨の話を通してあります。
今回は最初は無理難題を焚きつけます。
その上で、戦争も辞さないという姿勢を見せたところで、べスク王国から仲裁が入り、我が国有利の条約とする形を考えています。
基本、他の国よりも2割ほど高い関税で落ち着くでしょう。
我が国は、ヤパンニ王国からは特に輸入していませんので、ヤパンニ王国の一人負けですわね。
べスク王国に依存しないように注意しなければなりませんが、べスク王国はそうなる事も可能性として考えていると思います。
そして大事なのが、友好条約の期間です。
基本無期限で条約を結びますが、守られるようなら、この世に戦争など存在しません。
なので、どの位で向こうの国力、戦力が整うかを注目しておく必要があります。
条約を結ぶ時点で、ヤパンニ王国もその辺りは既に計算しているはずですので、なんとか情報を収集できれば上出来ですね」
なるほど。
いろんな条件があるな。
一応覚えたが、その通りに振る舞える自信はない。
そもそも、俺にコミュニケーション能力を求めるのが間違いだ。
「殿下、お話はわかりましたが、実際に私は何をすれば良いのでしょう?」
「たくさん説明しておいてなんですが、護衛以外にしていただく事はありません。
先ほども申しましたが、言質を取られなければ十分です」
「それなら了解しました。十分気を付けましょう」
「ええ、では私も失礼しましょう。
今の話は他の方に漏らさないようにお願いします。
もちろん、リリアにも秘密です。
外交機密に当たりますから」
「了解です」
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