087 シャボン玉


ドゴール伯爵からリリア様に手紙が届いた。

内容は、俺との契約解除だ。


正確には、途中で別の依頼を受ける許可を出すことだ。

リリア様は難色を示すが、ドゴール様からわざわざ指示が出るということは、重要な依頼だということだ。


リリア様は俺に聞いてきた。


「ジン様、お父様から他の依頼を受けるという話を聞きましたが、どういうことですの?」


「ええ、なんでも東のヤパンニ王国との交渉の護衛だとか。

昨年まで戦争していたので、騎士団を護衛につけれないため、Sランクの俺に白羽の矢が立ったわけです」


「あら、大役ですのね。

では、クレアさんとマリアさんも連れて行かれるんですの?」


「いえ、依頼中は外務省の役人として同行しますので、二人は連れて行きません」


「では、私が一緒に行っても。。。」


「リリア様!遊びではないんですよ?!」


「ですよね。。。」


「それで、許可はいただけるんでしょうか?」


「ええ、というか、許可しないわけにいかないでしょう。

わざわざお父様を経由しての指示ですもの。命令に近いですわ」






「それはそうと、リリア様」


「なんでしょう?」


「夏休みの宿題はされたのですか?」


「うっ、大丈夫ですわ。ちゃんと期日中には終わらせますわ」


「と言う事は、まだ終わってないんですね。

さあ、今からやりますよ。

俺が依頼に行くまでに終わらせますからね!」


「そんな!ひどいですわ!

依頼までは、ジン様と遊べると思っていましたのに」


「依頼までに終わらせたら、デートして差し上げます。

結婚運び付きが良いですか?」


「あ、あれはもう結構ですわ。

メアリー殿下にも散々からかわれましたし。

使用人まで噂してるんですのよ?

私がどれだけ恥ずかしかったか。。。


聴いてますの?」


「もちろん聴いてますよ。

では、結婚運び無しのデートで。


場所はこのまま王都が良いですか?

それともロービスに帰りますか?」


「時間が勿体無いので、王都ですわね。移動に時間がかかりますし」


「それでは、何か考えておきましょう」





俺は今、王都の東にある、オブリ川のほとりに来ていた。

リリア様との、デートの約束を果たすためである。

リリア様は努力して、昨日の夕方に宿題を終わらせたのだ。なんか、半分くらい俺が解いたような気もするが、宿題自体は終わった。


この川は農業用水に使われており、特に風光明媚な場所というわけではない。

ただ、王都の近くで、安全で、水辺といえば、ここだけだったのだ。


「リリア様、まずはこの辺でお昼にしましょう。

マリア、ルナ、用意を」


「ジン様、川に来て何かありますの?」


「いえ、川自体は普通の農業用水です。

ただのピクニックだと思っていただければ」


マリアとルナ、それに護衛としてクレアが一緒に来ている。


屋敷の料理人が作ったサンドイッチを食べる。

紅茶を飲みながら、雑談していると、リリア様がこちらを見ている。


後ろを見たが、何もない。


「リリア様?何か?」


「え、ええ。ここに連れて来てくださった理由を、そろそろ教えていただけないかと思いまして」


「そうですね。

マリア、桶に水を汲んできてくれ。

ルナ、石鹸を」


俺は組んできてもらった桶に入った水に、石鹸を溶かす。

ある程度溶けたら、針金を丸くしたものを石鹸水につけた。


俺は針金に息を吹きかけた。


「ふぅー」


輪っかからは、シャボン玉が吹き上がった。

天気が良いので、シャボン玉がキラキラ光っており、大変きれいである。

うん、これならリリア様も満足してくれるだろう。


「まぁ!素敵!

どうなってるんですの?!」


「これは石鹸水を使った、シャボン玉というものです。

何か特殊な効果があるわけではありませんが、綺麗でしょう?

別に屋敷でもできたんですが、こちらの方が風が気持ちいいかと思って、誘った次第です」


「石鹸水でこんなに綺麗なものができるのですね!

私にもできるかしら?」


「もちろんですよ。

簡単ですので、やってみてください。


この針金を地面と平行に石鹸水につけて、、、そう、

それから幕が途切れないようにゆっくりの顔の前に持って来ます。

そして、フゥッと吹きかけてください」


シャボン玉が吹き上がる。


「まぁ、私にもできましたわ!

なんて素敵なんでしょう!」


リリア様はご機嫌である。


「これなら子供でも遊べますし、流行りますわよ!」


「それなら、リリア様が流行らせてください。

俺はそういったのが苦手なので」


「いいんですの?

シャボンダマ?は今まで聞いたことないので、ジン様が発案者ですわよ?」


「いいんですよ。

こういうのは、沢山の人が遊んでくれてこそ、ですから」


「なら、学院の友人にもお教えしますわ。

教員の方も興味を持たれるんじゃないかしら」


リリア様が多少興奮気味だ。

だが、気に入ってもらえてよかった。

勉強させるだけさせて、カフェでお茶を濁したら、また拗ねられそうだったし。


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