086 闇の仕事?
武闘大会の興奮がようやく冷めてきた頃、メアリー殿下から王城に呼び出しがあった。
俺は片膝をついた状態で、挨拶する。
「メアリー王女殿下、おひさしぶりにございます。覚えておられますでしょうか、以前リリアーナお嬢様とお茶をした際にご一緒させていただいた、Sランク冒険者のジンと申します。
殿下におきましては、ご機嫌麗しゅう」
「退屈な挨拶はいいわ。
それよりも、お父様が待っているわ。
待たせるのもまずいから、すぐに行くわよ」
「はい、かしこまりました」
俺たちは城の廊下を歩いていく。
正直自分がどこを歩いているのか、さっぱりわからない。
なんでこんなにも複雑な構造になってるのやら。
働く人が一番困ってるんじゃないかな?
俺たちはある部屋についた。
「ここはお父様の執務室よ。
お父様は寛大な方だから大抵のことは許してもらえるけど、失礼のないようにね」
コンコン。
ノックすると、「入れ」と返事があったので、入った。
入って数歩の場所で、片膝をつき、首を垂れた。
「お父様、Sランク冒険者のジン様を連れてまいりましたわ」
「うむ、ご苦労。下がって良いぞ」
「はい、では失礼します」
「ジン、面を上げよ。
それでは話もできぬ。
そちらのソファーで話そう」
俺たちがソファーに座ると、メイドさんが紅茶を淹れてくれた。
オーユゴック産の甘いやつだな。
「先日の武闘大会、ご苦労だったな。
依頼の形になってしまい、すまん事をしたの。
優勝してくれ他ので、国のメンツも保てれた。あの程度の金額しか出せなかったのを申し訳なく思う。
なにせ、極秘なので国の予算から出すわけにいかなくてな」
「いえ、依頼を完遂したまでです。報酬も納得の上ですから、問題ありません」
「そう言ってくれると助かるの」
「それで、俺はなぜ呼ばれたんでしょうか?」
「うむ、その前に、「お前たち、外に出ていろ」これでよし」
メイドさんたちが部屋を出て行った。
「それでじゃ、お主に頼みたい事があって呼んだわけだが、聞いたら受けないという選択肢はない。
なので、先に受けるつもりがあるか確認したい。
どうじゃ、受けるか?」
「陛下、それでは、受ける受けないを決める判断材料が全くありません。
現段階では、受けない、の一択です」
「それもそうだな。
では、一言、裏の仕事だ」
「裏ですか。闇ではなく?」
「そういう言い方をするのであれば、闇だな。
報酬は難易度相応のものを用意しよう」
「つまり諜報部にもさせれない仕事という事ですか。
確かに、聞いたら後に引けなさそうですね」
裏の仕事なら、諜報部などが対応するだろうし、実際そういう部隊はいるはずだ。
だが、闇の仕事となると、諜報ではなく、暗殺や謀略などに内容が変わる。
さらに、これを受けた場合、国への依存度が高くなる。
正確には、国が離してくれない。闇の部分を他国にバラされるわけにはいかないからだ。
これまで以上に、国からの干渉は大きくなるだろう。
その代わり、国からの信頼も厚くなっていく。
バランスの問題だが、そもそも暗殺や謀略などをするのか?という話だ。
謀略はともかく、暗殺は直接『人間を殺す』行為だ。
魔物を倒すのには慣れたが、人を殺すのに慣れてないし、慣れてもいけないと思う。
盗賊を殺しておいて、今更と言われそうだが、襲われて仕方なく殺すのと、自分から進んで殺すのは違うと思う。
ただ、王家に深いパイプが出来るチャンスでもある。
今回の件、おそらく仕事自体は大したことはないと思う。
試金石として、王家の役に立つか?忠誠度は?能力は?という感じだと思う。
俺はそれらを秤にかけて、答えた。
「お断りします」
「理由を聞いても良いか?」
「はい。今回の件、仕事の出来にかかわらず、王家と深い繋がりを持つことになります。
逆に言えば、王家の弱みを持つことにもなります。
権力に近寄って栄達を望むか、自由にしかし不安定を選ぶか。
私は自分の自由の方を選びます。国に縛られるのは本意ではありません」
「その気持ち、変わらんのだな?」
「もちろんです。軽い気持ちで言ったつもりはありません」
「よし、合格だ」
はい?
色々クソ難しい事考えて断ったんだが、合格?
何に合格したんだろうか?
「そなたには改めて依頼がある。
これは、聞いた後に断ってくれても構わない。
表の仕事だ」
つまり、権力欲があるかどうかを確かめられたという事だろうか?
「東の小国、ヤパンニ王国を知っておるな?
そこに向かう、外交官の役人として行ってもらいたい。
もちろん、外交を任せるという意味ではない。
役人という立場で、護衛してほしいという事だ」
「騎士を連れて行けば良いのでは?」
「普通ならそうなんだが、昨年まで戦争していたこともあり、騎士を派遣するのはいらん刺激を与えることになる。
今回は、停戦協定を友好協定にするための交渉だ。
極めて重要であると同時に、金や権力でつく側を変えるようでは話にならん。
なので、金と権力に対しての嗜好を確認させてもらった」
「ふぅ、それなら普通に依頼してもらえれば良かったんですよ。
私が依頼主を裏切ることはありませんから」
「確認した今なら、そうとも言えるが、確認するまでは確証がなかった。
気分を害したなら、謝罪しよう。すまなかった」
「いえ、それはもう結構です。
それで、達成条件と期間、報酬はどうなりますか?」
「ふむ、冒険者らしい確認事項だな」
「達成条件は大使を生かして国に戻すこと、期間は往復と交渉期間となるが、予定では、向こうで2週間だ。
報酬は前金で金貨50枚、達成で150枚だ」
「交渉のいかんに関わらず、ですね?」
「もちろんだ。ただ、喧嘩別れに終わった場合、大使の命の危険が高まる。そこは承知しておいてくれ」
「わかりました。この依頼受けましょう。
ただし、一点だけ問題があります」
「なんだ?」
「私は現在、リリアーナ様、オーユゴック伯爵家の3女ですが、と2年間の契約を結んでいます。
内容は護衛と、お茶の相手でしょうか?
リリアーナ様と婚約した今、それほど意味のない契約なんですが、契約は契約です。
この契約の最中に他の契約を受けるわけにはいきません」
「なるほど、了解した。
ドゴール伯の方から働きかけさせよう。
それなら問題あるまい」
「はい、よろしくお願いします」
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