093 ヤパンニ王国 (5)


翌日、謁見が開かれた。

この席では、簡単な挨拶と顔見せ程度で、細かい話は文官レベルで話をして決めるそうだ。

もちろん、最終的には国王の承認が必要だが。

ザパンニ王国側は、代理で殿下が調印するらしい。全権代理なので大丈夫だそうだ。


謁見は特に何もなかったが、参列している貴族の中にニヤニヤと笑っているのがいたのが気になった。

ただ単に殿下の胸でも見てるのなら害はないのだが。。。




謁見の後、早速担当者間での打ち合わせに入る。

外務大臣同士での話であり、殿下は席に着かない。


同じ部屋で話していて何か言質を取られた場合、殿下さえ同席していなければ、最悪、部下が勝手にやった事、で済ませれるのだ。もちろん、外聞は悪いが。

なので、外務大臣同士で話し合い、夜に報告を受ける、という形をとる。

俺は役人枠での参加なので、普段はホセさんと一緒だ。一応、書記をしているが、話には加わらない。


食事だけは毒味が必要なので、一緒に取っているが、飲み物などは、俺が確認したもの以外は飲まない方針だ。

殿下が持っているマジックバッグにも食料や水は十分に入れてある。

たまに、お茶に誘われるらしいが、全て断っているそうだ。


<鑑定>の魔法具がないのか聞いたことがあるが、各国の中央神殿か、イングリッド教国くらいにしかないらしい。

どおりで冒険者ギルドの登録時にスキルの確認がなかったわけだ。


それと大事な事を聞いた。一般的に<鑑定>というと、物品鑑定のことを指すのだそうだ。

この<鑑定>持ちはそこそこいる。商売している人は、物品鑑定持ちを雇うのだそうだ。

だが、人物鑑定が出来る『人』はほとんどいない。というか、一人もいないらしい。

人が行う人物鑑定は数十年前にいた大賢者が、魔眼という力を使って初めてできたそうだ。


だが、大賢者の魔眼と神殿の<鑑定>には違いがある。神殿の人物鑑定では、スキルはわかるが、レベルは表示されない。大賢者はレベルの話をしていたが、冗談だと一笑にふされたらしい。

イングリッド教国が、自国の<鑑定>より優れた<鑑定>を認めなかったとかいう説もある。


メイドのドロシーさんは<鑑定>持ちらしい。が、レベルが低いようで、はっきりとした即死レベルの毒はわかるが、薄められたりすると、わからないそうだ。通常、レベルの事はわからないので、才能のあるなしで言われるらしい。

それで、俺の<鑑定>を頼っている。

そう、俺の<鑑定>も『才能がある』のだと思っているのだ。実際には大賢者の魔眼レベルの物品鑑定と人物鑑定が出来るのだが。殿下のスリーサイズも知ってるよ?ダカラナニカ?




交渉は比較的スムーズに進んでいた。

不思議に思うくらい、問題が起こってない。

こちらの要求にもある程度譲歩するほどだ。

事前にべスク王国から、どの程度の譲歩が必要か言われていた可能性もあるが、何か策があると思った方が良さそうだ。




7日目の事だ。

俺とホセさんは交渉の最中だ。


メアリー殿下のもとに、ヤパンニ王国の王子が訪問してきた。

流石に殿下も王族の訪問は断れずに、挨拶したそうだ。

その時、土産だと称して、菓子とワインを差し入れし、一緒に飲もうと誘われたので、仕方なく一緒にお茶(酒)をしたらしい。

王子は始終ご機嫌だったらしい。


「メアリー王女殿下、どうですか、私と婚姻など。

私は王太子です。殿下ほどの美貌の持ち主が王妃となってくれれば、鼻が高いというものです」


「酒の席で話すことではありませんよ。

それに私はまだ結婚するつもりはありません」


と断ったとか。

当然だ。結婚すれば縁戚になり、賠償など請求しにくくなる。


王子も流石に受けてもらえるとは思ってなかったのか、冗談ですと、笑っていたそうだ。



だが問題は、その後、殿下の体調が悪くなったことだ。

明らかに王子が毒を盛ったのだが、ワインの瓶もケーキの皿も回収されている。

どんなに怪しくても、それで責任は追及できない。


俺たちが報告しに戻った時は、ベッドに寝ていた。

ドロシーさんから事情を聞いた俺は、<鑑定>で視てみた。

体力が減っている。毒の有無は<鑑定>でも分からないので、体力が減っている以上、麻痺系ではなく、毒系だろうと見当をつけるしかなかった。


俺は殿下が意識を取り戻した際に、二人だけにしてもらえるなら助かる方法はあると告げると、即座に了承した。

このままでは、原因不明の病死という扱いになるだろうし、明日になってまだ生きてたとしても、医者がちゃんとした薬を出してくれる保証はない。


俺はホセさんとドロシーさんが部屋を出て行ったのを確認して、部屋に鍵をかける。

殿下は意識が戻っており、俺の方を向いていた。


「殿下、これから行う事は秘密でお願いします」


「わかりました。第一王女の名にかけて口外しないことを誓いましょう」


俺は、殿下の額と腹のあたりに手を置き、<神聖魔法>の魔力を通した。

殿下は何か熱いものでも通ったかのように呻いたが、そのまま続ける。

俺の感覚では、体の中に不純物というか、何か違和感のあるものが存在したのだ。

それを<神聖魔法>の魔力で排除するイメージで魔法を使う。


イングリッド教国の教皇でも裸足で逃げ出す、<神聖魔法>lv13で使う魔法だ。治らないものはないと思いたい。


俺は違和感がなくなってからも少しの間、魔法を流し続けていたが、問題ないと判断し、手を離した。

次第に殿下の息が落ち着いてきて、上半身を起こした。


「殿下、ご気分は?」


「ええ、もう大丈夫です。

しかし、今のは<神聖魔法>では?神官にしか使えないはずなのに」


「殿下、この事は内緒だと言いましたよ。

余計な詮索もなしです」


「そうでしたね。失言でした。ありがとうございます。おかげで無駄死にせずにすみそうです」



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