094 ヤパンニ王国 (6)
俺は鍵を開け、二人を招き入れた。
メイドも入ってこようとしたので、無理やり追い出した。
「俺の持っている秘薬で、殿下を治療しました」
棒読みだ。
「ええ、この件に関しては別途料金を支払いましょう。秘薬の値段設定が難しいですが」
殿下も俺の嘘に乗ってくれた。
どのみち、魔法の話が出来ないなら、なんと言い訳しても一緒だろう。
俺たちはこれからの事を相談することにした。
メイドが扉に引っ付くようにして、耳を澄ませているのを<魔力感知>で把握していた俺は、風の障壁を張った。
「メイドが耳を澄ませていますが、風の障壁を貼りましたので、会話は聞こえないはずです。
今のうちに、今後の話を決めてしまいましょう」
「そうですね。
毒はある程度覚悟していましたが、ヤパンニ王国の非を問えないやり方は考えてませんでした。
まさか、遅効性の毒にこれほどの威力があるとは。
ダンジョン産の毒なんでしょうね。下手すると、解毒薬もない可能性もありました。
ジン様の『秘薬』がなければ死んでいたでしょう。
改めて感謝します」
「対価を払ってもらえるならそれでいいですよ。
それよりも、これからです。
同じ毒は使わないと思いますが、似たような事はしてくるかもしれません。
メイドの証言から、俺が直した事は伝わるでしょうし、間に合わなくなるほど、交渉に時間をかけられる可能性もあります」
ドロシーさんが聞いてきた。
「ジン様、もう秘薬は。。。」
「流石に幾つも持っていません。持っていたとしても切りがないでしょうし」
殿下が話に入ってきた。
「ジン様、役人役として参加してもらいましたが、今後は私の護衛役として付いていてもらえませんか?
今回の件も、ジン様が<鑑定>してくださっていたら、防げたかもしれません。
ホセには負担をかけることになりますが、私が無為に死んでしまったら、交渉も何もなくなります。
下手をすれば、我が国が言いがかりをつけるために、王女が服毒自殺した、とくらい言いかねません」
「流石に、そこまでは、、、」
「いえ、ヤパンニ王国ならやりかねません。
それに、そうとでも考えないと、遅効性とはいえ、致死性の毒を盛る意味がわかりません」
殿下は、自分が殺されるのを前提で話をしているようだが、俺が一緒なら殺させないよ?
「殿下、私が同行するのは構いませんが、急に役人が護衛になったら、流石に変じゃありませんか?」
「最初からホセの護衛だったといえば良いのです。隠していたのは申し訳ないが、重要な交渉ゆえ護衛をつけていたと。不審には思われるでしょうが、これならゴリ押せます。
それに、今回のことが失敗したと分かれば、今話している交渉も承認されない可能性があります。
折角有利に話を進めているのです。このまま押し倒します」
押し倒したらダメなような気がするが、殿下はお怒りらしい。
「ホセ、明日からは私も同席します。というか、私が直接交渉します。ヤパンニ王国からもそれなりの地位のものを出してもらってください。
今話し合っているものをベースに早急に話を詰めます。
時間を与えれば与えるほど、卑怯な手を使ってくるでしょう。
今回は、策があったために、どうせ意味のなくなる交渉だからと、こちらに有利な話になっていましたが、今後も続くとは限りません。なので、次の仕込みに入る前にケリをつけます。
ホセ、良いですね?」
「は、殿下の御心のままに」
「では、暗殺者対策のため、ジン様には私の部屋に泊まってもらいます」
「は?」
「今後は直接的な暗殺も考慮する必要があります。
ならば、護衛も手元に置く必要があります。
私が直接交渉する以上、最悪ホセが殺されたとしても交渉をなかったことにはさせません」
「いや、しかし、まずいでしょう?王族が男と同じ部屋で寝るなんて、何もなかったとしても問題あるでしょう?」
「いいえ、今回の事は私の嫁入りよりも重要な事です。いえ、先ほどなりました。
ヤパンニ王国には誰に手を出したか、後悔させてやります」
思ったよりも怒っていたようだ。
しかし、王族の嫁入りより大事って、よっぽど腹に据えかねたんだな。
平民の俺なんかと噂になったら、本当に結婚できなくなる。
ヤパンニ王国は、これ幸いと言いふらすだろうし。
殿下はそれをわかっていて、決断したのだろう。なら、俺にいう事はない。
「ですが、ジン様には責任は取ってもらいませんと」
「はい?」
「ええ、ですから嫁入りが出来なくなったら、ジン様に責任を取っていただきたいと」
「ええと、俺が誹謗中傷されるのは依頼の範囲内でいいとして、結婚は流石に範囲外ですよ?」
「では、他に良い案がありますか?」
「いや、交渉はともかく、私が責任を取るのを予定に入れるのはやめてください」
「では、その話は国に戻ってからにしましょう」
いや、国に戻ってからもダメですからね?
リリア様が泣きますよ?
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