084 武闘大会 (2)


「ジン様、武闘大会に参加されるのですね。

応援しておりますわ。

とりあえず、すぐに王都に向かわないといけませんね。

夏休みは終了という事で」


リリア様に応援されてしまった。


一度は捨てることも検討したと言ったらどうなるだろうか。

まあ、言わないが。



俺はすぐに王都に向かった。



それから俺は、役所に提出する書類や、試合で怪我をしても文句を言わないと言う誓約書など、いろんな書類にサインをさせられた。

もちろん、全て読み、貴族に叙するとか、騎士団に入るなどの条件が付いてないことを確認した。




そして俺は何故か、王宮のバルコニーで笑顔で手を振っている。


大会の出場者は国の顔なので、一般市民に顔見せが必要なのだそうだ。

俺は、用意されたスピーチの原稿を持ちながら、引きつった笑いを浮かべている。


「私はこの国で育ち、冒険者としてみなさんの役に立てるように頑張ってきました。

国にも大変お世話になり、先日はSランクに認定していただきました。

それもこれも、陛下のおかげであり、、、、、、

、、、、、、

、、、、、、

、、、、、、と言うことで、全力で戦うことを誓うものであります」


一礼して、一歩下がる。


そして、陛下が一歩前に出て、声を張る。


「我が国の代表となった、Sランク冒険者ジンに拍手を!」


バルコニーの下にまで来ていた一般市民が一斉に歓声をあげた。


俺はそれを見ながら、なるほど、人が蟻に見えると言うのはこう言うことなのかと思った。

上から見ると、人の顔など分からず、ただ人が沢山いるとだけ認識できる。

陛下はいつもこんな風景を見ているのだろう。


もし、貴族もこう言う風に見て育っていたなら、傲慢になるのも分かる気がする。

本当に別世界なのだ。

見ているものが違う。


俺はそれを感じながら、これが当たり前になったら終わりだな、と思った。




その後は、パレードだ。

王宮から出発して、大通りを回っていくのだ。

天井のない、立派な馬車に座り、笑顔で手を振りながら練り歩く。


どの道を通っても人が大勢いて、兵士が道を塞がないように、制限している。

手を振るたびに歓声が湧き、自分が特別になったような気分にさせられる。


先ほども思ったが、これに慣れたら終わりだな。





夜は舞踏会だ。

貴族が大勢集まっている。

下級の貴族から順番に会場入りし、最後に陛下が入場する。

だが、今日は陛下の後に俺が入る。


陛下が壇上に上がった後、俺が入場し、謁見のようなスタイルをとる。


入場した後、絨毯の色が変わるあたりで止まり、膝をついてこうべを垂れる。

すると陛下が「面をあげよ」と言って、顔を上げさせ、改めて出場の祝いと期待するとの言葉をいただく。

俺もそれに合わせて、全力を尽くすと表明する。


出場を依頼しておいて、良く言うと思ったが、顔には出さない。


舞踏会が始まると、貴族との挨拶が始まる。

今日の主役は俺なので、上級貴族から順番に挨拶される。

純粋に期待してくれている人から、平民風情が、と見下して来る者までいろんなのがいた。

見下して来るのには、下級貴族が多いようだ。

上級貴族は別に平民を下に見なくても、下に下級貴族が沢山いるのだ。特に気にしてないだけだろう。


そして、一通り挨拶をすると、会場に音楽が流れる。

楽団による生演奏だ。

貴族の男女がホールの中程に出て、くるくると踊る。


俺はダンスができないと断っていたのだが、断れない相手が来た。

リリア様だ。


「ジン様、武闘大会の出場おめでとうございます。

貴族の一員として、我が事のように嬉しく思います」


ここは、男の方からダンスに誘うのが作法だ。


「リリア様、祝辞ありがとうございます。

武闘大会には全力で向き合う所存です。

ぜひ、期待していてください」


周りから注目が集まっている。

俺とリリア様の婚約の逸話が広まっているようだ。

先ほどまで、ダンスを断っていた俺が、ダンスに誘うのか気にしているのだろう。


「リリア様、一曲踊っていただけませんか?」


「喜んで」


ここでリリア様に恥をかかす訳にいかない。

俺はこっそりとリリア様にダンスの経験がない事を伝える。


「大丈夫ですわ。私がリードしますので、自然に合わせていただければ、大丈夫です」


男としてリードしたいのは山々なのだが、ダンスなどテレビで観れればいい方だ。

たまに社交ダンスの大会が中継されていたが、みんな似たような動きで、何が採点されているのかさっぱり分からなかった。

タンゴ?は女性が足を振り上げたり、激しく動いていたので、見応えはあったが。。。


なんにせよ、リリア様が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。

俺はリリア様に合わせるように、右を向いたり、左を向いたり。足を踏まないようにだけ注意して体を動かした。

すると不思議なもので、だんだんとどう動けば良いかわかって来る。

リリア様の手や腰の動きに合わせて、ホールをくるくる廻る。


何曲か踊って、膝をついて手の甲にキスをして終わる。



すると、他の貴族の子女たちが再度押し寄せて来る。

リリア様と踊ったのだから、自分たちも可能性があると考えているのだろう。


誰が誰なのか分からないので、適当に選んでダンスを踊る。

リリア様のリードがないのに踊れるのに驚く。

もしかして、と思って<ステータス>を見ると、<舞踏>のスキルが付いていた。


もしかしなくても、このスキルも上限を極めないといけないのだろうか?


10曲くらい踊っただろうか。疲れが見え始めた頃に、ようやく音楽が止み、舞踏会が終わる。


終了も陛下の宣言で終了となる。



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